近年、従業員の育成制度の一つとしてキャリアパスが注目され、企業でも導入が増えつつあります。本記事では、キャリアパスの概要、導入のメリットや注意点、従業員と企業側の双方がプラスとなる活用方法などを解説していきます。

キャリアパスとは?
キャリアパスとは、職歴の「キャリア(Career)」と道の「パス(Path)」の2つを組み合わせた言葉です。簡単にいうと、企業内における異動と昇進のルートのことを指します。人材育成制度において、従業員がどのようなポジションに就くか、または目標のポジションで就くまでにどのようなスキルや経験、知識を身につけるかを具体的に示した道筋のことをキャリアパスといいます。
近年では従業員各々のモチベーションを上げ、目的意識を持たせるきっかけとして、キャリアパスを導入する企業が増えている傾向です。
類義語との違い
これからキャリアパスを導入する企業担当者の方は、キャリアパスに紐づく言葉を知っておくと、今後、何かと役に立つかもしれません。こちらでは、キャリアパスの3つの類義語について解説します。
キャリアアップ
キャリアアップとは、専門性の知識やスキルを高めるとともに、自分の能力をより向上させ能力や専門性を磨くことです。具体的には昇進や転職によってポジションが上がったり、任される業務が多くなったりすることで、自己実現や組織に貢献することを指します。
キャリアデザイン
キャリアデザインとは、自分自身の実現したい働き方やライフスタイル、将来なりたい姿を主体的に設計し、それを実現できるよう行動する取り組みのことです。
キャリアプラン
キャリアプランとは、自分自身の仕事を軸とした理想像を明確にするとともに、実現するために必要なことを洗い出し、具体的な行動計画を立て実行することを指します。
キャリアパス制度が重要視される背景
今日、従来の終身雇用制度が薄れ、働き方が多様化し、転職が当たり前の世の中になっています。このような時代の流れから自分がどのようなキャリアを積み上げたいかを考える必要性が出てくるようになりました。企業側も従業員の今後を考えたキャリアパス制度を定めることが必要になってきているのです。
キャリアパス制度導入のメリット
企業がキャリアパス制度を導入する主なメリットは、以下の5つです。
1.採用におけるミスマッチ防止になる
自社のキャリアパス制度を公式ホームページや求人広告などで公開することで、求職者にとって入社後のキャリアをイメージしやすくなることでしょう。実際に入社したら仕事内容が異なっていたなどのミスマッチを防げ、人材の定着率が高まります。
2.適材適所への人員配置が可能になる
従業員各々が持っている能力やスキルが明らかになるので、人事異動や組織改革においてどの部署が適しているかが判断しやすくなるでしょう。
3.自社の業績向上につながることが期待できる
キャリアパス制度が明確になっていると、従業員の身につけるべきスキルや能力が可視化されるので、各々のモチベーションが上がりやすくなります。このような取り組みの積み重ねによって、業績の向上にもつながることが期待できるでしょう。
4.従業員のワーク・ライフバランスが充実する
キャリアパス制度の導入により、従業員が納得できるポジションで効率的に仕事を捌けやすくなるので、仕事のオンオフの切り替えが可能です。家庭やプライベートの時間も確保しやすくなるので、ワーク・ライフバランスが実現できるようになるでしょう。
5.各々が強みを理解しスキルアップできる
キャリアパス制度の導入は、従業員の仕事上での目標だけではなく、担当する業務内容において強みになっている点がはっきりわかるという点も特徴の一つとして挙げられます。併せてスキルアップするために何をすべきかがわかるので、目標や道筋が立てやすいでしょう。
キャリアパス制度導入の注意点
キャリアパスの導入は企業や従業員にとってメリットもありますが、注意しなくてはならないこともあります。ここでは注意点について解説していきましょう。
1.モチベーションの低下をもたらすことも
キャリアパス制度の懸念点の一つとして、自分が思い描いたものと異なった業務のアサインによって、従業員のモチベーションが下がることが挙げられます。企業に対する不満と不信感を抱く恐れもあるので、注意が必要です。
企業側は従業員のモチベーションが低下した場合のフォローをどうすれば良いか考えなければなりません。
2.ビジネスの視野が狭くなる恐れがある
