家族手当は、企業が支給する手当の中でも代表的な手当の一つです。多くの企業が長年導入してい今回は、なぜ家族手当が多くの企業で導入されることになったのか、その背景や家族手当の現状、支給額の相場や条件、注意点など家族手当に関して抑えておきたいポイントについて解説していきます。

家族手当とは
家族手当とは、家族がいる従業員に対して企業が支給する手当のことです。法律の定めのない法定外福利厚生なので企業によっては家族手当の支給がないところもありますし、家族手当の支給があっても金額、条件などは企業ごとで異なります。
扶養手当との違い
扶養手当とは、扶養する家族がいる従業員に対して支給される手当のことです。家族手当は扶養が必ずしも条件に含まれないため、扶養家族かどうかが扶養手当と家族手当の最も大きな違いになります。
しかし企業によっては、家族手当という名称であっても家族を扶養していることが条件の場合もあります。家族手当といっても実質は扶養手当という可能性もあるので、企業ごとの詳しい条件や規則を確認しましょう。
一般的に扶養手当の条件として税法上の扶養または社会保険の扶養の限度が参考にされています。配偶者控除を受けられる150万円や、社会保険の扶養から外れる130万円をボーダーラインとして、扶養手当の条件を定めている場合も多いです。
家族手当が導入された背景
現在多くの企業で導入されている家族手当。¥そもそもなぜ多くの企業が採用することになったのか、その背景について説明します。
賃金臨時措置令と核家族化がきっかけ
家族手当が企業に導入されるきっかけになったのは、1939年の10月に公布された賃金臨時措置令です。この法令によって1年間賃金の引き上げが凍結された一方で物価は上昇し続けたため、生活が厳しくなる家族が増えました。
そこで政府は、一定の収入以下の扶養家族に対して企業が家族手当を支給することを許可します。その後扶養家族の範囲の拡充や家族手当の支給額の増額など、家族手当に関する施策の緩和を行うことで、全国の企業に普及することになりました。
更に高度経済成長期に入ると、夫婦と結婚していない子供だけの世帯である核家族化が進みます。夫が働き、妻が家事や育児を担う家族の形が増えていく中、この核家族を支援するという目的で、更に家族手当は企業に定着していきました。
家族手当の現状
前述したとおり戦後多くの企業で導入された家族手当ですが、現在は家族のあり方とともに少しずつ変化が見られています。ここからは家族手当が現在どのような流れになっているのかを解説していきます。
家族手当を廃止、見直しをする企業が増えている
人事院による調査「
職種別民間給与実態調査
」によると、家族手当があると回答した企業が75.9%と、現在でも多くの企業が家族手当を導入していることが分かります。企業の規模別に見てみると、100人以上の企業が77.2%で最も多いという結果となりました。
現在でも多くの企業が家族手当を導入していますが、一方で変化も見られています。令和2年度の調査では、24.1%の企業が家族手当制度がないと回答していますが、前年度である平成31年度の同調査では、22.0%の企業が同じ回答を行い、家族手当制度がない企業が2%上昇しています。
また、5年分の同調査と比較すると最も数値が高いことから、家族手当を導入していない企業が増えているということが分かります。
平成30年度の同調査によると、配偶者に対する家族手当に関しては、見直しを検討していると回答した企業は14.2%にも及んでいるのが特徴です。その内容は、手当を廃止するが24.0%と最も多く、次に手当額の減額が19.5%と続いていて、多くの企業で家族手当の廃止または見直しが検討されているというのが現状として現れています。
なぜ家族手当の廃止が増えているのか
多くの企業で家族手当が家族手当の廃止や見直しを行っていると前述しました。ここからは、なぜ家族手当の廃止や見直しが増えているのか、その理由をいくつかご紹介します。
家族形態の変化
家族手当を廃止する企業が増える理由の1つ目が、家族形態の変化です。前述した通り、戦後は男性が主な働き手であることが、家族手当が普及した理由の一つでした。しかし現在は結婚後も働く女性が増え、共働き家庭も珍しくはありません。
現在の共働き家庭という家族形態と、家族手当の普及の理由や意図が適合していないということが、多くの企業が家族手当を廃止するきっかけとなっています。
配偶者控除の見直し
平成30年に配偶者控除が見直され、これまでは103万円以下だった配偶者控除の対象が、平成30年度からは対150万円以下までに拡充されました。つまり、配偶者控除の対象者の範囲が増えることになったのです。この見直しも、家族手当の廃止の大きな理由の1つとなっています。
