「高度プロフェッショナル制度」は2015年に労働基準法改正案の一部として閣議決定されました。労働時間ではなく仕事の成果によって報酬が決まり、残業代が支払われないこの制度は、長時間労働を助長する恐れがあると強い反発の声が上がり、長らく創設が保留とされてきましたが、2019年4月から導入することが決定しました。
高度プロフェッショナル制度の正式名称は「特定高度専門業務・成果型労働制」。制度に当てはまる人は特定の職種であり、働いた時間と成果の関連性が低い職種である必要があります。過労などの問題を避けるために適用条件も細かく設定されているため、複雑な印象を抱いている方も多いのではないでしょうか。
今回の記事では、高度プロフェッショナル制度の仕組みや対象業務、導入のメリット、デメリットなど基本的な情報をわかりやすく解説していきます。

高度プロフェッショナル制度が注目される理由
高度プロフェッショナル制度は働き方改革にともない、財界の要望を受けて安倍政権が導入した制度です。
成果から報酬が決定するという部分は裁量労働制と同じなのですが、残業代を支払わなくてもいい、という部分が他の制度と大きく異なるところとなります。
人口減少が進む日本では労働生産性の向上が必要となり、働き方改革が進められています。その中で、成果だけで報酬が決まる高度プロフェッショナル制度は労働生産性やモチベーションの向上が期待できるため、注目が集まっています。
過労死など、長時間労働に関係する問題が注目される中、残業代が出ない制度を導入することは正しい判断なのか?などの反対意見が多かったことも注目される一因となっています。
高度プロフェッショナル制度の仕組み
なんだか複雑な印象のある高度プロフェッショナル制度、うちの会社には適用される従業員はいるのかな?導入する目的ってなんなんだろう?など疑問に思っている方も多いのではないでしょうか。
この章では高度プロフェッショナル制度の目的や残業代の有無、対象の職種から適用条件などをご紹介します。
高度プロフェッショナル制度とは
高度プロフェッショナル制度は一部の専門性の高い知識を必要とする職種の、1,075万円以上の年収を相当程度上回る労働者に、一定の条件のもとで適用することのできる制度です。
労働時間によってではなく、労働の成果で報酬が決定することが大きな特徴となります。
高度プロフェッショナル制度の目的
労働を時間ではなく成果から評価することによる労働生産性の向上や、従来の時間の枠組みに縛られることなく働くことのできる柔軟性、企業の競争力の向上などが目的です。
人口が減少している日本では、労働生産性の低さが大きな問題とされており、その対策としても注目されています。
残業代の有無
労働基準法の定める法定労働時間と休憩・休日の規制が一切適用されないため、時間外・深夜・休日労働の割増賃金はすべて支給されません。
日本国内の企業には成果に関係なく残業代が支払われるため、仕事をこなすのに時間がかかる労働生産性の低い人に報酬が多く支払われているという矛盾した問題が散見されます。
高度プロフェッショナル制度にはそもそも残業代というものが存在しないため、このような問題は解消されます。
高度プロフェッショナル制度の対象業務、職種
高度プロフェッショナル制度は労働時間と成果が関連しない労働者を今までの労働時間の枠組みから外し、柔軟に働けるようにすることを目的としています。
そのため、どの職業の人にも当てはまるという訳ではありません。対象業務と職種例は以下のようになります。
高度プロフェッショナル制度の対象業務
「高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が低いと認められる業務」とされています。
例えば、工場で働く人は「1時間で30個の商品を生産した」など、時間あたりに生産する商品が労働の価値となるため、労働時間と労働の成果の関連性が高いです。そのため、高度プロフェッショナル制度を適用することができません。
対象職種例
職種金融商品の開発業務・ディーリング業務・企業や市場の高度な分析を行うアナリスト業務・事業・業務の企画運営に関する高度な考案または助言の業務を行うコンサルタント業務・研究開発業務など高度の専門的な知識を必要とする職種です。
