新型コロナウイルスの感染拡大により巣ごもり需要が増えたことで、ますますEC市場は拡大しています。ネット販売の利用率が高まる一方で、物流業界では人手不足を原因とした長時間労働、離職などの問題が発生しています。
そんななか、2024年より政府主導で実施される働き方改革には、労働時間の短縮をはじめとした大きな変更があります。
今回は、物流業界を対象とした2024年に施行される法案による働き方の変更点、いわゆる「2024年問題」について解説します。

物流業界の2024年問題とは?法案施行に備えて今から整備しなければいけない3つのコト
2024年問題とは、「働き方改革関連法」の自動車運転業務への適用が開始されることで発生する遵守事項を守る動きのことです。同法は2019年より施行されていましたが、運送業やトラック含む「車両運転業務」に関しては2024年まで猶予されています。
厚生労働省によると、そもそも働き方改革とは「働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現することで、成長と分配の好循環を構築し、働く人一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指す」ことを指します。
政府主導の働き方改革によって職場環境の改善を行い「魅力ある職場づくり」を促進することで、人手不足解消や生産性向上をねらっています。
今回は、物流業界の2024年問題に焦点を当て、遵守しなければならない3つの事項について説明していきます。
①「時間外労働時間の上限規制」
2018年6月働き方改革関連法が成立し、2019年4月から全産業を対象に段階的に改正された「労働関係法令」が施行されます。このなかで、労働基準法による「時間外労働の上限規制」が適応となります。
そのなかで、自動車運転業務は急な是正が難しいことから、2024年に施行が猶予されていました。物流業界は2024年に猶予されたものの、年々貨物量の増加などから、長時間労働がなかなか改善されない、しかし法令の施行が迫っている。これが2024年問題の一つの「時間外労働時間の上限規制」です。
では、具体的に内容を見ていきましょう。
労働基準法第32条で定められている一般的な労働時間は、下記の通りです。
・1日8時間まで(休憩時間1時間除く)
・1週間40時間まで
これを法定労働時間といい、超過した時間が「残業時間」とされます。他にも、一般的には下記の規則があります。
・年720時間以内(休日労働を含まない)
・単月100時間未満(休日労働を含む)
・2~6カ月平均で80時間以内(休日労働を含む)
これら一般則と異なり、自動車運転業務では、年960時間(休日労働を含まない)が労働時間の上限となりました。つまり、トラックドライバーは「法定労働時間+年960時間」の範囲内であれば働くことができます。なお、一般則と異なり「2~6カ月平均」や「単月」などの1カ月の上限規制はありません。
②「正規・非正規社員の同一労働同一賃金」
2020年4月から大企業で、2021年4月から中小企業で適用されている「同一労働同一賃金」も2024年4月から適用対象となります。
同一労働同一賃金とは、正社員や非正規雇用労働者といった雇用形態に関係なく、同じ職場で同じ仕事内容に従事している従業員に対して同一の賃金を支払うという考え方のことです。
運送業で支給される手当(無事故手当、皆勤手当、作業手当、通勤手当、家族手当など)を正規・非正規に関わらず支給しなければならないため、各種手当について見直しが必要です。現状では、明確なガイドラインが設けられていないため、賃金改定をする際には注意が必要でしょう。
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③「月60時間超の時間外労働の割増賃金引上げ」
2023年4月から中小企業を対象に月60時間超の時間外労働への割増賃金率が50%とされており、トラックドライバーに対しても同様に適用されます。
月60時間までの時間外労働については割増賃金率25%で構いませんが、一人当たりの人件費が格段にアップするため、十分注意する必要があります。
また、この法令改正は2023年からの適用となるため、上記の①②の問題とともに今から整備していきたいですね。
働き方改革関連法違反に与えられる罰則
厚生労働省が提供する「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」によれば、上記ルールに違反した場合、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれがあるといいます。
違反をしてコストがかかると経営の負担にもなりかねません。企業経営にも大きく関わることですので、働き方改革関連法の遵守は徹底しましょう。
物流業界が抱えている課題
深刻な人手不足
常態化する長時間労働のほかにも、様々な課題を抱える物流業界。では、2024年まで働き方改革が猶予された背景には、どのような課題があるのでしょうか?
