努力や行動で成長できるという考えを、「成長マインドセット」といいます。成長マインドセットは、個人の成長だけではなく、組織成長にも関わる重要な概念です。ここでは、成長マインドセットの意味から、個人・組織で醸成するためのステップについて解説します。

成長マインドセットとは?
成長マインドセットとは、「人は努力によって能力を伸ばせる」と考える思考をいいます。成長型マインドセット、もしくはグロースマインドセットとも呼ばれ、スタンフォード大学心理学教授のキャロル・ドゥエック氏が提唱した考え方です。キャロル氏が長年の研究をまとめた著書『MINDSET』(邦題:「やればできる!」の研究)は世界的にベストセラーになりました。
成長マインドセットのある人は、困難に遭遇しても、成長の機会と捉え、努力することができます。ゆえにチャレンジ精神が旺盛であり、失敗を恐れないという特徴があります。成長マインドセットを持つ人材が多い組織は、不確実性の高い状況でも、新たな事業に挑戦したりと、変化を続けることができます。
固定マインドセットとの違い
固定マインドセットとは、成長マインドセットとは異なり、「人の能力は先天的なものである」と考える思考をいいます。固定マインドセットを持つ人は、もともとの能力は変わらないと考えるため、努力を避ける傾向があります。チャレンジ精神に乏しいため、困難に遭遇するとすぐに諦めてしまいます。
成長マインドセットがもたらす効果
そもそもマインドセットとは、物事の考え方や思考のほか、判断基準などを指します。個人の特定として成長マインドセットが語られるほか、組織にも独自の価値判断基準や物差しがあります。「ミッション」や「企業理念」などは、組織のマインドセットを表すものです。こうした部分で、成長マインドセットを有していると、組織全体の成長を導いたり、生産性を向上させたりといったメリットが見込めます。
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社内全体の成長意識が高まる
成長マインドセットがあると、社員が困難や課題に直面したとき、乗り越えようと行動します。また、「現状のまま」で甘んじることなく、変化を求めて努力を続けます。その結果、社内全体の成長意識が高まります。
生産性が向上する
成長マインドセットは、一つひとつの業務のやり方にも反映されます。改善点があれば、より良い方法を考え、行動に移します。無駄を省き、効率を重視するという判断基準を持って業務に取り組めるため、組織全体の生産性が向上します。
顧客満足度がアップする
成長マインドセットが組織全体にいきわたっている場合、顧客に対しても、よりよいサービスを検討します。顧客からのフィードバックに真摯に耳を傾け、自社の改善点を見つめなおすことができます。成長マインドセットを持つ人は、失敗を他人のせいにせず、自らの努力によって変えようと考えることができます。その結果、サービスが向上し、顧客の満足度アップにつながります。
成長マインドセットを獲得するステップ
マインドセットとは、いわば考え方です。意識を続けることで、成長マインドセットに変えることができます。成長マインドセットを養うための、基本のステップを見てみましょう。
ステップ1:現状のマインドセットを理解する
成長マインドセットを養うために、まずは現状のマインドセットを理解しましょう。困難が生じたときや、トラブルが発生したとき、自分がどのようなマインドセットに傾くのか、傾向をつかむことで、その後の目指すべき方向が明確になります。
たとえば、営業目標に対する期中の振り返りで、目標進捗に満たないと判明した途端、「どうせ達成できないのだから」とやる気を失ってしまう人がいたとします。このような傾向は、その人の過去の経験や価値観から導き出されています。完璧にできない=失敗という考えが、成長マインドセットを阻害してしまうのです。
このように、自身のマインドセットを振り返ることで、どのような状況や要因につまづきやすいのか、気づくことができます。
ステップ2:目標を言語化する
成長マインドセットを養うためには、その人自身が、目標に対して意識的であることが重要です。何を達成しなければいけないのか、そのために何をするべきなのか、目標に沿って具体的な行動を言語化しましょう。
なお、会社の経営戦略など組織の方向性に合わせて目標を立てる場合、目標に対する個人の納得度が重要です。たとえば、期初に目標設定面談を行ったり、本人のキャリアに合わせた目標を設定したり、すり合わせを行うと、成長マインドセットの傾向があらわれやすくなります。
ステップ3:継続的に行動する
成長マインドセットを養うためには、具体的な行動を継続させる必要があります。行動を継続できる環境を整えることが重要です。たとえば、具体的な行動についてマイルストーンを定め振り返りの場を定期的に持つことは、個人の継続的な行動をサポートします。継続的な行動は、小さな成功体験につながります。「できている」という実感が、成長マインドセットの獲得につながるのです。
