従業員の健康増進を重視する企業が増える中、健康経営の中心的な役割を担う「健康経営アドバイザー」への関心が高まっています。具体的にどのような資格なのか分からないという企業担当者の方は、主な役割や資格取得の流れを確認しておきましょう。上位資格である「健康経営エキスパートアドバイザー」の概要も併せて紹介します。

健康経営アドバイザーとは?
健康経営アドバイザーとは、健康経営に関する知識を体系的に学んだことを認定する資格です。健康経営の普及・推進を担う人材の育成を目的として、経済産業省から委託を受けた東京工業会議所により、2016年に創設されました。資格の認定に必要な研修プログラムを受講した人は、延べ3万人以上に上ります。
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産業医との違い
従業員の健康づくりを推進する上で、大きな役割を果たしているのが産業医です。それでは、健康経営アドバイザーと産業医にはどのような違いがあるのでしょうか。
① 法的な位置づけ
まず、両者は法的な位置づけが異なります。産業医は「労働安全衛生規則」の中で設置が定められていますが(50人以上の事業場の場合)、健康経営アドバイザーは労働者の人数にかかわらず、設置の義務がありません。
② 業務上の役割
産業医の主な役割は、医師という専門的な立場から従業員の健康を守ることです。健康診断やストレスチェックの結果を精査することで、一人ひとりの健康状態・精神状態を把握し、必要に応じてアドバイスを行います。
一方の健康経営アドバイザーは、従業員一人ひとりの健康を直接的に支援するわけではありません。従業員が抱えている健康課題をすくい上げ、経営的な視点から、より良い解決策を計画・実行します。
③ 資格の取得難易
健康経営アドバイザーよりも、産業医の方が資格取得のためのハードルが高いです。産業医になるには、医師の国家資格が必須で、なおかつ所定の研修を修了するなどの条件があります。
一方の健康経営アドバイザー資格は、誰でも受験できる上、一度テストに不合格となっても何度でも再受験が可能です。「受講さえすれば取得できる資格」と考えてよいでしょう。
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健康経営エキスパートアドバイザーという上位資格も
健康経営アドバイザーの上位資格として、「健康経営エキスパートアドバイザー」という資格があります。健康経営アドバイザーと同様、東京商工会議所が認定しており、健康経営に取り組む中小企業をサポートする専門人材と位置づけられています。
健康経営エキスパートアドバイザーのプログラムを受講するには、健康経営アドバイザーの認定を受けていることに加えて、所定の資格(中小企業診断士・医師・看護師など)または健康・医療・人事・労務に関する実務経験が必要です。
健康経営アドバイザーの3つの役割
健康経営アドバイザーの主な役割は、従業員が抱えている健康課題を把握した上で、適切な解決策を立案・実行することです。おおまかに下記の3つに分類できます。
それぞれの具体的な内容について見ていきましょう。
役割① 社内における健康課題の抽出
健康経営アドバイザーがまず行うべきことは、社内における健康課題の抽出です。健康診断やストレスチェックの結果、出勤率、社内アンケートなどを活用して、従業員がどのような健康課題を抱えているのか把握します。
役割② 効果的な施策の立案・実行
従業員が抱える健康課題を把握したら、それらを解決するための施策を立案し、実行していきます。
たとえば、「健康診断の受診率が低い」場合は、診断を受けることの重要性を理解してもらうための取り組みや、仕事量を考慮した上で診断日を設定するなどの対策が必要になってくるでしょう。
「朝食を食べていない人が多い」というケースでは、食の重要性を伝えるセミナーの実施や、惣菜を常備した冷蔵庫を設置するサービスの導入といった方法が考えられます。
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役割③ 施策の効果検証と改善策の立案・実行
健康経営は成果を数値化しづらく、ともすれば形式的で効果が薄い施策を惰性で続けてしまう恐れがあります。目標の達成度をはかる指標であるKPIをきちんと設定し、施策を行った後の効果検証を繰り返し行うことが重要です。
思ったような成果を挙げられなかった場合は、問題点を洗い出して改善策を考え、新たな施策を立案・実行していきます。このようにPDCAサイクルを回していく過程で、健康経営アドバイザーが身につけている専門的な知識が活かされるでしょう。
健康経営アドバイザーの資格を取得する3つのメリット
健康経営アドバイザーを自社に配置することには、社内に健康経営を浸透させ、従業員の健康意識を高められるというメリットがあります。そのほか、従業員の信頼感アップや企業イメージの向上も期待できるでしょう。
ここでは、健康経営アドバイザーの資格を取得するメリットを、大きく3つに分けて紹介します。
メリット① 従業員の健康意識を高められる
人の健康を支えているのは、その人自身の日々の生活です。従業員一人ひとりの意識が変わり、日常生活をより健康的なものへと変えることができなければ、健康経営は成果を挙げられません。
専門性を備えた健康経営アドバイザーであれば、従業員の健康課題を丁寧にすくい上げ、的確な施策により解決に導くことが期待できます。これらの取り組みを通じて社内に健康経営が浸透していけば、従業員の健康に対する意識も自ずと変化していくはずです。長期的には、従業員の健康増進を重視する企業文化の醸成にもつながるでしょう。
メリット② 社内で信頼を得られる
