「従来の事業だけでなく、新しいことにチャレンジしたい」という企業もいることでしょう。そのチャレンジとして挙げられるのが、社内ベンチャーを稼働することです。
今回は、社内ベンチャーの概要や立ち上げ方、メリット、注意点など、これから社内ベンチャーを立ち上げる方にお役立ちの情報を解説します。

社内ベンチャーとは?
社内ベンチャーとは、自社のこれまでの事業にはない新規事業を展開することを目的とした、企業内に設けられた独立した組織のことです。またの名を「社内起業」ともいいます。 社内に所属しながら、別の組織として事業を展開していることが特徴の一つとして挙げられるでしょう。
また、ベンチャー企業(スタートアップ企業)のように、自分たちのビジネスを展開するために各々がアイデアを出し合い、これまでの知識や経験を活かしながら、ビジネスを「形」にする取り組みがなされます。
子会社との違い
社内ベンチャーと子会社の異なる部分がよくわからないという方もいることでしょう。
こちらの2つのワードの違いとして挙げられるのが、経営判断と事業運営の自由度です。子会社の場合、総務や経理といった管理部門を自分たちで対応するか、親会社がその部分を担当するか、状況によって異なっています。一方、社内ベンチャーは親会社から業務を一任されているため、各々が主体性を持ちながら経営や事業展開ができます。
社内ベンチャーの種類
社内ベンチャーには2種類存在します。詳細は次のとおりです。
トップダウン型
トップダウン型とは、またの名を「経営者主導」経営トップから指示で受け、社内ベンチャーを設けるフローです。自社の経営陣と連携しながら、これから展開する事業のアイデア出しなどを行います。
トップダウン型で展開するメリットは、コミュニケーションを密にすることで経営トップとの良い関係性が構築できる見込みがあることです。ただし、自分たちの考えが反映できないケースもあります。
ボトムアップ型
ボトムアップ型は、別名「従業員主導」とも呼ばれ、従業員がアイデアを企画し、社内選考によって事業を展開する方法です。なお、社内ベンチャーを採り入れた多くの企業は、ボトムアップ型で運営をしているといわれています。メンバー一人ひとりが主体性を持ってアイデアを出しやすく、チャレンジ旺盛な従業員の活躍が見込まれるでしょう。
社内ベンチャーを立ち上げる目的
企業が社内ベンチャーを立ち上げる主な目的は6つです。詳細は以下のとおりとなります。
企業利益拡大のため
近年は、新型コロナウイルス感染拡大や円安、そしてウクライナの戦争などの影響で、世界の市場が目まぐるしく変化しています。既存事業展開のみだと安定した経営が難しいというケースもあります。
その回避策の一つとして、社内ベンチャーという形で企業の「ファン」を増やし、安定した経営につなげる取り組みがあります。社内ベンチャーで新しいサービスや商品の提供をすることで、利益の拡大に結びつくことでしょう。
資産を有効活用するため
企業によっては、内部留保が多めに残っており、それを何らかに投資したいというケースがあります。そんなときに資産を有効活用できる手段が、社内ベンチャーへの投資です。資産を上手く運用することで、社内ベンチャー事業の利益を出せるだけでなく、企業全体の利益にもつながるかもしれません。
若手人材を早期に育成するため
社内ベンチャー制度は、若手人材にアイデアを出し合ってもらうなどの成長の機会を設けることで、早期的に育成できる見込みがあります。若手人材も「任される」ことで自己肯定感が上がるかもしれません。
ポジティブな企業文化の醸成のため
社内ベンチャー制度の導入は、従業員が自分の経験や知識に基づいたアイデアを出し合いやすくなるといわれています。このようなアイデアの出し合いの積み重ねによって、企業文化がポシティブな方向に醸成されるきっかけになるでしょう。
イノベーション創出のため
社内ベンチャーに携わることになったメンバーは、事業のアイデアを考え、それを形にするまでの行動力と想像力、思考力、経営のノウハウ、マネジメント力が必要です。企業側としても社内ベンチャー担当者のスキルの底上げをし、フォローしていきましょう。それがやがて、イノベーションの創出につながります。
人材の定着率向上のため
社内ベンチャーを立ち上げると「チャレンジできる」風土が根付くので、活躍の場が広がります。なかには「社内ベンチャーで仕事を頑張りたい」という従業員もいるため、人材の定着率の向上につながるかもしれません。
社内ベンチャーを立ち上げる際のポイント
こちらでは社内ベンチャーを立ち上げるポイントを5つ解説します。
目標と報酬を明確にする
社内ベンチャーの目的が「ただ何となく流れに乗ってやってみる」といった漠然としたものだと、事業も上手くいかないでしょう。だからこそ社内ベンチャーを立ち上げて、それを収益化するには、事前に目標と報酬を決めることが大切です。ほかにもボトムアップ型かトップダウン型かといった事業のやり方も決めていきましょう。
