働き方改革と関連して、これまで紙ベースで行っていた業務をデジタル化しようとする動きが進んでいます。その代表例がインターネット上で契約が締結できる「電子契約」です。今回は、電子契約とは何か、メリット・デメリットから作成方法など網羅的に解説いたします。

電子契約とは
電子契約とは、電子ファイルにインターネット上で電子署名を相互に取り交わし、電子文書を原本として保管しておく契約行為のことです。
従来の書面上で交わす契約に代わって、新たな形態の契約として注目されています。
「JIPDEC IT-Report 2019 Spring」での調査によると、「複数部門での採用」(22.0%)と「一部の取引先間での採用」(22.2%)での利用で約4割、今後利用予定を含めると約7割に達しており、多くの企業で利用が進んでいます。
引用元:一般財団法人日本情報経済社会推進協会「JIPDEC IT-Report 2019 Spring」
書面契約との違い
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書面契約
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電子契約
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書類媒体
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紙(印紙が必要) |
PDFファイル(印紙が不要) |
署名方法
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記名押印・署名・日付記入 |
電子署名・タイムスタンプ |
押印
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印鑑と印影 |
不要(電子署名または電子サイン)※割印も不要 |
相互確認
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原本の持参/郵送による受け渡し |
インターネット回線などを使った 電子データの受け渡し |
保管場所
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倉庫やキャビネットにて原本の物理的保管 |
社内のファイルサーバーや 外部のデータセンターにて電子データで保管 |
書面契約では、記名押印・署名と日付記入によって契約の事実を証明し、倉庫やキャビネットにて原本を保管します。
一方、電子契約では契約書を印刷せずに、PDFファイルなどの電子データのまま管理します。そこにタイムスタンプと電子署名を付与して契約の事実を証明し、締結した契約書は電子データとしてファイルサーバーや外部のデータセンターに保管します。
電子署名とタイムスタンプ
書面契約に比べ、電子契約はデジタルデータを編集できるため、改ざんが容易という脆弱性があります。改ざんが行われれば、企業の不利益になることは間違いありません。
この脆弱性を克服し、紙文書と同様の法的効果を維持するために用いられているのが「電子署名」と「タイムスタンプ」です。
電子署名とは?
電子データとして作成した契約書に付与する署名を「電子署名」と呼びます。紙の署名では記名押印や署名によって本人確認が行え、契約書を担当者本人が作成したことを証明し、かつ改ざんされていないことを示せます。
電子署名は認証局が発行する「電子証明書」と共に担当者本人の署名を付与することで、当人が契約書を作成し、かつ改ざんされていないことを証明できます。
タイムスタンプとは?
電子署名を付与した日時を記したものを「タイムスタンプ」と呼びます。
タイムスタンプには「タイムスタンプが押された時刻に、当該文書が存在していることを証明する(本人証明)」と「タイムスタンプが押された時刻以降に、当該文書が改ざんされていないことを証明する(非改ざん証明)」という2つの役割があり、電子署名に高い証明効果を持たせることができます。
電子署名とタイムスタンプは、政府認定の認証局によって発行されるものであり、企業独自に不要できるものではないことから、証明力が高いとして電子契約での使用が義務付けられています。
電子契約のメリット
書面契約に比べ、電子契約には様々なメリットがあります。
1.印紙税を削減できる
従来の紙の契約文書は課税文書になりますが、契約を電子文書で取り交わす場合は課税対象とならず、印紙税を大幅に削減できます。
参考:参議院「印紙税に関する質問に対する答弁書:答弁本文」
2.事務経費を削減できる
書面契約では、作成した契約文書を印刷・郵送したり、担当者が持参するなど、どうしても手間がかかります。
それに比べて電子契約では、契約書のやりとりはインターネット上で行われるため、上記の手間が省けます。単に郵送費等の経費だけでなく、電子ファイルをアップロードするだけなので、大幅な時間短縮にもつながります。
最小限のコストと労力で契約を取り交わすことができますので、大きなコスト削減効果が期待できます。
3.事務作業を効率化できる
書面契約書は税法上7年間保管しなければならないため、書面契約ではその保管スペースが必要になります。
また、監査などによって過去の契約文書を探し出す際にも、倉庫に行き、段ボール箱を開けて確認したりと非常に時間と労力がかかります。
それに比べて電子契約では、契約書は全て電子ファイルとなるので、実質的な保管スペースは必要ありません。
さらに、契約日付や契約先、契約金額などで検索条件を指定することで簡単に検索、閲覧ができます。必要なタイミングで瞬時に契約書を取り出すことが可能なのです。
4.コンプライアンスの強化に繋がる
書面契約は、実は多くのリスクを抱えています。
例えば、契約文書を倉庫やキャビネットで保管することによる管理漏れや紛失などが挙げられます。いざ過去の契約書の確認が必要になって倉庫やキャビネットを探してみると、一部の書類が紛失していることも起こるでしょう。
災害などで倉庫やキャビネットが破壊され、そこに保存していた書類も復元できなくなってしまう事例も多くあります。
それに比べて電子契約では、契約書の電子ファイルはサーバーに保管します。つまり、サーバーによるバックアップを多重化したり、セキュリティを高めることによって、紛失、劣化、毀損リスクを大幅に低減できるだけでなく、改ざん等のリスクもほぼゼロになります。
また、日付、契約先、金額などの検索属性を利用した検索も簡単になるので、税務調査、会計監査などにも迅速かつ正確に対応できます。
なお、コンプライアンスについて詳しく知りたい方は以下の記事を参照してください。
関連記事:コンプライアンスとは?違反事例から対策を理解して重要性を再確認しよう!