まずは、どれだけ人手が不足しているのかトラック運転手の有効求人倍率を見てみましょう。厚生労働省・国土交通省によると、トラックドライバーの有効求人倍率は全職業の平均よりも約2倍高い数値を示しています。
出典:統計からみるトラック運転者の仕事|国民のみなさまへ|トラック運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト
また、全日本トラック協会の雇用状況(労働力の不足感)を聞いた「景況感調査」では、「トラック運送事業者における労働力の不足感は強い状況」にあり、多くの事業所で人手不足が問題となっていることがわかります。
出典:トラック運送業界の現状と課題、取組について(全日本トラック協会)(PDF:1785KB)
これらのデータから、トラック運転手の需要は伸び続ける一方で、それに追いつくほどの人員が足りていないといえます。
Eコマースの活発化による物流量の増加
需要が高まる背景として、Amazon、楽天などのEコマースによる物流量の増加があります。
ネットショッピングやフリマアプリの普及から拡大し続ける国内のEC市場。経済産業省によると、2018年のBtoC(消費者向け電子商取引)市場規模は18兆円、2019年は19.4兆円に拡大しています。
出典:電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました (METI
ここ数年のEC市場の成長と新型コロナウイルスによる巣ごもり需要の影響も重なり、ますます物流の需要が高まっているといえるでしょう。国内のEC化率は海外諸国と比べ9%と低い状況のため、今後さらなる拡大が見込まれています。
人材の高齢化
また、トラック運転手の年齢が高齢化していることもこれから避けられない課題となってきます。厚生労働省によれば、他の業界と比べて運送業界は平均年齢が高く、年々上昇傾向にあります。
40代~50代前半の高齢層の割合は約7割を占めており、29歳以下の若年層割合はわずか10%ほどです。物流量が増える一方で人材の高齢化が進み、これからの物流業界が危うい状況にあることが理解できます。
物流業界の働き方改善のために
それでは、人手不足などのさまざまな課題を抱えた物流業界が、今後どのように改善をしていけばよいのか検討してみましょう。
改善策①:女性活躍推進
2018年の厚生労働省による調査では、トラック運転手に占める女性の割合は全産業に比べて非常に少なく、たった2%ほどしかありません。人材不足が急務である運送業にとって女性の活躍推進は必須だといえます。
出典:統計からみるトラック運転者の仕事|国民のみなさまへ|トラック運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト
実際、2014年に国土交通省が立ち上げた「トラガール促進プロジェクト」では、トラック運送業界における女性の活躍を促進するため、積極的に情報発信を行っています。
他業種に比べて女性進出が遅れていた運送業ですが、近年では女性トラックドライバーの活躍に注目が集まっているそうです。
改善策②:マイナスイメージを回復し求人増
世間的にネガティブなイメージが思い浮かばれがちなトラックドライバー。労働時間や環境にあまり良いイメージがないために3Kとよばれることもあります。
高齢化が進むトラックドライバーにとって、必要なのは若手の存在。働き方改革に合わせて労働環境の改善を行い、積極的にアピールする必要があります。需要が高く売り手市場であるため、ホワイトな職場を選んで働くことができることは大きなポイントですね。
改善策③:福利厚生を充実させる
業種にかかわらず、入社時に重視されるのが福利厚生です。ネガティブなイメージが持たれがちなトラック運送業だからこそ、働きやすい職場づくりが人員確保に寄与する部分は大きでしょう。
住宅補助や食事補助など種類はさまざま、従業員の求めている福利厚生は何かを把握するのが大切です。身近で取り組みやすいことから始めてみるのもよいかもしれません。
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従業員エンゲージメント向上の仕組みづくりで2024年問題を乗り切る
2024年問題は、EC市場の拡大や慢性的な人手不足をはじめとした物流業界の抱える課題が背景となり、国全体で取り組む必要があることだとわかりました。
特に、人材の高齢化がすすむ物流業界では、在籍するドライバーの定着と若手ドライバーの獲得が急務です。そのためには、従業員のエンゲージメントを高める仕組みづくりが必要となってきます。
2024年に向けて準備を進め、長期的な人材確保を目標とした労働環境を整備してゆきましょう!
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