バブル崩壊からの低迷する経済と、ITの発達によって、「ヒト・モノ・カネ・情報」に次ぐ第5の経営資源として注目を浴びるようになった「ファシリティ」。
そのファシリティを管理するファシリティマネジメントとは、一体どんなものなのでしょうか。
従来の「施設管理」との違いは?これからの企業の発展に欠かせない「ファシリティマネジメント」について、詳しく解説します。

ファシリティマネジメント(FM)とは?
「ファシリティ(Facility)」は、「設備」「施設」「便宜」「容易さ」などの意味がありますが、ここで取り上げる企業、団体活動における「ファシリティ」とは、組織活動のための土地や建物、各種設備などの施設だけでなく、執務空間、移住空間、地域環境など、利用する人の環境すべてを含んだものとなります。
そのファシリティを管理する「ファシリティマネジメント(Facility management/略称:FM)」とは、アメリカで生まれた新しい経営管理方式で、企業、団体活動に使用する施設や環境を有効活用し、その利用者の満足を高め、知的生産性を向上させるための環境整備を行うこと。設備や施設などの「モノ」だけではなく、「ヒト」や「情報」など、現代の経営資産となり得るすべてのものを対象としており、その対象範囲は多岐にわたります。
ファシリティマネジメントの種類
ファシリティマネジメントの種類は、大きく三つの分野に分けられます。
1)戦略的分野
経営を軸とする、資産管理や財務評価、生産性向上などの分野。全てのファシリティのあり方を総合的に追及します。
2)エンジニアリング分野
ファシリティを快適かつ効率的に、計画・建設・運営維持します。
3)サービス分野
日々の手入れ、清掃、巡回、防犯、消防、防災設備の管理などを行います。
「ファシリティマネジメント(FM)」と「施設管理」の違い
しかし、これまでの日本では「ファシリティマネジメント」は、狭義な「施設管理」と訳される事も多く、ファシリティマネジメントとは「建物や設備などの施設の管理」のことだと理解している方も少なくありません。では、「ファシリティマネジメント」と伝統的な「施設管理」とは、どのような違いがあるのでしょうか。
まず、従来の施設管理は施設の「維持・保全」が目的だったのに対し、ファシリティマネジメントは、施設のより良いありかたを追及する「最適化」が目的となります。
また、従来の施設管理は「既存の施設」が対象となっていましたが、ファシリティマネジメントは既存の施設だけでなく、「新しく利用し活用するもの」も含んだ全ての固定資産に対する戦略となります。
管理の性格も従来の施設管理では「現場管理的」であったものが、ファシリティマネジメントでは「経営戦略的」な視点からの管理となります。そのため、FMでは担当組織も部門をまたいだものとなり、複合的な組織運営が必要となります。
ファシリティマネジメントの導入のメリット
日本の企業の多くは、人件費を大きな固定費ととらえ、リストラや派遣社員の活用など、その費用を抑えるべく様々な取り組みを行ってきました。
ただ、人件費に次ぐ大きな固定費となる施設関係費について、日本ではまだ手つかずな部分が多く残っています。バブル時代に急増した施設には多額の維持費用がかかる割に活用されていない、利便性の悪いものも多く存在しています。これは、企業だけでなく、学校や病院、公共施設などにも言え、施設負担が経営を圧迫し、経営効率を下げていると言えます。また、省エネ、環境問題の観点からも、問題ある施設は少なくありません。
ファシリティマネジメントの導入で、施設の適切な活用が実現されることにより、次のようなメリットが考えられます。
・経営にとっての最適な施設のあり方がわかる
・施設の改革によって、経営の効率が上がる
・施設に関わるコストが抑えられる
・利用者にとって快適な施設となり、利便性、生産性があがる
・省エネなどの実現で、環境にも優しい施設となる
ファシリティマネジメントの具体例
では、ファシリティマネジメントの具体例はどのようなものがあるのでしょうか。日本ファシリティマネジメント協会が主催する「日本ファシリティマネジメント大賞」から、その具体例を紹介します。
分散していたグループ19社を拠点統合。オフィスと研究施設を断面的に交互に配置し、上下階の回遊性を高める、各所にコミュニケーションスペースを設けるなど、グループシナジーの最大化に向けた、働く場所を選択するワークスタイルへの挑戦を実践。
ICT活用によるワークスタイル改革、BIMとFMの結合による施設管理の効率化などが特徴。スマホを活用する設備操作、位置情報によるユーザー行動分析などの試みも。ファシリティコスト36%削減、利用者満足度33%向上などの成果をあげた、自社オフィスビルでの実験的なFMへの取り組み。
社員の健康増進・疾患予防を経営課題ととらえ、中期経営計画に盛り込む。スタンディングデスクの採用、健康測定ルームの新設、オフィス環境改善、意識啓発活動として漢方を知るワークショップの開催など、社員の健康度、活性度を向上させ、組織の生産性をアップ、事業成績の向上につなげる。健康経営と連携したFM事例。
ファシリティマネジメントのサービス・会社
ファシリティの対象が多岐にわたるため、現在の日本では、不動産会社やビルメンテナンス会社、設計事務所や建設会社、FM管理システムソフト会社、施設付属品の販売メーカー、FM・財務・経営コンサルタント会社など、ファシリティに関係する各業界が、それぞれの得意分野でファシリティマネジメントに関するサービスを提供している状態です。
ただ、前述の通り、本来のファシリティマネジメントとは、部署をまたいだ総合的な経営視点が必要となるものです。アウトソーシング化が進んでいる欧米では、総合的なファシリティマネジメントサービスを提供する会社も台頭してきており、日本でも統合的なサービスの普及が望まれます。
ファシリティマネジメントの資格「認定ファシリティマネジャー」とは?
日本のファシリティマネジメントに関する資格に、「認定ファシリティマネジャー(CFMJ)」があります。
「認定ファシリティマネジャー(CFMJ)」とは、公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会、一般社団法人ニューオフィス推進協会、公益社団法人ロングライフビル推進協会の3団体が協力して実施している資格制度で、2017年の資格登録者は約6700人にのぼります。CFMJは、ファシリティマネジメントに必要な専門知識・能力についての試験を行い、試験に合格し、登録を行った者に与えられる資格となります。
また、その認定内容は、FMの統括マネジメントならびにFMの戦略・中長期実行計画、それに基づく一連のプロジェクト管理、運営維持、FM業務に関する知識・能力など。また、利用者の満足度等の調査・分析やプレゼンテーション等の技術 なども含まれています。
まとめ
かつて、バブルを謳歌していた日本では、施設が古くなったら建て替える「スクラップ&ビルド」があたりまえでした。しかし、バブルは崩壊し、施設は「長く、有効活用する」ものに変化してきています。
また、働き方改革や健康経営など、働く人を取り巻く環境に対する注目度も高まっており、「いかに快適に、効率よく、生産性が高く社員が働くことができるか」という問題は、これからの企業発展を支える重要なカギとなっています。
「ファシリティマネジメント」は、この二つの問題を解決する重要な経営手法です。自社でどのような取り組みから始めることができるのか、まずは現状分析からはじめてみましょう。