社内外との人脈を広げる
社内ベンチャーは企業がバックについていることもあり、社内の人脈が広げやすいというメリットがあります。このような恵まれた社内環境を活かし、営業や経営、財務などの専門的な知識を持つ方との人脈を広げていきましょう。今の時代、対面セミナーやウェビナー、SNSでも社外の方との人脈も拡げやすい環境です。社内ベンチャーを応援してもらえる人とのつながりを作り、人脈を活かし事業の成功へと導きましょう。
セーフティーネットを用意する
社内ベンチャーに携わる人は、事業経営の経験がゼロに近い社員で占めています。経験豊富な企業の経営陣メンバーが、セーフティーネットとしてアイデア出しの工夫やビジネスの実践のサポートに入ると、早いタイミングで軌道に乗りやすくなり、安心です。
社内ベンチャー内の仕組みを独立させる
社内ベンチャーは、企業内の組織でありますが、ひとつの独立した企業として位置づけられています。
企業の社内ベンチャー担当者は、事業のスピード感の維持と事務管理の煩雑さを避けるよう、経営部門や経理部門といった組織のなかでもコアな部門の仕組みを独立させるよう意識しましょう。
失敗の線引きを明確にする
社内ベンチャーの資金源は企業が管轄しますので、社内ベンチャーでスタートした事業で収益が赤字になった場合、企業の経営にも影響を及ぼします。企業の経営全体を考えて、「年間●●●万円の損失=赤字、失敗」という線引きを決めておきましょう。もし、赤字が続いた場合は、事業を打ち切りにすることを視野に入れましょう。
社内ベンチャー設立のメリット
社内ベンチャー設立の主なメリットは、次の5つです。
①新規事業に挑戦でき、収益が安定する
企業が社内ベンチャーを立ち上げることによって、新規事業に挑戦できます。新たに利益向上が見込まれる基盤ができ、自社の収益を上げられる見込みがあります。新規事業が成功すれば、既存事業にも良い影響をもたらすかもしれません。
②必要なリソースが揃っている
社内ベンチャーは、人材・資金・ノウハウ・取引先などのリソースが充実しているのが特徴です。スタートアップ企業と異なり、社内ベンチャーは、自社のバックアップも
あり、資金援助もありますので、有利な事業スタートになるかもしれません。社内ベンチャーを設けている企業のなかには、東証プライム上場企業などといったブランド力がある企業の場合、自社のブランド力を活かした運営ができます。
③自社がバックあり信用度が高い
社内ベンチャーは、自社がバックについている点が強みであり、安心材料となります。「大手の●●●の社内ベンチャー」のようにネームバリューを活用することで取引先から信用され、良い関係性が生まれるかもしれません。
④低リスクで起業が経験できる
個人で起業すると収入が安定しない、または途絶えるリスクが高くなりますが、社内ベンチャーであれば、安定した収入を得ながら低リスクで起業を進めることができます。
⑤起業家マインドが旺盛な人材が採用しやすい
社内がチャレンジングな組織風土になっている場合、「自分で事業を築きたい」という起業家マインドが旺盛な人材が採用されやすい傾向です。このような主体性のある人材が増えると、自社全体の活性化にもつながります。
社内ベンチャー設立の注意点
社内ベンチャーの導入はメリットだけではありません。ここでは社内ベンチャーの本格稼働する際に知っておきたい注意点に触れていきましょう。
①スピードが求められる
社内ベンチャーは、競合のベンチャー企業の動きについて行けるよう、既存事業よりも短期間で成果を出すことが大きな特徴です。やるべきことを後回しにせず、業務のアサインをテキパキと行い、メンバーの意思決定もスピード感を考えた対応が必要となります。
②モチベーションを維持しにくい
後盾がないベンチャー企業とは異なり、社内ベンチャーに携わって失敗に終わっても、自社の業務に勤しめる居場所があります。このような環境の影響から、携わったメンバーのモチベーションの維持が難しいといわれています。
③失敗するリスクが潜んでいる
社内ベンチャーは、自社で立ち上げられた独立した組織ですが、新規事業にチャレンジする特性上、失敗するリスクもあります。自社の既存事業と新規で立ち上げた事業の関連性が少なければ少ないほど、失敗のリスクが高いといわれています。
新規で立ち上げた事業が失敗に終わると、企業全体でも損失が生じるため、その後の資金調達が難しくなるかもしれません。
④企業の資金と人材が減少する
社内ベンチャーが軌道に乗れば申し分ありませんが、万が一、円安など何らかの理由で事業が失敗した場合、資金が損失します。このような想定外の事態に遭っても、できるだけ「損」しないよう、事前にリスク回避のシミュレーションを考えておきましょう。
