テレワーク推進が進み、対面でのコミュニケーションの価値が見直されています。このような状況の中、オフィスの効率化や感染症対策を進めながらも、組織や事業に寄与する働く場づくりを行うことを両立していく必要が出てきました。
そこで、株式会社OKANでは、オンラインセミナー「効率化とカルチャー醸成をどう両立するか?」を開催。完全リモートを採用するニット、オフィスにおけるサブスクサービスを展開する2社(subsclife、OKAN)が集まり、これからのオフィスに必要な考え方を徹底討論しました。

オンラインセミナー登壇企業
3社が語る本音「オフィスいる?いらない?」
まず最初に「オフィスいる?いらない?それはなぜ?」という、各社のオフィスの必要性に対する考えをききました。
オフィスは万能薬。今だから、リアルが活きる。|株式会社subsclife
株式会社subsclifeは、「家の中を、世界一、豊かな国へ。」というビジョンのもと、個人および法人向けの家具のサブスクリプションサービス「subsclife(サブスクライフ)」を運営しています。家具ブランド400社と提携しており、その売り上げの9割は法人向けが占めているそうです。
同社の小宮氏は、対面コミュニケーションの重要性に変化が生まれた、と話します。
小宮氏「リモートワークは、今の仕事を維持するという点では機能できます。しかし、ニューノーマルな時代だからこそ新しいことに挑戦していかなければ、会社として継続的な成長は難しいと考えています。リモートが前提のなかで、”リアルを活かす”ということが、より重要になってくるのではないでしょうか。
そのときに、オフィスという場は”万能薬のような役割”を果たすと思います。」
働く場所から関係構築・文化醸成の場所へ|株式会社OKAN
株式会社OKANは、ミッションである「働く人のライフスタイルを豊かにする」の実現のため、置き型社食の福利厚生サービス「オフィスおかん」および、人材定着のための組織サーベイ「ハタラクカルテ」を提供しています。企業が抱える課題を解決する新しいアプローチのツールとして業種・規模問わず多くの企業で活用されています。
同社の今村は、「オフィスはあったほうがいいが、今後は役割が変わる」とオフィスが持つ役割の変化について指摘します。
コロナの前のオフィスは、帰属意識を高めたり、集中する場所として「働く」を目的にしたもので使われていました。一方、リモートワークが一般的になってきたなかで、自宅もしくはサードプレイスでも働くことが増えて、そちらの方がメリットを感じることもあると話します。
では、オフィスはどういった役割をwithコロナでは、担うのでしょうか。
今村「オフィスは関係構築、文化醸成の場所になってくると思います。リモートワークによって、孤独感や不安感を感じるようになったという外部データもあります。弊社にも4月から新入社員がいましたが、やはり孤独感を感じていたように見えましたね。」
リモートワークによって生じた課題
ハタラクカルテで測定を行った結果、リモートワークで悪化した要素には特徴があるとわかりました。
「コロナのビフォーアフターで、良好な人間関係、業務量、時間的負担、休暇の取りやすさ、そしてメンタルヘルスの数値が下がっていました。関係構築、またメンバーのメンタルや体調管理はリモートだけでは良い方向に進みづらいと言えるでしょう。」
「業務遂行だけならオフィスは要らない!」|株式会社ニット
株式会社ニットは、「自分の時間を確保し、理想的な暮らしと仕事の実現をサポートするサービス」としてオンラインアウトソーシングサービス「HELP YOU」を運営しています。創業時からフルリモートを前提としたマネジメントを実施し、現在400名のリモートワーカーが在籍しています。
同社の小澤氏は、リモートワークの悩みの変遷にふれながら、オフィスの必要性に一石を投じました。
小澤氏「おそらくほとんどの方が、目の前のタスクをこなすだけならばオフィスはいらないと、もう感じているのではないでしょうか?