専門的な知見を客観的に証明する資格を持つ人の言葉には、説得力があります。健康経営の取り組みに懐疑的な人や、旧来の方法を変えたがらない人に対しても、健康経営アドバイザーが説明することで、納得感を持ってもらいやすいでしょう。
また、健康経営アドバイザーは資格取得のプロセスにおいて、健康経営が必要とされる背景や実際の成功事例について詳しく学んでいます。これらの知識は、社内で決裁権を持つ人物に、健康経営施策の有用性をプレゼンテーションする際にも役立つでしょう。
メリット③ 企業のイメージアップになる
健康経営アドバイザーが自社に在籍していることを周知すれば、従業員の健康増進を重視する企業であると対外的にアピールできます。
具体的な方法としては、「名刺に肩書きとして記載する」「認定者がいることをホームページに掲載する」などが挙げられます。優秀な人材の確保につなげるために、採用パンフレットや採用サイトに記載してもよいでしょう。
また、「従業員の健康を重視し、大切にしている」という企業イメージは、現在働いている人たちの自社に対する安心感・信頼感にもつながるはずです。その結果、離職率の低下や業務に対するモチベーションアップも期待できます。
健康経営アドバイザーの資格取得方法
健康経営アドバイザーのプログラムは、申し込みから資格の取得までオンラインで完結します。特定の試験会場で筆記試験を受けたり、面接を受けたりする必要はありません。
具体的な資格取得の流れや費用、気になる難易度について見ていきましょう。
受講資格
健康経営アドバイザーに受講資格はありません。年齢や学歴、職業に関係なく誰でも受講できます。
資格取得の流れ
- 健康経営アドバイザーのおおまかな資格取得の流れは下記の通りです。
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- 1.東京商工会議所のホームページから受講を申し込む
- 2.テキストと動画で学習
- 3.効果測定の実施(7割以上の正答率で合格)
- 4.健康経営アドバイザーに認定
登録した住所に送付されるテキスト(全277ページ)と動画にて、健康経営が求められている背景や実践する際のポイントについて学びます。動画は、パソコン・タブレット・スマートフォンで視聴可能です。
学習後、オンライン上で効果測定(4択式)を行い、全10問中7問以上の正答で合格となります。基準に満たなかった場合でも、利用期間内であれば何度でも再受験が可能です。
認定されると、マイページから認定証(PDF)がダウンロードできます。
資格概要
健康経営アドバイザーの資格概要は下記の通りです。
受講資格
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誰でも受験可能。年齢・職業・学歴等は問わない。
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申し込み日程
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随時
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受講料
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8800円(税込)
※テキスト費、動画受講料、IBT受験料を含む
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試験実施日程
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随時
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出題形式
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IBT4肢択一式 10問
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合格基準
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10問中7問以上に正解すること
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結果発表
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試験終了後すぐに判定。WEB上の画面に表示される。
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受験後の手続き
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▼合格した場合 マイページから認定証(PDF)を出力可能。
▼不合格の場合
マイページ内に表示される利用可能期間内のみ、何度でも再受験が可能。
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認定期間
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2年間(2年ごとの更新が必要)
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更新料
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8800円(税込)
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気になる難易度は?
