毎月の給与として、基本給と合わせていろいろな手当を支給している企業も多いのではないでしょうか。手当を充実させることは従業員のモチベーション維持、向上にも大きく影響します。
時間外手当(残業手当)や通勤手当、住宅手当など一般的な手当から、最近ではテレワーク手当など新しい手当もよく耳にするようになりました。
この記事では、法律で定められた手当と会社独自の手当、非課税になる手当といった基本的な知識から、最近導入が増えている新しい手当の紹介までくわしく解説していきます。
手当とは何か?
「手当」とは、企業から基本給以外に支払われる賃金のことを指します。残業手当や通勤手当、住宅手当など、さまざまな種類があります。
手当には法律で定められているものと会社が独自で定めているものがあり、法律で定められている手当を支給しない場合には労働基準法に則り罰則が課されます。
会社が独自で定めたものについては特に罰則などの規定はありません。
手当と福利厚生の違いは?
手当は条件に該当する従業員のみ対象となるのに対し、福利厚生はすべての従業員が対象となる点が大きな違いです。
福利厚生には法律で定められている「法定福利厚生」と、企業が独自に定めている「法定外福利厚生」の2種類があります。
法定福利厚生は雇用保険、健康保険、労災保険、厚生年金保険、介護保険といった社会保険料の企業負担や児童手当拠出金のことを指します。
法定外福利厚生は企業により異なりますが、交通費の支給や持ち家の援助、社宅の提供といったものや、健康診断や人間ドック費用、育児・介護に関連するものなど多岐に渡ります。
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法律で定められている手当の種類
労働基準法で定められている手当は以下の3つです。
・時間外手当(残業手当)
・休日手当
・深夜手当
この3つの手当はすべての会社で支給しなければならない手当で、従業員を労働時間外や休日、深夜に働かせた場合、会社は割増賃金(基本給に割増率を乗じた金額)を支払います。
時間外手当(残業手当)
時間外手当とは、一般的には残業手当とも呼ばれ、以下の条件に該当する場合に支払われます。
条件
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割増率
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法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えたとき
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25%以上
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時間外労働が限度時間(1カ月45時間、1年360時間等)を超えたとき
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25%以上
(25%を超える率とするよう努めることが必要)
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時間外労働が1カ月60時間を超えたとき
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50%以上(中小企業は25%以上※)
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参考:
「しっかりマスター労働基準法 割増賃金編」
東京労働局
(※)2023年4月1日からは中小企業においても50%以上に引き上げられます。
たとえば、1日7時間で週6日勤務した場合、1日8時間は超えませんが週42時間労働となるため、2時間分の時間外手当が支給される計算です。
休日手当
休日手当とは、以下の条件に該当する場合に支払われる手当です。
条件
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割増率
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法定休日(週1日)に勤務させたとき
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35%以上
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法定休日とは、労働基準法35条で規定されている休日のことをいいます。会社は従業員に対して毎週少なくとも1回の休日を与えなければならないとされており、その休日を与えず勤務させた場合に休日手当が支給されます。
深夜手当
深夜手当とは、以下の条件に該当する場合に支払われる手当です。
条件
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割増率
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22時から5時までの間に勤務させたとき
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25%以上
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これら3つの手当はどれか1つだけ支給される場合もあれば、従業員の勤務状況によりすべて合わせて支給される場合もあります。
割増賃金の算定に含まれるもの
割増賃金の基礎になるのは、所定労働時間の労働に対して支払われる1時間当たりの賃金額です。たとえば月給の場合、月給を1カ月の所定労働時間で割って1時間当たりの賃金額を算出します。
原則、基本給以外の手当も算定の基礎に含まれますが、以下の①〜⑦については除外されます。
①家族手当
②通勤手当
③別居手当
④子女教育手当
⑤住宅手当
⑥臨時に支払われた賃金
⑦1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金
ただし、このような名称の手当であればすべて除外されるわけではありません。
家族手当、通勤手当、住宅手当については、従業員の状況に関わらず一律の金額を支給している場合、算定の基礎に含まれます。
【手当の種類】会社が任意で支給する手当の種類
法律で定められていない手当は、会社ごとに就業規則によって定めることができます。一般的によく定められている手当は、以下のようなものがあります。
通勤手当
自宅から勤務先までの通勤にかかる費用を支給するものです。バスや電車など公共交通機関を利用する場合は定期代などを実費で支給し、自動車や自転車などの場合は通勤距離によって支給される場合が多いです。
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出張手当
従業員が勤務地以外の場所に出張した際に支給します。出張に要した交通費や宿泊費(出張旅費)とは別に、一律で支払われるものです。
住宅手当
従業員が住む住宅の家賃やローンなどの補助を目的に支給します。会社が自由に決められるため、一律支給や家賃の額に応じて支給するなど形態はさまざまです。