リモートワークの悩みは変遷すると言われており、半年が経過した段階でミスコミュニケーションや孤独感といった問題の発生が考えられます。よって、業務遂行だけでない部分をどう設計していくのか、というのが今まさに検討するタイミングなのです。」
株式会社ニットは、400人全員フルリモートという環境であるため、むしろオンラインでどう文化を作っていくか設計を考えていると小澤氏は言います。
これからのオフィスの役割を探る
各社がオフィスの必要性に関して、ディスカッションしました。その必要性とは別に、これからのオフィスの役割についての話題となりました。
オフィスが担う3つの機能
小宮氏は、これからのオフィスが担う3つの機能を示しました。
小宮氏「お客様との対話の中で、オフィスはこの会社で働く理由を体感する場所である、ということに気付きました。つまり、文化づくりの拠点としてオフィスがなかなか良い機能を担ってくるのではないか、ということです。」
①チーム交流
特に、新しいメンバーがたくさん入ってくる時期に、それぞれの会社らしさをどのようにして考えてもらうか。
②企業方針の確認
リモートになって業務はできるが、会社がどこに向かっているのか、今どういう状態なのか、といった点は分かりにくい。オフィスであれば隣の部署が話している内容が聞こえてきたり、雰囲気や一体感を感じたりすることができる。
③創造の時間
5人以上のディスカッションやブレインストーミングを実施しようとしたとき、オンラインだと円滑なディスカッションを行うための障害が多い。活発なディスカッションによって良いものを生み出すという場所として機能する。
株式会社ニットにもオフィスがある!?
社員全員フルリモートという株式会社ニットにも、実はオフィスがあるそうです。
小澤氏「オフィスはもともと無く、『みんなが帰ってこられる場所をつくりたい』という社長の想いから、設立して5年目に初めて作りました。ちょっとした会話やディスカッションだったり、温度感を感じるのはオフィスの方が伝わりやすいですよね。」
株式会社ニットでは出社義務はないため、オフィスに行くのも選択肢の一つ、という位置付けになっていると言います。
★ニット小澤氏がオフィスの存在意義について詳しくまとめた記事はこちら
【オフィスの存在意義】400人メンバー全員がテレワークで勤務中のニットがあえてオフィスを構える意味
withコロナ時代に必要なオフィス効率化の視点を考える
とはいえ、出来ればコストは削減したいところ。オフィスの役割を再定義しながら、どのような視点で効率化していけばよいか、2社の意見を見ていきましょう。
「コトを因数分解し、リアルでしかできないことを」
さまざまな企業が模索する、効率化だけではない視点について小宮氏は語ります。
小宮氏「コストが削減できたから成功かというとそうではありません。今まで自然とできていたことを因数分解して、リアルでしかできないこと、リアルで投資すべきコストを見つけるタイミングであると感じています。効率化だけでなく、“残す”ことの議論が必要になってくるのではないかと考えています。」
「ABWから見るこれからのオフィスのカタチ」
今村は、株式会社OKANのオフィスマップから、ABWという働き方についても言及しました。
「コストというよりは、コミュニケーションや働く生産性の効率化という視点で話すと、オフィスはコラボレーションやチームビルディングの場所であるべきだと考えています。
OKANでは、一日の中で気持ちと場所を切り替えながら仕事をしていく状況を作っていて、さまざまなスタイルで仕事をすることができるのが特徴です。ABWという働き方に自宅が加わったのが直近の状況であり、これは効率化につながるこれからのオフィスのカタチではないかと思っています。」
小澤氏の働く場所を選択する働き方と、考え方においては似ていることがわかります。
移動による偶発性が生まれるのは、ABWの価値であるということができるでしょう。
ABWについて気になった方はこちらの記事もご覧ください。
関連記事
コロナ禍で注目される”ABW”とは?フリーアドレスより進化した自由な働き方を解説
抑えておきたい文化醸成・組織活性化のポイント
カルチャー醸成に必要な3つの空間
今村によると、社内の文化醸成には大きく分けて3つの空間が必要だといいます。
①ラウンジ空間
・偶発性のある出会いや会話
・越境して人が混じり合う環境
・雑談や余談のコミュニケーション
マグネットスペースの重要性
・気軽なコミュニケーションが取れる