なぜ、配偶者控除の見直しが家族手当に影響するかというと、多くの企業では家族手当の支給の是非を、配偶者控除の対象になっているかどうかで判断しているからです。つまり配偶者控除の対象者が拡充されることは、家族手当の対象者が増えることを意味します。
家族手当の対象者が増えれば増えるほど、家族手当を支払う企業の負担は大きくなります。そのため、家族手当の廃止や見直しをすることで、家族手当の負担を抑えたい企業が増えているのです。
成果主義の流れ
家族手当は本人の仕事の能力や成果に関わらず支給される手当です。一定の基準を満たせば誰でも支給される手当のため、近年強くなっている成果主義の流れとはそぐわないのが実情となっています。
成果主義を重んじる経営者や能力や成果に応じた給与を支給する企業が増えていることから、家族手当を廃止する企業も増加しているのが現状です。実際に、家族手当に変わる手当として、スキルや実力を評価した手当を用意している企業もあります。
家族手当の支給額の相場
厚生労働省による調査『就労条件総合調査』によると、家族手当や育児支援手当など、家族に関する手当の支給額は、平均で17600円となっています。1000人以上の規模の企業は22200円、30人〜99人まで規模の会社だと12800円と、企業の規模が大きければ大きいほど金額が高くなるのが特徴です。
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配偶者
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子供
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支給額の相場
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10000〜15000円
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3000〜5000円
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また、家族手当は、子供がいるかどうか、何人いるのかによっても支給される金額が大きく変わります。一般的に、配偶者に支給される家族手当の支給の相場は10000円〜15000円程度、子供への支給額は3000円〜5000円が相場です。
出典:
就労条件総合調査(厚生労働省)
家族手当が支給される条件
家族手当が支給されるには、企業ごとに設けられている条件を満たしている必要があります。主な条件や企業による違いについて解説します。
配偶者や子供がいる
細かな家族手当の支給条件は企業によって異なりますが、家族手当の条件としてまずあげられるのが、配偶者または子供がいるかどうかです。家族手当という名称のため、基本的には独身者には支給されませんが、企業によっては、両親を扶養している場合には年齢や所得等の制限を設けた上で支給する場合もあります。
同居や同一生計で生活をしている
配偶者や子供がいても、別居をしていたり同一生計ではない場合があります。こういった場合も企業によって対応は異なりますが、一般的には同居をしていたり、同一生計内であることを支給条件にしている企業が多いです。
しかし、子供または別居中の両親に仕送りをしている場合は同一生計内で生活しているとみなされる場合が多いなど、一部例外を設けている企業もあります。
所得制限を設ける
扶養手当のように、配偶者または子供の所得によって制限を設けている企業が多いのも特徴です。一般的に基準となることが多いのが先述した配偶者控除ですが、社会保険の被扶養者であるかどうかが条件となる場合もあります。
家族手当のメリットデメリット
家族手当には、メリットもデメリットも両方存在します。ここからは、メリットとデメリットを両方詳しく解説していきます。
メリット:対象者の収入が増えること
家族手当の一番のメリットは、家族手当が支給されることにより対象者の収入が増えるということです。本人の能力や勤続年数に関わらず受け取れる手当のため、安定的に受け取ることができます。成果によって減額されることがないのも嬉しいポイントです。
また、収入は企業で働く際の満足度に大きく関わるため、対象者の収入が増えることで満足度も上がりやすく、離職防止につながります。このように、家族手当のメリットは社員側だけでなく企業側にもあるのが特徴です。
デメリット:独身者に対して不公平感がでること
家族手当のデメリットは、手当を受け取れない人に対して不公平感が出てしまうという点です。家族手当は対象となる家族の人数に応じて支給額が決定されるので、本人の労働時間や能力、業績とは全く関係ありません。
