労働人口減少が著しいと叫ばれる今日の日本では、働き方改革のように従業員のパフォーマンスを高め、より長く働ける環境を整えることが企業の課題になっています。そうした従業員満足度を高めることが重視される中、健康経営という言葉も注目を集めています。
2016年から経済産業省も「健康経営優良法人」のような認定制度を設け、国を挙げて健康経営に力を入れていることがわかります。しかし、何をもって健康経営と見なすのか、その基準や具体的な施策は何があるのかイマイチ分かりづらいのが実情です。
そこで、本記事ではまず健康経営とはなにか、どんなメリットがあるのかをご紹介します。そのあとで、具体的な事例やツールなどを紹介して、健康経営を実現させるための方法を見ていきます。

健康経営のメリットとは
健康経営という言葉を耳にすることが増えて、国も力を入れていることから重要だということは分かっても、どういったメリットがあるのかは把握しづらいです。まずは健康経営を実現することで企業にとってどんなメリットがあるのかを見ていきましょう。
従業員満足度向上
健康経営とは「従業員の健康管理を経営戦略の1つ」として考えて、それに取り組むことを指します。企業を支えるのは働く従業員であり、いくら優れた経営方針を打ち出したとしても業績が成長し続ける事はありません。健康経営によって従業員の健康などの生活の質を高める取り組みをすることで、働きやすさが実現して従業員満足度が向上します。
それが結果として企業としてのパフォーマンス向上や業績向上につながる、といった投資的な戦略として健康経営が有効だとされています。
人材定着率向上
従業員にとって働きやすい職場環境を実現することで離職率の低下が見込め、人材定着率の向上が期待できます。積極的に人材に投資を行うことで、採用にかかるコストや教育にかかるコストより低く抑えられます。それによって企業にとってはコストを抑えられ、従業員にとっては働きやすさが実現してエンゲージメントが高まることが期待されます。
採用のアピールポイント
離職率の低さは求職者にとって1つの基準となるため、人材定着率を上げることは人材獲得の際に大きなアピールポイントになります。
また、経産省の健康経営優良認定法人に認定されたこと、健康経営銘柄やホワイト500に選定されたということも企業のアピールになります。選定されることで従業員のことをしっかり考えて、長く働ける職場環境であるということを外部からも確認できるため、人材獲得で有利になります。
生産性向上
近年は従業員の生産性を考える上でプレゼンティーズムという言葉が注目されています。プレゼンティーズムとは「会社に出勤しているものの健康上の問題で業務パフォーマンスが低下している状態」のことを指します。このプレゼンティーズムによる損失コストは欠勤などの損失より大きいとされているため、企業にとってはプレゼンティーズムが発生しないような取り組みをすることが求められています。
健康経営に取り組むことで従業員のプレゼンティーズムを未然に防ぎ、従業員の生産性を最大化させることができます。
健康経営に取り組む企業の事例
健康経営優良法人認定制度の評価項目に合わせて、企業の取組事例をご紹介します。
2018健康経営銘柄 選定企業紹介レポート より
健康課題の把握
全従業員に個別面談を行い健康課題を発見|味の素株式会社
味の素株式会社では従業員の健康課題を把握・発見するために、様々な方法を提供し、それぞれの社員に適した取り組みの助言を行っています。
・全員面談:健康診断後に産業保険スタッフと個別面談することをルール化しています。これによって従業員の健康状態や生活習慣に適した取り組みを助言することができます。
・健康アプリ「カラダわかるNavi(現カロママ プラス)」:食事の写真を撮るだけでメニューや食材、食事の量をAIが自動認識してアドバイスを提供する機能や、カラダ情報と連携する機能を通じて健康データを手軽に蓄積させる機能のあるアプリを導入。さらなる健康管理の把握や、情報入力の手間の削減を進める。企業の健康管理担当者には従業員へのメッセージ機能があり、生活習慣や利用動向を分析できる分析画面から分析することも可能。