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地域手当
会社の拠点が複数ある場合、地域による物価などの差を埋めることを目的として支給される手当です。おもに物価が高い都市部に勤務する従業員に対して支給されます。
役職手当
役職に応じて支給する手当です。主任や係長、課長など昇進していくにつれて業務の幅も広がり責任やプレッシャーも重くなってくるため、その対価として支払うことが目的です。
資格手当
会社が支給対象と定めた資格を保有していたり、新たに取得したりしたときに支給される手当です。毎月支給される場合もあれば、資格取得時に報奨金として一時的に支給される場合もあります。
家族手当/扶養手当
配偶者や子どもがいる従業員に支払う手当です。家族手当と扶養手当を同じ意味で使用している会社もあれば、扶養手当の支給対象となるのは扶養家族(収入など一定の基準を満たした者)のみとしている会社など、手当の内容は会社によって異なります。
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子女教育手当
子どもの教育費を補填するために支給される手当です。教育手当や子ども手当などの名称で定めている会社もあります。
別居手当/単身赴任手当
単身赴任など、通勤の都合により家族と別居しなければならない従業員に対して支払われる手当です。
精皆勤手当
従業員の勤務状況に対して支給される手当です。ほぼ欠勤がない場合に精勤手当、欠勤や遅刻、早退がまったくない場合に皆勤手当が支給されます。
食事手当
勤務中にかかる飲食費用に対して支給する手当のことをいいます。仕出し弁当など現物支給を行ったり、現金やチケットなどで支給したりと形態は会社によって異なります。
特殊作業手当
業務の危険度または作業環境に応じて支給される手当です。
特殊勤務手当
交替制勤務などに応じて支給される手当です。
お祝い金、見舞金手当
従業員本人や家族に祝い事や不幸事が起こったときに支給します。結婚、出産や死亡、傷病や、永年勤続のお祝いなどが該当します。
その他の手当
最近は、時代の変化に合わせて新しい手当を導入する会社も増えてきました。手当を充実させることで離職者を減らしたり、採用活動の際のアピールになったりというメリットがあります。
ここではその一例を紹介します。
健康増進手当
従業員に健康意識を高めてもらうことを目的に、非喫煙者や健康診断を受診した従業員を対象に支給する手当です。企業によってはスポーツジムやヨガなどフィットネスを利用する際に手当を支給しているところもあります。
テレワーク手当
コロナ禍でテレワークが普及したことにより、テレワークを行う従業員に対して手当を支給する会社が増えました。毎月一定額を支給したり、テレワーク開始時に一時的に支給したりと、支給の仕方は会社によってさまざまです。
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出社手当
コロナ禍において、テレワーク手当と同じく新しく登場したのが出社手当です。コロナ禍でも出社せざるを得ない状況の従業員に対して手当を支給します。
非課税になる手当の種類
各種手当は税金の課税対象になるものが多いですが、以下の3つの手当は非課税となります。
一定金額以下の通勤手当
電車やバスなど公共交通機関を利用している場合、最も経済的で合理的な経路と方法で通勤したときの1カ月あたりにかかる通勤手当は非課税です。ただし月額15万円という上限があり、これを超えた部分の通勤手当は課税の対象になります。
自動車や自転車で通勤する場合は、片道の通勤経路に沿った距離に応じて非課税となる限度額が変わります。ただし片道の通勤距離が2km未満である場合は、通勤手当の全額が課税対象となるため注意が必要です。
通常必要と認められる出張手当や転勤手当
出張や転勤をした際に支給される出張手当や転勤手当は、通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる場合であれば非課税になります。国内外問わず、宿泊費や日当についても同様の扱いです。
一定金額以下の日直手当や宿直手当
緊急電話への対応や巡視といった通常の勤務とは異なる軽微な労働を行った場合に支給されるのが、日直手当や宿直手当です。この労働が日中に行われれば「日直」、夜間にわたり宿泊を要するのであれば「宿直」といいます。
日直手当、宿直手当を支給する場合、1回あたり4000円(食事が支給される場合は4000円から食事代を控除した残りの額)を上限として非課税になります。
社会保険料の算定に含まれる手当
手当のなかには、健康保険料や年金など各種社会保険料の算定に含まれるものがあります。
社会保険料の算定に含まれる手当は、労働の対象として会社から現金または現物で支給されるものであり、具体的には以下のような手当が対象となります。
特に通勤手当については月15万円までは非課税である一方、社会保険料の算定には含まれるため注意が必要です。
・時間外手当
・休日手当
・深夜手当
・通勤手当
・住宅手当
・役職手当
・地域手当
・家族手当
一方で、以下のような手当は社会保険料の算定には含まれません。
・出張手当
・お祝い金、見舞金手当 など
管理職(管理監督者)にも手当の支給は必要?
法律で定められた手当は必ず支給しなければなりませんが、例外として管理職(管理監督者)に対しては時間外手当、休日手当を支払わなくてもよいとされています。
管理職(管理監督者)とは単に課長や部長といった役職が与えられているだけではなく、以下の基準にあてはまるかどうかで判断されます。
・勤務内容と責任権限が管理監督者にふさわしいか
・勤務態様の実態が労働時間等の規制になじまない場合に限定しているか
・定期給与、ボーナスなどで一般社員より優遇されているか
・スタッフ職の場合、経営上の重要事項に関する企画立案業務を担当しているか
同一労働同一賃金により手当の支給はどうなる?
大企業では2020年4月、中小企業では2021年4月から同一労働同一賃金(
短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針
)が適用されるようになりました。
同一労働同一賃金では、基本給や賞与に加え、以下のような各種手当においても正社員と非正規社員の格差を禁じています。
・時間外労働手当の割増率
・深夜手当、休日手当の割増率
・通勤手当、出張旅費
・地域手当
・役職手当
・別居手当、単身赴任手当
・精皆勤手当
・食事手当
・特殊作業手当
・特殊勤務手当
これまで正社員のみを対象としていた手当がある場合、支給対象に非正規社員を含めるなど見直しが必要です。
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手当の種類を正しく理解、運用しよう
従業員にとって、各種手当は働くモチベーションにつながる大事な制度です。人事担当者が手当の種類や特徴を正しく理解し運用していくことが、離職者の現状や従業員満足度の維持、向上に大きく貢献するでしょう。
また最近ではテレワークの普及など働き方にも変化が生じ、これまでの手当ではカバーできないことも多くなってました。法律で定められた手当について把握することはもちろんのこと、自社の手当を定期的に見直していくことも大切です。