高度プロフェッショナル制度の適用条件
高度プロフェッショナル制度は残業代が出ないため、過労を招きかねないなどの意見が多くあります。そのため、労働者を守ることを目的として多くの適用条件を設けています。
高度プロフェッショナル制度を実際に従業員に適用する際には以下の条件を満たすことが必要となります。
1、年収
平均給与額の三倍、現在のところ「1075万円」以上
2、その他の条件
・職務の内容が明確に決まっていること
・労使委員会の5分の4以上の多数決議(労使委員会とは、経営側とその事業所の労働者側の委員で構成される委員会です)
・本人の同意があること(撤回もできる)(同意しなかった場合に、解雇等の不利な扱いをすることは禁止)
・経営者が、その従業員の「在社時間」と「社外で労働した時間」を把握する措置をとっていること(「在社時間」は、自己申告ではなくタイムカード等での把握が義務となる可能性がある)
・1年間で104日以上、4週間で4日以上の休日を付与すること
・休日や労働時間等に関する下記のいずれかの措置を講じること
a) 勤務間インターバル制度、及び深夜労働の回数の上限
b) 「健康管理時間」(=「在社時間」+「社外で労働した時間」)の上限
c) 1年に1回以上、2週間連続の休暇を与えること(有給以外に2週間)
d) 一定範囲の従業員に対する健康診断の実施
高度プロフェッショナル制度のメリット・デメリット
ここまで書いてきたように、高度プロフェッショナル制度は残業代が出ないため、ブラックな働き方に繋がることを懸念する動きが強く、少し複雑に制度が設定されています。
働き方を柔軟にし、ワークライフバランスや労働生産性の向上を実現することを目指す高度プロフェッショナル制度、導入する際に知りたいのはメリットとデメリットですよね。
高度プロフェッショナル制度のメリット
メリット①:柔軟な働き方が可能になる
働く時間に全く規制がない高度プロフェッショナル制度は、成果が出すことが出来れば時間に縛られずやりたいように仕事をすることができます。仕事が終わっていても退社時間になるまで帰ることができないということはなくなります。
メリット②:労働生産性の向上
成果によって収入が変わるとなると、自然と仕事に対するモチベーションが上がります。また、短い時間で仕事を終わらせることで余暇に時間を使うことができるなど、ワークライフバランスの向上も見込めるので、仕事のパフォーマンスが上がることも期待できます。
メリット③:企業収支が改善
残業代を払うことがないため、無駄な残業代をカットすることができます。
高度プロフェッショナル制度のデメリット
デメリット①:使用者が長時間労働にさらされる危険がある
残業代が出ないということから、労働者が企業の求める成果を出せない場合、サービス残業を強いられる可能性があります。残業代ゼロ制度と揶揄されることもある高度プロフェッショナル制度、長時間労働からいかに従業員を守るかがキーポイントとなります。
デメリット②:成果の評価基準が難しくなる
仕事の種類によっては成果をどのように評価するかが人によって違う場合があったり、成果が出るまで時間がかかったり、目には見えにくい形で成果が出る場合があります。そもそも成果の評価の仕方は個々人で差が出るものであり、それを統一するのは難しい部分があります。
成果の評価基準をしっかりと設定しておかなければ従業員の不平等感や不満を生み出す恐れがあるため、ここには力を入れる必要があります。
まとめ
労働生産性の向上や残業による人件費削減の実現が期待できる高度プロフェッショナル制度、期待できるメリットが多いのは事実です。
しかし、閣議決定まで多くの人々から反発があったことや、世間で「残業代ゼロ制度」と揶揄されていることも事実であり、導入する際には従業員を守るために気をつけなければいけない点が多くあります。
制度の導入を考える際には、メリットやデメリット、細かい適用条件などを従業員へ丁寧に説明するように心がけ、社内での理解も深める必要があるでしょう。
