「アジリティ」とは、不確実性の高い時代において、企業が的確な判断を下し変化を続けるために必要となる能力です。AIを活用したサービスのような、従来はなかったものが数日にして世界中に広まる時代において、変動性や不確実性に対応するための重要なキーワードとなっています。
ここでは、アジリティの意味とアジリティの高さがもたらすメリットについて解説するとともに、組織のアジリティを高めるポイントを紹介します。

アジリティとは?
アジリティ(Agility)とは、「機敏、軽快さ」を意味する単語です。ビジネス領域では、単に素早い行動を意味するのではなく、経営上での的確な判断および行動の素早さを意味します。
昨今の不確実性・不透明な時代においては、企業が生き抜くための重要な要素として注目されています。
俊敏性(クイックネス)との違い
早さを表現する言葉には、いくつかの種類があります。俊敏性(クイックネス)もその一つです。アジリティと、他の早さを表す単語との違いを理解するには、スポーツにおける「SAQ」という早さの定義が役立ちます。
SAQとは、「スピード(Speed)」「アジリティ(Agility)」「クイックネス(Quickness)」の頭文字をとった言葉です。スポーツの世界ではSAQでスピードの種類を細分化し、それぞれの能力を鍛えるためのトレーニングを体系化しています。
スピードは重心移動の速さを指し、短距離走のようにトップスピードの速さを意味します。クイックネスは、刺激に反応し早く動き出す能力を意味します。そして、アジリティは運動時に身体を思うようにコントロールする能力を指します。
たとえば、目的地が決まっていてそこに向かって素早く動き出す能力はクイックネスに分類されますが、目的地が不確実であったり、複数ある段階で、状況に合わせて最適な判断をし素早く行動する能力は、アジリティです。
ビジネスにおいては、クイックネス=経営方針に従い素早く行動する能力ではなく、アジリティ=的確な判断と行動の素早さが重要視されています。
アジリティが重要視されている理由
時代は今、「VUCA(ブーカ)」と呼ばれる不確実で予測不可能な状態を迎えているといわれます。VUCAとは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった単語です。アメリカで1980年代に軍事用語として登場した言葉ですが、近年の経済分野でも使われています。
たとえば、2020年版『ものづくり白書』でも、VUCAについて言及されています。それによれば、現代は世界中がインターネットで結ばれており、どこかで変化が起こると瞬時にその変化が広がり、ゆえに不確実であるというものです。
不確実な時代において、変化を機敏に察知または予測し、必要な行動を迅速に行える能力が組織・個人に求められています。
アジリティが低いことは組織にとってリスクに!
アジリティの低さは、組織の将来性や成長に大きな影響をもたらします。外部環境の変化に疎いため、組織が生き残るために必要な行動を取れず、結果として企業の競争力や売上が停滞してしまうのです。
逆に、アジリティが高い組織は、既存の経営資源を環境変化と組み合わせ、新たな経営機会を創出する能力に優れています。たとえば、外国人旅行客の増加に伴い、外国人をメインターゲットとしたビックカメラとユニクロの『ビックロ』は、時代の流れを予測しながら行動に移した、アジリティの高さの結果といえるでしょう。
アジリティが高い人材の特徴
アジリティの高さは、以下のようなメリットを人材にもたらします。
①業務の効率化がすすむ
アジリティが高い人材は、意思決定を素早く行えます。たとえ以前から職場で引き継がれてきた業務フローであっても、「不必要」と判断でき、現場での改善を行えます。新たな業務システムの導入など、変化に対する適応力も高いため、業務の効率化が進みます。
②フレキシブルな対応ができる
アジリティが高い人材は、予測不可能な状況でも自分で判断し行動に移すことができます。そのため、顧客のニーズに応じたフレキシブルな対応が可能です。マニュアルにはないケースでも、臨機応変にトラブルを処理できます。
③有効なノウハウを蓄積できる
アジリティの高い人材は、行動力に優れているため、経験値が上がります。経験を通じてノウハウを蓄積しており、想定外の事柄に対する行動力や対応力が磨かれます。
④リーダーシップが磨かれる
的確な判断と行動を経験した人材は、他者を導くリーダーシップが鍛えられます。アジリティが高い人材が豊富な職場では、各々が自律的に考え行動する能力に優れています。
アジリティが高い組織の特徴
また、組織的にアジリティが高い企業では、以下のような行動が見られます。
①問題解決が早い
なんらかの課題に直面した場合、アジリティが高い組織は素早く問題に対し行動できます。環境変化を察知し、状況に応じた判断をいち早く下すことができるため、問題の「先送り」が発生しません。結果として、組織に変化をもたらし、成長を良い方向に導きます。
②ビジョンや価値観を共有できている
アジリティが高い組織の特徴として、従業員間でのビジョンや価値観の共有率の高さが挙げられます。経営層だけでなく、従業員ひとり一人が経営方針や組織の在り方を理解しているため、組織が必要とする変化を予測し行動に移せるのです。
③コミュニケーションが活発
アジリティの高い組織では、個人がさまざまな方面にアンテナを張り、情報収集を心がけています。そのため、普段から業務で接するメンバー同士はもちろんのこと、部署を横断して従業員同士がコミュニケーションを図る機会が多く設定されています。
④柔軟な発想力と対応力がある
アジリティの高い組織は、柔軟な発想力や対応力を発揮します。逆に旧来のやり方や、過去の成功体験に固執する組織では、新たなアイディアが生まれにくく、時代の変化に乗り遅れてしまうことも珍しくありません。アジリティの高さは、たとえこれまでに経験のないような要素でも、素早く的確に対応できます。
アジリティを高めるために企業がやるべきポイント
従業員個人、そして組織全体のアジリティを高めるために、企業ができるポイントをご紹介します。
従業員の裁量を大きくする
従業員が的確な判断を行い行動するには、現場にある程度の裁量がなければいけません。上司の指示に従うだけでは、判断力や行動力は育たないからです。裁量が与えられれば、責任も同時に増え、従業員は適切な方向を考えるようになります。
行動に起こすまでのスピードも速まり、なにか問題が発生したとしても素早く対応できるようになるでしょう。
経営理念やビジョンを浸透させる
素早い行動は、経営方針や時代の変化に適しているからこそ意味を成します。従業員の判断が、組織として望ましい方向になされるためには、日頃から経営方針や組織の在り方を共有することが重要です。社内方針が変わる際は、全社総会などを開き直接伝える機会を設けると共に、社内のイントラネットやウェブサイトで発信します。言語化された組織の在り方は、従業員が組織が重視する価値観や方向性を理解するのに役立ちます。
関連記事
MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは?
ITツールを導入する
組織のアジリティ向上を邪魔するものの一つに、「意思決定の長さ」が挙げられます。たとえば、一つの稟議の承認に数日かかるような業務フローでは、いくら判断が的確であっても、迅速な行動は難しくなります。
そのような場合には、ITツールが役立ちます。たとえば、スマホで承認可能なワークフローシステムを導入すれば、上司が出張や外出している場合も稟議を確認することができ、承認までのプロセスを短縮できます。意思決定のプロセスの簡略化・効率化につながり、組織のアジリティが向上します。
アジリティの高さは組織の成長につながる
世界の変化のスピードは日々加速し、企業はどのような変化が起きた場合にも柔軟に対応する行動力が求められます。組織内のアジリティを高めることは、新たな経営チャンスをつかみ、組織が成長するために重要なポイントです。不確実性の高い時代で、持続的な成長を実現するためにも、ポイントを押さえ人事施策等に反映してみてはいかがでしょうか。