・偶発的な出会いが生まれる
・比較的設置が容易
今村「椅子に座ってパソコンに向かう仕事をするだけでなく、休憩時間に人が集まり仕事とは別の話をする空間が、これからのオフィスには必要になってくるのではないでしょうか。」
②シンパシーを感じる空間
・ミッションや理念の浸透
・可視化された象徴
・五感で感じとる空気感や一体感
今村「会社は組織であり、1つの目標に向かって進んでいくものです。
1つの理念の浸透という意味で、オフィスという空間が必要なのではないかと考えています。」
③アットホームな空間
・帰属意識を生む
・リラックスする場所
・安心や信頼を感じる
今村「オフィスには、仲間意識や帰属意識を生むような空間が今後必要となると思います。リモートワークの中で、共に働く仲間に会うことでリラックスをしたり、使命感を感じられる場所が必要なのではないでしょうか。」
同じ釜の飯を食べるという言葉のごとく、団欒して食を囲むことで、企業内にアットホームな雰囲気が作れそうですね。
カルチャー醸成の三大要素
さらに、カルチャー情勢に必要な三大要素を小宮氏は提示します。
小宮氏
「それぞれの会社にとって、オンラインとオフライン、自社はどういうバランスが良いのかという正解は異なります。
やはり今の時代、効率性に目が行きがちですが、この3つを掛け合わせ、自分たちらしいオフィス像を整理することで、社員の満足度や幸せに働ける環境に繋がってくると考えます。」
小宮氏によれば、いわゆる会議室のようなオフィスではなくアットホームな場所が欲しいという相談が増えているといいます。しかし、そういったアットホームな場所自体も定着するとは限りません。試行錯誤を繰り返し、自分たちらしいオフィスのカタチを見つけていくことが理想だといえるでしょう。
オンラインで文化醸成を行うポイント
ある意味コロナによって、よりよいオフィスを作るきっかけができたともいえます。
オフィスでの文化醸成に、あえてオンラインで挑まれている株式会社ニット。オンラインで文化醸成を行うポイントを聞いてみました。
小澤氏「オンラインの設計をするよりも、綿密なオフラインでのコミュニケーション設計が重要だと考えています。これからはオンラインがメイン、オフラインがサブになるからこそ、いつ出社するのかが大事です。」
実際に、株式会社ニットが行っているオンラインの文化形成を紹介します。
業務に関するものから業務外に関するものまで、なんと23個のオンラインコミュニティが。このような取り組みによって、繋がりや心理的安全性の創出、文化醸成が実現されています。
また、社内イベントも開かれ、メンバー間の活発なオンライン上コミュニケーションの場となっていると小澤氏は言います。発案は手が上がった人から、そこに全員が巻き込まれていくというのは驚きですね。
・オンライン忘年会
・世界33か国のメンバーをつないで世界一周旅行
・オンラインお花見
・子どもオンライン職場体験
企業は思い思いのオフィスのカタチを
ディスカッションを経たうえでの各社ひとことアドバイスをまとめました。
株式会社ニット 小澤氏
「決まりというものはありません。前提として、教育面も文化醸成の面でもオフラインよりオンラインの方が難しいです。しかし、そこにはメリットもあるからこそ、それぞれの会社がオンライン・オフラインのバランスを考えていくことが大事だと考えます。」
株式会社subsclife 小宮氏
「オンラインのコミュニケーションを良い意味でドーピングととらえ、どんどん活用していきましょう。リアルはとても簡単だ、ということに気付けたことがこの1年の一番の気づきではないでしょうか。」
株式会社OKAN 今村
「やはり我々は企業であり、しっかりと自社のサービスやプロダクトを良くして顧客に価値を提供して売り上げ・利益を創出する活動をしていかなければなりません。そういった意味で、どのように従業員の満足度を向上させるか、原点回帰する必要があると考えます。
従業員のことを今一度見直し、どのような環境で働くことが最終的にお客様の満足度を生み、企業が必要な売り上げ・利益を創出するかという点につなげていくところを改めて考えていけば良いのではないかと思います。」
オフィスはいる?いらない?という議論からスタートし、三社それぞれが自社にあったオンライン・オフラインのバランスのとり方をしていることが分かりました。正解というものはなく、それぞれの会社が持つ文化に浸透しやすいカタチづくりが、今後のオフィスの課題となってくると言えそうです。