そのためどれだけ会社に貢献し、長い年月働いていたとしても、独身者や共働き家庭は家族手当を受け取ることができません。成果とは関係のない手当は不公平だと感じやすく、会社への不満になりやすくなります。会社への不満が募ると離職にもつながるため、こうした不公平感には対策を講じることが大切です。
家族手当導入の注意点
実際に家族手当を導入した際には、「不正受給の対策」が必要です。条件さえ満たせば誰しもが受け取れる家族手当だからこそ、虚偽申告をすることで不正に家族手当を受給される可能性があるので注意が必要です。様々な対策をとることで、家族手当の不正受給を防ぐことができます。
不正受給を防ぐための対策として、以下の3点が挙げられます。ここからは不正受給を防ぐための対策について、具体的な方法をご紹介していきます。
規定を具体的に設ける
まず不正受給の対策として必要なのが、具体的な規定を設けておくという点です。家族手当の内容や条件、申告方法、資格を解除する場合の条件などを具体的に明記しておくことで、不正な受給を防ぐことができます。家族手当は社員の申告に左右される部分が大きいため、間違った申告や虚偽申告を起こさせない規定づくりが大切です。
また、多様化するあらゆる家族の形に応じた規定を明記しておくことも重要なポイントです。家族に関するあらゆるケースに対応した規定を設けることで、申告漏れやミスを防ぐことができます。
過払いに関する規定や同意を設ける
家族手当は、資格解除の申告が遅れたり、申告をしないことで過払いが発生します。また、本来は支給対象とならないのに支給していたというケースも考えられます。こうした過払いや不正受給は、過去10年分の返還を求めることができますが、返還を求めるにはいくつかの前提条件を満たしていることが必要です。
前提条件の1つ目が、過払いの返還に関するルールが家族手当の規定に予め記載されているかという点です。家族手当に過払いに関する規定を事前に設けておくことで、過払いの請求を相手に請求することができます。
前提条件の2つ目が、申告時と過払いの返還時に社員の同意があるかどうかです。事前に過払いがあったら返還をする内容の同意を事前に行うことが、相手にも過払いが起こった際のルールの周知にも繋がります。
前提条件の3つ目が、過払いを証明できる記録や書類が残っているかどうかという点です。明確な証拠がない場合は過払いが本当にあるのかどうか証明することが難しいですし、口頭での確認だけでは過払いの手続きを進めるのが難しくなります。これまでの支給の記録や申告の書類を揃えておくことが、過払いの返還の手続きをスムーズに進める上で大切なポイントとなります。
マイナンバーで扶養家族の収入が分かることを伝える
先述したとおり、家族手当は扶養している家族の所得によって制限がある場合が多いです。そのため、家族手当の申告をするときに家族の所得をあえて少なく申告するといった虚偽申告が発生する可能性があるため注意しましょう。
現在は、マイナンバーを利用することで扶養家族の収入を会社側で確認することができます。このことを伝えておくと、虚偽申告を防ぐことができますし、不正受給の防止にも繋がります。
定期的に申請内容を確認する
家族関係は、離婚や出産などの理由から変化することが多々あります。また、申告時は支給の対象となっていても、扶養家族の所得の変化により、家族手当の支給の対象外となる可能性も考えられます。
たとえ悪意がなかったとしても、家族手当の対象外となった後も申告をしないままだと不正受給になってしまうため、定期的に申請した内容に変化がないかを会社側から確認をすることが大切です。こまめに確認を取ることで、不正受給や過払いを最小限に抑えることができます。
対象にならない社員への配慮
家族手当のデメリットで、独身者は対象とならずに不公平感が出てしまうと紹介しました。また、近年はライフスタイルや家族の形も多様化しているので、独身者だけでなく様々な理由で家族手当の対象とはならない社員が出てくることも想定できます。
こうした対象外の社員が家族手当を不正受給する可能性も考えられるため注意が必要です。家族手当の対象とならない社員に配慮することで、家族手当に対する不公平感を取り除くことも、不正受給や虚偽申告の防止策となります。
家族手当の条件や注意点を知って正しく支給しよう
ここまで、家族手当の支給金額の相場や条件、注意点などを解説してきました。法定外福利厚生のため支給金額や条件は一定ではなく、企業によって細かな条件の違いがあることが特徴です。勤める企業の家族手当に関する規則をしっかりと確認することで、受給漏れや思わぬ不正受給を防ぐことができます。