・環境の課題の共有:労働環境などの組織的な課題が見つかった場合には会社への働きかけを行い解決するための取り組みを行っていきます。
月1回のミーティングで全社的に対策を立案|花王株式会社
花王株式会社では「健康リテラシー」の向上のための情報共有・考察の活性化を行っています。
・ミーティング:効果的に健康増進に向けた対策が行えるように、会社と健保組合で月1回の定例ミーティングで各施策を議論したうえで立案しています。
・健康白書:従業員の健康情報を健康白書としてまとめ、性別、年齢、部門ごとの数値を分析しています。それによって施策の効果を検証して改善を図っています。
・研修、広報:健康知識についての自社従業員研修を行い、また、こうして蓄積した知見を、広く社会に広めるためのプロジェクトをWebページや実際地方に回って診断・講演を兼ねたイベントとして推進している。
ワークライフバランスの推進
時間あたりの生産性に報奨金|住友林業株式会社
住友林業株式会社では、長時間労働を是正し、生産性の向上することを目指した取り組みをしています。
・実カウント制:みなし労働時間制から実カウント制に移行しました。
・報奨金:時間あたりの生産性に対してインセンティブとなる報奨金を導入することで、従業員ひとりひとりが、効率的に早く仕事を終わらせるように促します。
・pCシャットダウン:住宅部門では長時間労働が常態化していたため、パソコンシャットダウン時刻を早める、計画年休の設定などを行うことで長時間労働の削減に取り組んでいます。
コニカミノルタ株式会社|体感型測定会によるヘルスリテラシーの向上
コニカミノルタでは、従業員のヘルスリテラシーを挙げるため、データで示し、改善を促します。
・測定会:ヘルスリテラシーの低い従業員のために、内臓脂肪や骨密度を測定してその場でデータを確認できる体感型測定会を開催しています。その場でデータがわかるだけでなく、専門スタッフによるアドバイスも実施しています。保健指導の対象者や健康診断後のフォローとして行い、従業員の健康状態の指標が主要企業10%以内に入ることを目指しています。
職場の活性化
職場ごとの健康増進活動でコミュニケーション活性化|株式会社デンソー
リクナビネクストジャーナルより
株式会社デンソーではコミュニケーション活性化に向けて、全社運動会やヨガ体験会など職場ごとの健康増進活動を行っています。職場ごとに行うことで単に健康増進に貢献するだけでなく、組織的な活動によって職場活性化のつながります。今後は職場表彰制度なども導入して一層加速させいてく予定だそうです。
家族も参加するレクリエーションで職場活性化|凸版印刷株式会社
凸版印刷株式会社では職場活性化のために、なんと家族も含めて4000名以上が参加する運動会や事業所別のレクリエーションを行っています。こうした様々なアクティビティによってコミュニケーションが生まれ、組織の一体感を高めています。個人の能力とチームワークを最大限に発揮でいる組織づくりを実現しています。
健康増進・生活習慣病予防対策
健康ポイントを付与して生活習慣病を予防|株式会社ベネフィット・ワン
・「健康ポイントプログラム」:株式会社ベネフィット・ワンは従業員の生活習慣病を予防するために、従業員の日々の体調管理や健康的な取り組みにポイントを付与する「健康ポイントプログラム」を導入しています。溜まったポイントは健康関連商品に交換することができます。
・ウォーキングイベント、禁煙チャレンジ:全社的に健康にまつわるイベントを開催し、健康的な生活を習慣化できるような取り組みを行っています。
全社的に生活習慣づくりに取り組む|株式会社丸井グループ
株式会社丸井グループでは従業員の健康増進をするために、部門対抗の健康コンクールや全社員を対象にした骨年齢や肺年齢の測定体験会を実施しています。朝食や運動習慣など従業員が健康的な生活を包括的にサポートしています。
・マインドフルネス講座:疲労回復をするための知識の一環としてマインドフルネス講座を行っています。
メンタルヘルス対策
ストレスチェックテストを全社員に実施|JFEホールディングス株式会社
JFEホールディングス株式会社ではメンタルヘルスの向上に向けて、検診や情報の共有を行っています。
