従業員の意見を就業ルールに反映させて、職場環境を改善していくために必要不可欠なのが従業員代表です。特に労働組合がない場合の多い中小企業では、従業員代表の選出が必須となってきます。
では、従業員代表の担う役割や労働組合との違いはどこにあるのでしょうか。この記事では、概要から選出にあたっての要件・方法まで解説します。

従業員代表(労働者代表)とは
「従業員代表(労働者代表)」とは、従業員の過半数を代表する者のことです。従業員全体の意見を取りまとめ、企業側に提言する役割を担っています。
労働基準法において、労働条件の中でも重要事項については、労使協定を締結することが企業に義務付けられています。協定の締結は企業と労働組合が行いますが、従業員の過半数で組織される労働組合がない場合には企業と従業員代表が協定を結びます。労使協定は事業所ごとに締結するため、従業員代表も原則として事業所ごとに1名選出が必要です。
なお、企業と従業員代表が締結する労使協定には、36協定(時間外労働・休日労働に関する協定)や派遣労働者の同一労働同一賃金に関する労使協定などがあります。
従業員代表の任期
法律上、任期についての定めは特にありません。36協定の有効期間が1年間であることや、1年度をサイクルとして行われることが多い人事異動のタイミングなどを考慮して、任期は1年程度としている企業が一般的であるようです。任期を定める場合は、選出の際に目的と合わせて任期も明示しましょう。
労働組合との違いは?
従業員代表は労働組合の代わりに労使協定を締結できますが、労働組合とまったく同じ権限を持っているわけではありません。従業員代表には明確な法的地位が認められておらず、締結した協約・協定の適用範囲も異なります。
企業と労働組合とで結ばれた労働協約は組合員のみに適用されるのに対し、企業と従業員代表が締結した労使協定は、組合・非組合員の区別なく適用されます。
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従業員代表
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労働組合
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法的地位
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明確には認められていない
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労働組合法により認められている
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協約・協定の適用範囲
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すべての従業員 (非組合員や管理職含む)
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組合員のみ
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従業員代表の主な役割を解説
従業員代表の最たる目的は、従業員全体の意見を取りまとめて企業側に提言することです。具体的には労使協定の締結や、就業規則の作成・改定に関する意見陳述などを行うことで、従業員の過半数の意思を反映した働き方を実現させます。
労使協定の締結
主な役割の1つに、労使協定の締結が挙げられます。締結する労使協定には、代表的な「36協定」や、派遣労働者の同一労働同一賃金に関する協定などがあります。
36協定(時間外・休日労働に関する協定)
36協定とは、労働基準法に定められている法定労働時間を超えた労働や休日出勤を行わせる場合に、必ず締結しなければならない協定のことです。
従業員代表は36協定の内容について企業側と協議します。変更の必要があれば提言し、最終的に協定を締結するかどうかを決定する権限も持っています。また、すでに締結されている36協定の内容を変更する際にも同様に、協議や提言などを行うのが従業員代表の役割です。
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派遣労働者の同一労働同一賃金の労使協定の締結
派遣労働者の同一労働同一賃金に関する労使協定の締結では、派遣元事業主と協議して内容の確認・提言を行います。従業員代表は、正規・非正規に関わらずすべての労働者の代表として、企業と派遣労働者の双方が納得する協定を結べるように活動します。
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就業規則についての意見書作成
賃金や労働時間などをまとめた就業規則についての意見書を作成するのも、従業員代表の役割の1つです。従業員側にとって不利益な規則が盛り込まれていないか、また不利益な変更にならないかをしっかりと確認し、意見をまとめます。企業が就業規則を労働基準監督署へ届け出る際には、この意見書を添付しなければなりません。
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安全委員会・衛生委員会への委員(メンバー)推薦
安全委員会は安全に関する事項を、衛生委員会は衛生に関する事項を協議する組織で、一定の基準を満たす事業所において設置する必要があるものです。従業員代表は、それぞれの統括管理者以外の委員を推薦する役割があります。
従業員代表の選出には要件がある
従業員代表になれるのは、選出要件を満たす労働者全員です。要件を満たしていれば、正規労働者だけでなく、アルバイトやパートなどの非正規労働者や出向している従業員も対象となります。その選出要件とは次の2つです。
①管理監督者でないこと
管理監督者とは、労働条件や人事、労務管理について経営者と同等の立場にある従業員のことです。管理監督者は管理職であるとは限らず、部長や課長といった役職を付与されていても、労働条件や人事の決定権を持っていなければ該当しません。
管理監督者は従業員代表にはなれません。もし管理監督者に該当する従業員が代表として選出され、労使協定を締結して労働基準監督署に届け出た場合、その協定は無効となります。
②使用者の意向に基づいて選出された者でないこと
従業員代表を選出する際は、「労使協定の締結などを行う従業員代表の選出が目的である」と明示したうえで、挙手や投票、話し合いなど民主的な方法によって選任しなければなりません。
企業側からの指名や、社員親睦会の幹事を従業員代表として自動的に任命するなど、使用者の意向をもとにした選出はできません。使用者の意向に基づいて選出された者による協定は無効となります。
また、従業員代表は「労働者の過半数が代表を支持している」と示す必要があります。そのため、正規・非正規に関わらずすべての労働者が代表者選出に参加できるようにしましょう。
従業員代表の選出方法をチェック!
