従業員を雇用している企業であれば、避けては通れない雇用保険。
雇用保険は、従業員を守る制度の一つであり、未加入が発覚すれば、罰金や懲役などの処罰を課せられます。
とはいっても、雇用保険は複雑で全容がつかみにくい制度です。
本記事では、雇用保険の制度の概要、種類、加入条件や手続きについて解説します。
雇用保険とはどういう制度?
再就職の支援、休職中の生活の安定を図る雇用制度のことを指します。
雇用保険法に基づき制定されている保険制度で、加入すると従業員は失業の時、または収入が減った際に、条件を満たせれば『教育訓練給付』や『育児休業給付』といった給付を受けることができます。
雇用保険の加入条件
雇用保険は、誰でも加入できる保険ではなく、明確に加入条件が定められています。
条件は、主に以下の6つです。
1.31日以上働く意志があること
2.1週間の所定労働時間が20時間以上であること
3.学生ではないこと(卒業見込み・定時制は除く)
4.期間の定めなく雇用される場合
5.雇用契約に更新規定があり、31日未満での雇止めの明示がない場合
6.雇用契約に更新規定はないが同様の雇用契約により雇用された労働者が31日以上雇用された実績がある場合 (※)
※当初の雇入時には31日以上雇用されることが見込まれない場合であってもその後、31日以上雇用されることが見込まれた場合には、その時点から雇用保険が適用されます。
この条件を全て満たさなければ、雇用保険に加入することはできません。
ちなみに、正規雇用、非正規雇用に関わらず、雇用保険への加入が可能です。
例えば、リゾートバイトのように特定の期間のみ働く労働者に関しては、『短期雇用特例被保険者』という扱いで加入させることができます。
2で記述している所定労働時間というのは、契約時に定めた労働時間のことを指し、たとえ一時的に週に20時間以上を働いたとしても、加入条件には該当しません。
雇用保険と似たものとして、労災保険(通称、労災)がありますが、こちらはどのような形態・期間であっても、全ての労働者が加入条件に該当します。
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雇用保険加入のメリット
従業員側のメリット
育児、出産、介護、病気などの理由により、休職、退職をしなければならない時に、各給付金を受け取ることができます。給与から数%天引きされますが、万が一の際の備えとしてはとてもお得です。
事業者側のメリット
基本的に、事業者にとって雇用保険は強制加入で義務のため、メリットは従業員側より大きくはありませんが、少なからず恩恵があります。
まず雇用保険に加入することで信頼性を高めることができ、採用面でもプラスのイメージを付けることができます。
また、雇用保険に加入することで助成金を獲得しやすくなります。
基本的に、助成金は雇用保険料から賄われています。
助成金の中には、事業を縮小しないといけない状況で、労働者の雇用の維持を図る取り組みを支援する「雇用調整助成金」や、非正規社員が正規社員に登用されるために必要な人材育成や研修等の実施をバックアップする「キャリアアップ助成金」など、さまざまな助成金を活用し、従業員が満足して働ける環境を作ることができます。
雇用保険の種類
雇用保険というと、一般的には失業保険(基本手当)が広く認知されていますが、実はそれ以外にも多くの種類が存在します。ここでは代表的なものをご紹介します。
求職者給付
失業保険(基本手当)
基本手当とは、失業保険のことを指します。再就職までの生活費をサポートするための制度です。加入していた雇用保険の期間や年齢に応じ、年収の4割から6割程度が給付されます。
傷病手当
ハローワークで、求職の手続きをした後、怪我または病気などに見舞われて就労が難しくなった場合に受給できる手当のことです。
15日以上働くことができない場合は、基本手当を受給できないため、代替として傷病手当が支給されます。
教育訓練給付
再就職や復職のために、スキルアップする労働者を支援する給付金のことで、該当する教育訓練を受講した場合、その一部が支給されます。
また、教育訓練給付は「一般教育訓練給付」「専門実践教育訓練給付」の2つに分かれており、それぞれ支給条件や給付期間、給付額が異なります。
一般教育訓練給付
被保険者または、離職してから1年以内かつ雇用保険の加入期間が3年以上(初回に限り1年以上)の者が対象です。
教育訓練施設に対して支払った額の20%程度が支給されます。支給上限額は10万円ですが、20,005円を超過しない限りは支給されません。
専門実践教育訓練給付
被保険者または、離職してから1年以内かつ雇用保険の加入期間が10年以上(初回に限り2年以上)の者が対象です。
教育訓練施設に対して支払った額の40%程度が支給されます。
支給上限額は年間32万円で、『一般教育訓練給付』と同じく20,005円を超過しない限りは支給されません。
さらに詳しい内容を知りたい方は、厚生労働省HPより参照ください。