電子契約の注意点
1.社内外への説明や導入準備に手間がかかる
日本の多くの企業では、書面契約が従来から当たり前の文化として根付いています。そのため、所定のソフトを使っていざ電子契約の運用に踏み切ろうとしても、抵抗される可能性があります。
電子契約に移行するためにはまず社内に対する説得が必要です。会社としては、いざ訴訟になった際、契約書を証拠として用いることができるかどうかに最大の関心があることかと思います。
この点について、電子署名法3条には「…本人による電子署名…がおこなわれているときは、真正に成立したものと推定する」という規定があります。電子契約書にも証拠能力があることを説明すると、納得が得やすくなるかもしれません。
また、電子契約の運用には、取引先や顧客の理解が欠かせません。契約時に、先方の法務担当者に確認してみると良いでしょう。
2.サイバー攻撃を受ける可能性がある
書面契約で文書の改ざんがあるように、電子契約に関しても、サーバーに対するサイバー攻撃を受ける懸念があります。
多くの電子契約サービスは1箇所で全てのデータを保管する中央集権型をとっているため、そこを突破されると機密情報が漏洩する可能性があるのです。
電子契約に関する法律
1.電子帳簿保存法(1998年7月施行)
「電子帳簿保存法」は、主に国税関係の帳簿を磁気テープや光ディスクなどへ電子データとして保存する手段などを定めた法律です。
従来、企業や個人事業者が紙で管理していた会計記録は、紙の形で7年間保存することが義務付けられていましたが、真実性の確保、可視性の確保など一定の保存要件を満たすことで、帳簿書類を電子データで保存することが可能となりました。
2.電子署名法(2001年4月施行)
「電子署名法」は、電子署名が署名や押印と同等の法的効力を持つことを定めた法律です。
電子署名法第3条では、「電磁的記録であって情報を表すために作成されたものは、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名が行われているときは、真正に成立したものと推定する。」とあります。
また、電子署名法第2条によると、以下の要件を満たす電子署名を付与された電子ファイルは、書面に押印または署名された契約書に同等の法的効力が生じることとなります。
・本人性の証明:電子文書が署名者本人により作成されていることが証明できること
・非改ざん性の証明:署名された時点から電子文書が改ざんされていないこと証明できること
3.IT書面一括法(2001年4月施行)
「IT書面一括法」は、顧客保護などの観点から事業者に書面の交付や書面による手続を義務付けている法律について,顧客などの承諾を条件に,書面に代えて電子メールなどの情報通信技術を利用する方法で提供することができることを定めた法律です。
経済のIT化が進展する中で,書面の交付あるいは書面による手続を義務付けている各種規制が電子商取引などの阻害要因になっていました。
これに対し、契約の締結に際し一定の書面の交付義務を定めた法律について、送付される側の同意を条件として、書面の交付に代えて電子的手段(電子メール・FAXなど)を利用することを認めたものです。
4.e-文書法(2005年4月施行)
e-文書法は、「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」と「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」の総称です。
財務・税務関係の帳票類や取締役会議事録など、商法や税法で保管が義務づけられている文書について、紙文書だけでなく電子化された文書ファイルでの保存が認められるようになりました。
電子契約の作り方
1.作成した契約書をPDF化する際に、電子署名とタイムスタンプを生成
電子署名を利用するには、事前に認証機関へ届け出て自身の「秘密鍵」を取得しておく必要があるので注意しましょう。これをもとに「電子署名生成プログラム」で、電子署名という「公開鍵」を生成してPDFに埋め込むことになります。
2.電子署名とタイムスタンプを埋め込んで送付
3.確認した相手方が同様に電子署名とタイムスタンプをPDFに埋め込む
4.返送
5.契約完了してサーバー上に保管する
※電子契約サービスによっては異なるので、そのサービスに準じてください。
電子契約導入にあたっての注意点
運用には、契約相手側の理解が不可欠
契約には相手先が必ずありますので、電子契約を導入する場合、契約先にもその内容を理解していただく必要があります。電子契約を全く知らなかったり、活用したことのない方には、以下のように綿密な説明を心掛けましょう。
①電子契約がどういったものなのか、その概要を説明する
②電子契約が法的に全く問題ないこと、および、その法的根拠を説明する
③電子契約を導入することにより、どのようなメリットがあるのか、それが自社だけでなく、契約先にも少なからずメリットがある点を説明する
④システムの操作手順や具体的取扱い方法を説明し、実施に向けて不安を払しょくする
すべての契約を電子契約でできるようにはならない
契約の中には、法令により書面での契約や保存が義務づけられているものが存在します。
そのため、契約締結時にはあらかじめ法的な観点から確認をしておくことが重要です。
書面での契約が義務づけられている例
・定期借地契約
・定期建物賃貸借契約
・投資信託契約の約款
・特定商品取引法で書面交付義務が定められているもの
電子契約で働き方改革を進めよう
ペーパーレスの電子契約を導入することによって、リモートワークでもパソコン上で簡単に契約書の契約を結ぶことができるため、一気に契約までのスピードが上がります。導入にあたって社内外の理解を得ながら、積極的に柔軟な働き方を目指しましょう。