ステップ4:フィードバックを行う
無意識的な行動は、自分では気づきにくいものです。そこで、第三者からのフィードバックがあると、失敗したときは改善点を見つけることができ、成功したときはより自信をつけることができます。
フィードバックでは、結果だけに触れるのではなく、過程を重視することが重要です。たとえば、プロジェクトが成功した際に「○○さんなら成功すると信じていたよ」と結果だけに触れてしまうと、当人のなかには成功しないと誉めてもらえないというプレッシャーが生まれかねません。成功に至るまでの努力や工夫についてフィードバックをすることで、当人は挑戦そのものを再現しようと考えます。その気持ちが、成長マインドセットの獲得につながるのです。
ステップ5:自己内省を行う
第三者からのフィードバックについて、自己内省を行うことも重要です。行動や考え方を振り返ることで、現状のマインドセットの傾向に気づくことができます。
ステップ6:PDCAを回し、成功体験を積み重ねる
ステップ5の自己内省は、ステップ1の現状のマインド把握につながるものです。成長マインドセットの獲得は、一度きりで終わるのではなく、現状把握→目標設定→行動→改善とPDCAを回し、成功体験を積み上げることが重要です。成功体験が、「やればできる」「行動すれば変わる」と思考を変え、ひいては習慣となります。
成長マインドセットを身につける際の注意点
成長マインドセットを獲得するためには、いくつかの点に注意することが重要です。社内で部下の育成指導に携わるときなどは、「プロセスの重視」「小さな成功体験」を念頭において接してみましょう。
成功体験は小さなものからはじめる
成功体験は成長マインドセットを養います。しかしながら、大きな目標を立て成功体験を得ようとすると、途中で頓挫する可能性も高くなり、逆に固定マインドセットに陥りかねません。部下の育成に関わる際などは、本人の能力を見極めながら、小さな目標を立てましょう。タスクを分解したり、時間軸を短く設定することで、短時間で成功体験を積み重ねることができます。
成長マインドセットの獲得は中長期的視点で関わる
マインドセットは、個人の思考や組織文化と密接に関連しています。そのため、「この前まではできていたのに…」と、一度成功したことでも、逆戻りしてしまうことも珍しくありません。とりわけ、組織変革などの過程で成長マインドセットを養おうとする場合、これまでの価値観を否定するといったプロセスを経るため、個人がストレスを感じることも珍しくありません。
部下の育成などに携わる際には、短期視点ではなく中長期的視野で関わりましょう。
成長マインドセット獲得に力を入れる3つの企業事例
最後に、社員や組織の成長マインドセットの育成に力を入れる企業事例をご紹介します。
①言語化した「クレド」で社員の成長マインドセットを促進|リッツカールトン
リッツカールトンは、世界的に名高いサービスを提供することで知られています。その品質を支えるのは、リッツカールトンの指針を言語化した「クレド」です。リッツカールトンは、「従業員との約束」のなかで、以下のように述べています。
「信頼、誠実、尊敬、高潔、決意を原則とし、私たちは、個人と会社のためになるよう持てる才能を育成し、最大限に伸ばします。」
企業の方向性を明確に言語化し、浸透に力を入れることが、個人の自信向上と成長マインドセットの獲得につながっています。
参考:ゴールドスタンダード
②人材育成の場で成長マインドセットを取り入れる|富士フイルム
富士フィルムでは、社員研修など人材育成の場でマインドセットを取り入れることで、組織成長に繋げています。デジタル技術の進化で縮小した写真フィルム市場に固執せず、液晶事業や医療技術事業など、新規事業を広げた富士フィルムの躍進の裏側には、困難な場面でも成長志向を絶やさないというマインドセットがありました。さらに、異文化で力を最大限発揮するためのマインドセット研修を、グローバル展開にも取り入れています。
参考:人材育成と働き方
③企業理念から評価制度まで浸透する成長マインドセット|株式会社丸井グループ
丸井グループでは、企業理念に「人の成長=企業の成長」を掲げています。個人の成長を促すために、中長期的視点に立った評価制度を実施。個人の成長と主体的な取り組みを促すために、バリュー評価を設定し、チーム内の360度評価と評価会議で評価を決定します。また、個人が改善点や成長について気づきを得るための期中面談なども行っており、評価・フィードバック・進捗確認とPDCAを回しながら成長マインドセットの獲得に努めています。
参考:新たな成長に向けた「人材への投資」
成功体験の積み重ねで成長マインドセットの獲得につなげよう
個人の行動を変えるには、努力で能力は伸びるという成長マインドセットを持つことが重要です。成長マインドセットは、個人だけではなく組織の成長にもつながります。組織全体の成長を検討する際は、企業方針を言語化すると共に、個人の能力向上につながるような研修・評価制度を実施しましょう。