・ストレスチェックテスト:全社員にストレスチェックテストを実施しています。従業員に気づきを与えるだけでなく、職場ごとの分析を行い職場環境の改善も行っています。
・情報共有:健保組合と連携して生活習慣予備群やメンタル関連疾患の状況を、経営陣も参加する会議で共有しています。定量的なアプローチをすることで問題を早くみつけ、
産業医による独自のストレスチェック|東京急行電鉄株式会社
東急急行電鉄株式会社ではメンタルヘルス対策として、産業医による独自のストレスチェックを行い面談対象者を抽出しています。面談対象者は産業医や保健師、上長との個別面談を行い不調の原因特定や解決に取り組みます。
また、新入社員や異動があった社員に対してもストレスチェックを行い、高いストレスがある人に対応できる体制を作っています。こうした取り組みによって、メンタルの不調による長期休業者はほとんどいない状態を実現しています。
健康経営を実現するためのツール・サービス
健康経営の実践に向けた基礎的な土台づくりとワークエンゲイジメント
オフィスおかん
オフィスおかん
評価項目:健康増進・生活習慣病予防対策(食生活の改善に向けた取り組み)
毎日お弁当を宅配する宅配弁当サービスなどとは違い、オフィスに専用冷蔵庫を設置し、その中にお惣菜やご飯を提供するサービスです。一品100円となっており、利用者は冷蔵庫から好きなものを取り出し、電子レンジで温めるだけ。専用のトレーや箸類、ご飯などもあるので、まさにその場で社食ができあがります。
オフィスおかんの大きな特徴は、利用時間の制限なしに、添加物控えめのヘルシーな食事を摂ることができることです。ランチに限らず好きな時間に利用することができるので、ちょっと小腹がすいたときや残業時の夜ご飯にも活用可能。すべての働く人の味方となるサービスです。
[利用可能エリア] 日本全国
[ラインナップ] お惣菜・汁物・カレー・ご飯など(使い捨て容器や箸類も合わせてご提供)
フィット・リブ
フィット・リブ
評価項目:健康増進・生活習慣予防対策(運動機会の増進に向けた取り組み)
フィット・リブはエクササイズのレッスン動画を好きなときに見ることができるサービです。1畳程度のスペースからできるエクササイズもあるので、職場で休憩時間に行うことも想定されています。
従業員の健康課題の把握と必要な対策の検討
職場のストレスチェック+plus
職場のストレスチェック+plus
評価項目:健康課題の把握(ストレスチェックの実施)
職場のストレスチェック+plusは、厚生労働省のガイドラインに準拠したストレスチェックをWeb上で手軽に実施することができるサービです。Web上で従業員の回答状況を確認できる他、レポートの作成、状況改善のための助言、提携医療機関によるカウンセリングサービスまで包括的にサポートしています。
従業員の心と身体の健康づくりに向けた具体的対策
FiNC for BUSINESS
FiNC for BUSINESS
評価項目:ヘルスリテラシーの向上(教育機会の設定)
FiNC for BUSINESSは健康経営をトータルサポートするサービです。その中にあるFiNCウェルネスラーニングは、従業員のヘルスリテラシーを向上し行動変容を促す機能になります。健康経営施策を実施しても参加率が悪いなどの問題があることから、FiNCウェルネスラーニングでは明日からすぐ使える知識の問題、正答率を全国平均と比較できるなど様々な工夫がこらされています。
運動会屋
運動会屋
評価項目:職場活性化(コミュニケーションの促進に向けた取り組み)
運動会屋は運動会を開催するときの企画、運営、会場の手配などを行ってくれるサービスです。全社的な取り組みとして運動会を行うことで、部門を超えたコミュニケーションが生まれ組織の一体感を高めることができます。
まとめ
人口減少に伴う人材獲得競争や生産性の向上など、これから健康経営の重要性はますます高まっていくでしょう。具体的に施策を実施していく上では健康経営優良法人の選定項目を参考にしながら、会社の抱える課題に合わせた適切な取り組みをすることが大切です。会社と従業員のためにも、今回紹介した事例やサービスの中から取り入れられそうなものを検討していきましょう。