ここからは、前述の要件を満たして従業員代表の選出を行うにはどうすればよいのかを見ていきましょう。
①候補者を集める
まずは従業員代表の立候補者を募りましょう。立候補者がいない場合は、他者による候補者の推薦も受け付けます。候補者が集まらなければ、従業員代表にふさわしい従業員を探して「立候補してもらえないか」と打診します。もしくは、適任者を推薦してくれそうな従業員に推薦を依頼してもよいでしょう。
企業側からの打診による立候補であったとしても、民主的な手続きによって選出された従業員代表であれば、「企業の意向に基づく選出」ではないため有効な選出方法であると認められます。
②投票や挙手などにより選出を行う
従業員代表の選出は、「従業員の過半数がその人の選出を支持している」と明確にわかる民主的な手続きで行わなければなりません。選出にあたっては、正社員だけでなくアルバイトやパートなどの非正規社員も含め、すべての従業員が手続きに参加できるようにしましょう。
具体的な選出方法としては、投票、挙手、回覧などが挙げられます。
投票
複数の立候補者がいる場合は、投票により従業員代表を決定します。
挙手
全従業員が出席する場において、従業員代表を選出する目的や立候補者が誰であるかを明らかにした上で、支持する場合は挙手を求めます。
回覧
従業員代表を選出する目的や立候補者が誰であるかを明らかにして、信任・不信任の署名や押印を集めます。紙媒体での回覧はもちろん、メールや社内のシステムを利用して信任・不信任の返信を求めるなど、テレワークに適した方法を取ることも可能です。
いずれの方法にしても、全従業員の半数以上の支持があれば、その候補者が従業員代表として認められます。
③社内に周知する
従業員代表を選出したら、社内に周知しましょう。「従業員代表の氏名」「選任された年月日」「締結する労使協定の内容」などを記載した従業員代表選任届を作成して回覧するのもよいでしょう。
また、従業員代表と締結して労基署に届け出た労使協定や就業規則については、従業員に周知しなかった場合労働基準法第106条違反となりますので、注意してください。
従業員代表選出における注意点
従業員代表の選出にあたっては、いくつか注意点があります。
目的を明確に示す
従業員代表の選出は、「労使協定の締結などを行うための従業員代表を選出する」といったように目的を明確に示したうえで行われなければなりません。また、すべての従業員が参加できる方法を取り、「全従業員の過半数が選出を支持している」と客観的に示せるようにしましょう。
事業所ごとに選出が必要
労使協定は原則として事業所ごとに締結しなければならないため、独立する支店や工場など複数の事業所がある場合は、各事業所ごとに従業員代表を選出する必要があります。なお、同じ支店内でも労働環境が異なる場合には、別事業所として扱うケースもあります。
違反すると協定は無効になる
従業員代表の選出手続きに違反した場合、その人が締結した労使協定は無効とされます。
不利益取扱いの禁止
企業側は「従業員代表であること」「従業員代表に立候補したこと」「従業員代表としての正当な行為を行ったこと」を理由とした降格や解雇などの不利益な取り扱いは、労働基準法において禁止されています。企業は、従業員代表が役割を円滑に遂行できるように配慮しましょう。
従業員代表を適切に選出してより良い職場づくりを!
従業員代表は、従業員の過半数で組織する労働組合がない企業において、就業規則や労使協定の締結に必要不可欠です。従業員側の意見を取りまとめて企業へ提言する立場であり、職場環境をより良くする重要な役割を担っているといえます。健全で働きやすい職場づくりのためにも、適切な方法で選出手続きを行うようにしましょう。