参照:教育訓練給付制度の対象となる講座の受講を希望される方
雇用継続給付
出産、介護、育児といった事情で休職する際に、一定期間支給される給付金のことです。
「高年齢雇用継続給付」といったシニア世代の就業支援を行う給付制度もここに含まれます。
育児休業給付
育児休業に対して、国が給付する制度です。
また、育児休業給付金は非課税で社会保険料も免除になります。
1歳未満の育児休業中であり、一ヶ月の賃金が休業前よりも20%以上減少していること、休業開始より過去2年間、給与支払い日が11日以上の月が12ヶ月以上、月の就業が一ヶ月で10日以下であることが受給条件とされています。
なお、条件が満たされれば、最大2歳未満まで延長することができます。
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育児休業給付金とは?受給条件、申請方法から延長方法まで徹底解説
介護休業給付
介護によって休業する労働者に対して支給される給付金です。
休業時の給料の67%が支給されます。
家族の介護のため、二週間以上の休業が必要であり、かつ復職を前提に休業することが前提条件です。
この他、介護休業よりも前2年間で、11日以上就業した月が1年以上、介護休業中の給与が休業前よりも20%減少していることも受給条件とされます。
また延長の猶予は、最長93日まで、分割する場合は最大3回まで利用できます。
就職促進給付
再就職手当
基本手当の受給資格を持った労働者が正規雇用で就職できた場合、あるいは事業を登記した場合に支給される手当です。
なお、受給するには、基本手当の残り日数が3分の1以上ある、1年以上雇用されることが決まっている職場に就職するなど、条件をすべて満たす必要があります。
就業手当
基本手当の受給期間内に、臨時的な就業ができた場合に受け取れる手当です。
臨時的な就業とは、短期間のアルバイト、パートなどを指します。
受給には、失業手当の受給日数が残り3分の1以上および45日以上残っている、待機期間が経過しているなどの条件を満たす必要があります。
就業手当を申請すると、基本手当で受け取る額が減ってしまうため、申請する際には十分注意が必要です。
雇用保険の加入手続きに必要な書類
事業者が雇用保険の加入に必要な書類は、以下の5つになります。
・雇用保険被保険者資格取得届
・雇用保険適用事業所設置届
・労働保険保険関係成立届の事業主控
・登記事項証明書(個人事業主の場合は事業許可証)または、法人登記謄本(原本)
・雇用保険適用事業所設置届及び保険関係成立届
初めて労働者を雇用する事業所は、事業所管轄のハローワークに『雇用保険適用事業所設置届』『雇用保険被保険者資格取得届』が必要になります。
また、『雇用保険被保険者資格取得届』を提出する際は、あわせて以下の書類を提出する必要があります。
・事務所等の賃貸契約書
・監督官庁の許認可証(飲食業、不動産業、建設業など)
・登録証(士業など)
・社会保険関係届書控
など
詳しくは、ハローワーク公式HPを参照ください。
雇用保険の加入手順
初めて労働者を雇用する場合
初めて労働者を雇用する事業所は、『雇用保険適用事業所設置届』『雇用保険被保険者資格取得届』を、事業所設置の10日以内に管轄のハローワークに提出します。
『雇用保険被保険者証』『雇用保険適用事業所設置届事業主控』『雇用保険被保険者資格取得等確認通知書』が交付されたら、『雇用保険被保険者証』を速やかに従業員に配布します。
新しく労働者を雇用した場合
すでに事業所があり、さらに新しく労働者を雇用する場合は、その都度、『雇用保険被保険者資格取得届』『雇用保険適用事業所設置届』『保険関係成立届』の提出が必要です。
雇用成立月の翌月10日までに、管轄のハローワークに提出します。『雇用保険被保険者証』『雇用保険適用事業所設置届事業主控』『雇用保険被保険者資格取得等確認通知書』が交付されたら、『雇用保険被保険者証』を速やかに従業員に配布します。
労働者が退職した場合
雇用している従業員が退職した場合は、『雇用保険被保険者資格喪失届』と『離職証明書』を管轄のハローワークに提出します。
雇用保険加入手続きを怠ると、どんな罰則がある?
雇用保険は、週20時間以上で学生でない方は原則、全員強制加入となります。
もし加入手続きを怠れば雇用保険法違反となり、懲役6か月以下、30万円の罰金となります。
また、従業員が退職した時、介護休業した際に、諸手当を受給できないことによって損害を被ったと、損害賠償請求されるケースも存在します。
雇用保険は最大2年間まで遡ることができるため、もし加入し忘れなどが発覚した場合、その時点で追徴金をまとめて支払うことになります。
雇用保険料が高いからと支払いを怠らず、手続きを徹底しましょう。
強制加入の雇用保険は漏れなく申告しよう
雇用保険に加入しないという選択肢はありません。基本は強制加入であることを忘れずに。
今回紹介した手続きや必要書類をよくチェックし、登録・申請作業に漏れがないようにしましょう。