キャリアパス制度の導入で慎重に考えておきたいことの一つとして、ビジネスの視野が狭くなることが挙げられます。キャリアパスの重視によって従業員の「やりたい」ということを優先してしまうと、企業としてやるべき事柄ができなくなるケースが生じ、企業全体のビジネスチャンスを狭めてしまうリスクが高くなります。従業員の将来を考えるのであれば、目先の仕事を捌くだけでなく、仕事上で発見や成長
を得られる環境を整え、チャンスを広げる道筋を築くことが大切です。
【従業員】キャリアパスの策定方法
従業員向けにキャリアパスを策定する場合の方法は以下の3つとなります。
1.具体的ゴールの設定
従業員が持っているスキルや知識、そして置かれている立場も異なっています。自己分析するよう働きかけ、自分に足りているものと足りていないものが把握しやすくなるでしょう。まずは具体的なゴールを話し合って設定するよう促しましょう。
2.業務適性を把握する
従業員がキャリアパスをイメージし、自分の目標を叶えるには、各々の業務適性を把握することが肝心です。これまでの行動と今の業務を分析し、何が適しているか改めて考えておきましょう。
3.市場価値を知る
熱意だけでは希望のポジションで働けるとは限りません。自分の市場価値を評価しつつ、自分のゴールのために必要な経験やスキルの洗い出しが必要です。どのような経験とスキルが必要か把握するようにしましょう。
【企業】キャリアパス制度の導入方法
企業側のキャリアパス制度の導入で必ずやっておきたい事項を紹介します。
1.人事評価制度を作成する
キャリアパスに人事評価制度として経験や職能に応じた等級や給与を考慮し、数値化することで、評価者側の評価がばらつかず公平に対応することができます。
2.研修制度を構築する
従業員にキャリアパスを考えるきっかけとして、適切な研修プログラムを考えることが必要です。研修をすることで従業員の各々のキャリアパスを考えるきっかけにもなることでしょう。また、社歴や職種などに分けた研修も考えるとニーズに合った研修の企画も視野に入れると良いかもしれません。
3.フォローアップ体制を作る
従業員がキャリアパス制度を正しく理解し、活用しているかなどの確認として、定期的なフォローアップや面談が必要です。キャリアパスを定期的に話し合うことで、新しい気づきがあったり、必要があればすり合わせや修正することができます。
キャリアパス制度を有効活用するには
キャリアパス制度を有効活用する場合、どのような取り組みをすれば良いのでしょうか。
ここでは企業の担当者がやっておきたい取り組みを紹介しましょう。
1.従業員の希望や適性を考慮する
従業員の中には管理職を目指す層もいれば、管理職に就かず現場で働き続けたい層もいます。企業側が一方的に管理職を希望していない従業員にリーダー職を押しつけた場合、その従業員が離職する可能性があるかもしれません。従業員にも色々な考えを持って働いていることを理解しながら、希望や適性を踏まえたキャリアパスを提示できるようにしましょう。
2.状況に応じて複数の選択肢を持つ
経営方針の転換や社会情勢の変化などによって、これまで考えていたキャリアパスの見直しが必要になる場合があります。このような状況にも柔軟に対応できるよう、企業の担当者はサポートできる体制を整えなくてはなりません。
特に、出産育児や介護に該当する従業員はキャリアパスを変える必要があるかもしれないので、企業の担当者はフォローする必要があります。
3.ロールモデルを示す
社内のキャリアパスの事例として、仕事面や人物面でも一目置かれている先輩従業員のロールモデルを共有することで、従業員のキャリアパス制度への関心度が高くなる見込みがあります。身近なロールモデルがいることで、自分のキャリアパスを考えるきっかけにもなるかもしれません。
4.制度を定期的に見直す
一度決定したキャリアパス制度は、恒久的なものではありません。従業員の年齢層が変わってきたなどの社内の事情や社会情勢によっては制度自体を見直す必要があります。見直しを意識することで、各々のニーズに合ったキャリアパスの構築がしやすくなるかもしれません。
キャリアパスの導入で企業にも従業員にもプラスに転じる可能性がある
キャリアパスの導入は、従業員の将来の働き方をサポートする重要な要素だけではなく、各々のモチベーションを高めるきっかけにもなります。キャリアパスの導入には、社内や従業員の事情を細かく考える必要がありますが、企業と従業員の今後の飛躍につながる見込みがある制度です。人事制度としてキャリアパスの導入を選択肢として考えてみてくださいね。