健康経営アドバイザー資格の難易度は高くありません。効果測定で基準(正答率7割)に達しなかったとしても、何度でも再受験が可能です。
受講者をふるいにかけるタイプの資格試験ではなく、健康経営に関する体系的な学びの機会の提供を目的とする試験と考えて差し支えないでしょう。
2年ごとの更新が必要
健康経営アドバイザーには、2年間の認定期間があるので注意しましょう。更新の際に、8800円(税込)の更新料が必要です。
健康経営エキスパートアドバイザーの資格取得方法
・健康経営アドバイザーの上位資格である、健康経営エキスパートアドバイザーの資格取得方法についても確認しておきましょう。
受講資格
健康経営エキスパートアドバイザーのプログラムは、以下の2つの要件を両方満たしている方のみ受講可能です。
1)健康経営アドバイザー認定者
2)所定の資格を有している、または所定の実務経験がある
「所定の資格」は下記の通りです。
- 中小企業診断士
- 社会保険労務士
- 医師
- 保健師、看護師
- 労働衛生コンサルタント
- 管理栄養士
- 健康運動指導士
上記の資格を持っていない場合でも、下記の「所定の実務経験」(おおむね1年以上)があれば、事務局の判断により受講可能となります。
- 健康・医療・保健に関する実務
- 経営に関する実務
- 人事労務に関する実務
- 健康経営に関する実務
なお、健康経営アドバイザーの認定期間が過ぎており、更新されていない場合は対象となりません。
資格取得の流れ
健康経営エキスパートアドバイザーの認定を受けるには、全国の試験会場で行われる「知識確認テスト」に合格し、ワークショップに参加する必要があります。
申し込みから認定までの流れは下記の通りです。
- 1.マイページから「健康経営エキスパートアドバイザー研修」に申し込む
- 2.テキストと問題集で学習
- 3.指定の会場にて「知識確認テスト」を受験
- 4.ワークショップに参加(知識確認テストに合格した場合)
- 5.ワークショップの「効果測定」を行う
- 6.健康経営エキスパートアドバイザーに認定
テキストは健康経営アドバイザーと共通のため、すでに持っている場合は申し込み時に「テキスト発送無」を選択してください。テキスト発送の有無とは関係なく、別途「知識確認テスト予習問題集」が登録した住所に届きます。
知識確認テストは多肢選択式50問で、おおむね8割以上の正答率で合格となります。
ワークショップは、企業支援の実務に関するケーススタディです。ワークショップ後に効果測定を行い、合格すると健康経営エキスパートアドバイザーに認定されます。効果測定は、事例企業の情報に基づいて「健康経営診断報告書」を作成し、期限内に提出する形となります。
資格概要
健康経営エキスパートアドバイザーの資格概要は下記の通りです。
受講資格
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以下の2つの要件を両方満たす場合に受講可能。
1)健康経営アドバイザー認定者 2)「所定の資格」または「所定の実務経験」を有する者
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申し込み日程
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東京商工会議所のホームページに記載
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受講料
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知識確認テスト:5500円(税込)
※テキスト発送なしの場合
ワークショップ:2万2000円(税込)
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知識確認テスト
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<実施日程>
東京商工会議所のホームページに記載
<出題形式>
多肢選択式50問90分
<合格基準>
おおむね8割以上の正答率
<結果発表>
メールにて通知
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ワークショップ
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<実施日程>
東京商工会議所のホームページに記載
<申し込み方法>
知識確認テスト合格後、メールにて通知
<効果測定の合格基準>
おおむね8割以上の正答率
※効果測定は、ワークショップ後に実施
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認定期間
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2年間(2年ごとの更新が必要)
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更新料
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1万6500円(税込)
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気になる難易度は?
健康経営アドバイザーに比べた場合、健康経営エキスパートアドバイザーの難易度は高いと言えます。
まず、受講資格の要件を満たさなければなりません。健康経営アドバイザーが誰でも受講できるのに対して、健康経営エキスパートアドバイザーは、所定の資格または実務経験が必須です。
筆記試験に関しては、出題数が50問で8割程度正解する必要があります。こちらも、10問中7問正解すれば合格できる健康経営アドバイザーに比べて難易度が高いと言えるでしょう。さらに、ワークショップへの参加が必須となっており、その後の効果測定にも合格しなければなりません。
他の難関資格に比べれば、試験の難易度自体はさほど高くないと考えられますが、受験さえすれば誰でも合格できるわけではありません。健康経営についての知識を確実に習得した上で、実践力や応用力も備えている必要があるでしょう。
2年ごとの更新が必要
健康経営アドバイザー同様、健康経営エキスパートアドバイザーについても、2年間の認定期間があるので注意しましょう。
更新には、1万6500円(税込)の更新料が必要です。
また、更新するためには、認定期間満了日までに「WEB動画研修」を3講座以上受講し、効果確認テストに合格する必要があります。
健康経営アドバイザーを活用して、長期的な視野で健康経営に取り組もう
健康経営は、従業員の健康増進を通じて生産性を高め、組織力の強化、企業の業績向上につなげることを目的としています。一過性のもので終わらせてしまっては意味がありません。長期的な視野に立った施策を継続することが重要です。そのプロセスの中で、専門的な知見を備えた健康経営アドバイザーは大きな力となるでしょう。
健康経営アドバイザーの資格取得のハードルは、決して高くありません。オンラインで全て完結するため、手軽に誰でも受講できます。健康経営に関する学習の一環として、まずは社内の健康づくり担当者が受講してみてはいかがでしょう。
