一時帰休とは、会社の何らかの事情で、従業員が一定期間、休業することです。近年では新型コロナウイルス感染拡大による経営上の都合などで、休業を余儀なくされた人も一定数いました。
本記事では、一時帰休の概要や実施する手順、利用する時の注意点など、企業の担当者が知っておきたい内容を解説します。

一時帰休とは?
一時帰休とは、会社の業績悪化による経営不振や売上減少などの事情によって、人件費削減の対策として従業員を一時的に休業させることです。
自社全体の売上が減った場合、従業員の仕事量が減少するため、リソースに制限がかかり、作業する従業員が持て余してしまいます。そこで余剰の対象となった従業員を解雇にせず一時帰休扱いとして対応します。
また、一時帰休は、レイオフとリストラと混同される場合があります。相違点については以下のとおりです。
レイオフ(一時解雇)との違い
レイオフとは、従業員の「再雇用」を条件として一時的に解雇する措置のことです。一時帰休との相違点は、解雇するかしないかです。
レイオフの事例として挙げられるのが、コロナ禍によってフライト数が大幅に減少したニュージーランド航空です。2020年に世界の従業員の約3分の1に相当する3500人がレイオフの対象となりました。
参考
NZ航空が3500人削減へ、新型コロナによる需要激減で=CEO | ロイター
リストラ(整理解雇)との違い
リストラは、不採算部門の整理といった業態自体の再構築による余剰人員を整理するための解雇を指します。一時帰休との相違点は、レイオフと同様、解雇するかしないかです。
また、リストラを実施するにあたり、人員削減の必要性や解雇回避の努力などの要件を満たさなくてはなりません。ほかにも労働基準法20条に則り、少なくても30日前に解雇の告知をしなくてはなりません。
参考
解雇の予告(第20条) | 栃木労働局
労働契約の終了に関するルール|厚生労働省
一時帰休中の賃金はどうなる?
従業員が一時帰休扱いとなった場合、最も気になるのが生活に絡んでくる賃金のことでしょう。こちらの章では、賃金にまつわることについて紹介します。
休業手当の計算方法
休業手当の計算方法は、
平均賃金×60%以上×休業日数 です。
原則として1円未満の端数 は50銭未満が切り捨て、50銭以上切上げの計算となります。
厚生労働省の休業手当の計算方法に計算例が掲載されていますので、確認してみてはいかがでしょうか。
最低保証額について
最低保証額とは、事由が発生した日以前の3ケ月間に支払いの対象となった賃金の総額を、その期間の労働日数で割った金額の60%に相当する額を指します。一時帰休となっても最低保証額が支給されるので、最低限の生活ができます。
一時帰休に対する支援
一時帰休になった従業員を支える目的として、支援体制も整えています。ここでは主な支援について解説していきましょう。
企業向けの「雇用調整助成金」
雇用調整助成金とは、不況や業績不振により事業の縮小を余儀なくされた管理者が、雇用の安定を図るための休業手当に要した費用を助成する制度です。
参考
雇用調整助成金 |厚生労働省
労働者向けの「休業手当」
労働者向けの休業手当は、労働基準法第26条に則る形で会社側の都合で従業員(労働者)を休業させた場合、休業させた所定労働日の賃金を支払う流れとなります。なお、手当の支払いは平均賃金の6割以上です。
参考
賃金の支払い(第24条) 休業手当(第26条) 労働時間(第32条) | 愛媛労働局
一時帰休を実施する際の手順
一時帰休を実施する場合、手順を知っておくとスムーズに手続きが進みます。手順については以下の流れとなるので、知っておきましょう。
①実施する条件の明確化
一時帰休は、あくまでも一時的な休業扱いであり、無期限休業ではありません。
ただ従業員を休業させるのではなく、休業する期間や条件、業績回復の見込みなど、会社の未来にまつわることを従業員に説明をしないと、従業員の不安が募るばかりです。従業員に一時帰休がなぜ必要かという理由を証明するためにも、実施する条件の明確化は必ずやっておきましょう。
②対象者と期間の決定
一時帰休の期間も従業員には、一定の給与が支払われます。ただし、通常稼働よりも給与は減少するので、従業員の経済面の影響を考慮し、なるべく短期間に定めることを意識しましょう。
また、自社の経営難による一時帰休を選んだ企業に関しては、国から休業手当の一部が雇用調整助成金として付与されます。雇用調整助成金につきましては、支給できる限度日数や受給条件が定められているため、条件を満たしているかを確認しましょう。
雇用調整助成金ガイドブックにも詳しい情報が掲載されていますので、目を通しておくと良いでしょう。
③期間中の条件の決定
一時帰休期間中の休業手当は、労働基準法第26条に基づき、平均賃金の60%以上の賃金を休業手当として支払う流れとなります。
ただし、従業員の中には給与40%がカットされるのは、家計が苦しいという層も少なからずいます。このような人たちが生活で困らないよう、従業員それぞれの状況に相応しい休業手当を提示することが必要です。多くの支払いができないという企業は、従業員の副業を認めるといったことも検討しましょう。
参考
休業手当の計算方法
④実施にあたっての協議・説明
一時帰休にまつわる労使協定の締結が完了しているなら、その内容に基づいて協議するだけでなく、従業員の不安を取り除くためにも休業に関する細かい説明が必要です。
一時帰休対応時の注意点
企業が一時帰休の対応をする場合、従業員が休業に入っても安心して生活できるよう、注意しなくてはならないことがあります。主な注意点は次の4点です。
雇用形態に関わらず同様に扱う必要がある
一時帰休の対象者は、正社員や契約社員だけでなく、アルバイトやパート、派遣社員などといった非正規雇用者も含まれています。つまり、雇用形態が異なっても休業手当は支給されます。ただし、派遣社員の一時帰休に関しては、派遣先ではなく派遣会社を通じて対応します。
年次有給休暇の取り扱い
一時帰休中の従業員から年次有給休暇の取得を希望するケースもあります。原則として、年次有給休暇は労働日のみ取得となっているため、一時帰休といった休業扱いの期間に取得できません。
ただし、会社の都合で従業員に一次帰休を要請している観点から考えると、年次有給休暇を希望する従業員に対して休業手当か年次有給休暇のいずれかを選んでもらうことも可能です。
従業員の副業を許可するか検討する
一時帰休になった場合、当然のことながら従業員の収入が減ります。経済面で安定した生活を送るためにも、副業を許可するかどうかも検討しておきましょう。もし、副業を認めるという場合、同業の副業を認めないなどのいくつかの条件も決めておくと、従業員も副業を探しやすくなります。
社会保険料の支払い義務がある
一時帰休中に支払われる社会保険料に関しては、通常時の賃金と同等の扱いです。つまり、通常の給与と同じ金額の社会保険料が差し引かれる流れとなっています。給与が減ったから連動して社会保険料が減ったという訳ではありません。また、雇用保険や労災保険なども控除の対象となります。
社会保険料など控除の対象になるものは、従業員に必ず説明をしておきましょう。
一時帰休を取り入れるなら従業員に信頼を得られる対策をしよう
一時帰休の場合、収入が一時的に減少しても社会保険料の金額が通常時と変わらないなどの状況が発生します。このような点は、従業員の生活にも絡む内容なので、企業側としてもきちんとした説明が必要になります。本記事の一時帰休の実施手順や注意点も参考にしながら、自社にとって最適で、かつ従業員から信頼を得られるような対策を考えていきましょう。