また、社内ベンチャーへの人員投下により、既存事業に負荷がかかる可能性があります。その点を考えたビジネスプランを展開できるよう意識しましょう。
社内ベンチャーの成功例
実際、社内ベンチャーを設けている企業がどのような企業があるか知りたいという方も多いことでしょう。ここでは社内ベンチャーにおける成功例5社を解説します。
大手スーパーのプライベートブランドから事業がスタートした|無印良品(株式会社良品計画)
出典:株式会社良品計画
無印良品は、1980年に西友のプライベートブランドとしてスタート、1985年に社内ベンチャーの位置づけとして「無印良品事業部」という名称で設立され、1989年に株式会社良品計画として一つの企業として独立しました。プライベートブランドの発足当時から今も昔も私たちに日常に寄り添う商品づくりが、高く評価されています。
参考
沿革|企業情報 | 株式会社良品計画
一つの企画書が外食産業の新たな可能性をもたらす|Soup Stock Tokyo(株式会社スマイルズ)
出典:Soup Stock Tokyo(スープストックトーキョー)
Soup Stock Tokyoは、二子玉川など都市部の駅から近いエリアに展開する外食産業です。三菱商事の遠山氏(当時)が、当時の出向先である日本ケンタッキー・フライド・チキン株式会社で「Soup Stock Tokyo」の企画のベースとなった「スープのある一日」という企画書を起案したことで、社内ベンチャーがスタートしました。2000年には、三菱商事株式会社コーポレートベンチャー0号として「株式会社スマイルズ」を設立し、その後、国内や海外にも店舗数を着実に増やしています。
参考
沿革 | Smiles:
異業種から社内ベンチャーに挑戦|株式会社ルネサンス
出典:あなたの知らないルネサンス 1979年創立。変わったもの、変わらないもの。
株式会社ルネサンスは、大日本インキ化学工業株式会社(DIC株式会社)の社内ベンチャーとして事業をスタート。幕張のボーリング場を改装し、インドアコート8面を所有するテニススクールをオープンしました。その後、国内外に複数のスポーツジムをオープンする傍ら、学童や保育所の開設、介護や健康経営に絡むサービスにも携わっています。 近年ではオンラインレッスンを充実させ、運動する機会が少ない方向けのサービスも展開しています。
参考
沿革|ルネサンスについて
事業概要|ルネサンスについて
いつでもどこでも学べる場を提供|スタディサプリ(株式会社リクルート)
出典:スタディサプリ BRAND SITE
スタディサプリは、リクルートグループ会社の従業員を対象としている新規事業提案制度Ring事務局の社内ベンチャーでスタートした事業です。2012年にスマートフォンなどのデバイスを用いてオンラインで学べるプラットフォーム・スタディサプリのサービスをスタートさせました。Wi-Fiがあればいつでもどこでも学べる利便さとコスパの良さ、コンテンツのクオリティが評価され、学生ユーザーとその親御さんを惹きつけています。
参考
リング リクルートであり続けるために。
スタディサプリ
リサイクル品を出品できるプラットフォームを構築|メルカリShops(株式会社ソウゾウ)
出典:メルカリShops
フリマアプリでおなじみのメルカリは、もともと社内ベンチャーがきっかけで立ち上がった事業です。2023年1月現在、株式会社メルカリのグループ会社・株式会社ソウゾウが、メルカリに紐づく新規事業の企画や開発などの全般を担っています。フリマアプリに留まらず、支払いアプリなどの新たなビジネスを展開しているため、これからの動きにも目が離せません。
アバター事業で社会問題解決へ導く|avatarin株式会社(ANAホールディングス)
出典:avatarin
ANAホールディングス(以下、ANA)は、2016年にアメリカロサンゼルスで行われた「10億人の生活を変えるテクノロジー」をコンセプトとしたコンペに参加し、グランプリを受賞しました。2018年に社内プロジェクトとして本格的にアバタープロジェクトをスタートし、アバターの社会インフラ化を実現させる「ANA AVATAR VISION」を発表しています。
2020年4月、プロジェクトに関わったメインメンバーによる事業会社「avatarin(アバターイン)株式会社」を創業し、開発したコミュニケーションアバター「newme(ニューミー)」を、医療・介護・観光、教育・ショッピングなどの普及を進めています。
参考:アバター事業を担う「avatarin株式会社」を設立|プレスリリース
社内ベンチャーを成功させたいなら、スタート前に調べることが最適
社内ベンチャーは、従業員が主体性を持って活躍できる場ではありますが、企業側も社内ベンチャーが定着できるようフォローが必要です。社内ベンチャーのスタート前に必要事項を調べたり、確認しながら、社内ベンチャーの成功に結びつけましょう。
