近年の多様な人材活用や雇用形態の影響で、女性の労働者が増え、生理痛やPMSなど女性特有の健康課題の解決にフォーカスしたフェムテックが注目されています。とはいえ、生理前や生理中にホルモンバランスなどの理由で、その期間中、体調が芳しくないという人も少なからずいるのが現状です。
こちらの記事では、働く女性の心と身体の安定を促す「生理休暇」の概要と現状、制度の運用化の際に知っておきたいポイントをメインに紹介をしていきましょう。
生理休暇とは?
生理休暇とは、生理前および生理期間中の体調不良(頭痛、下腹部痛、倦怠感など)に伴い、就業がスムーズにこなせない従業員が申告した際に付与される休暇です。こちらの休暇は、労働基準法第68条として定められています。なお、生理休暇の取得は、携わっている業務などに関係なく申請が可能です。ただし、生理休暇の申請ができるケースは、あくまでも「就業が著しく困難な場合」に限定しています。「生理中だから休める」という理由では生理休暇の了承を得られません。
参考::労働基準法|e-Gov法令検索
現在の生理休暇の取得状況
厚生労働省が2021年7月に発表した「令和2年度雇用均等基本調査」によると、生理休暇の申請者がいた企業および事業所の割合は 3.3%でした。また、女性従業員のなかで、生理休暇を申請した割合は 0.9%という結果でした。
日本では生理休暇制度がほとんど運用されていないことがうかがわれます。
|
2004年度
|
2008年度
|
2015年度
|
2020年度
|
生理休暇の申請者がいた企業 および事業所の割合
|
5.5%
|
5.4%
|
2.2%
|
3.3%
|
生理休暇を申請した 女性従業員の割合
|
―
|
―
|
0.9%
|
0.9%
|
また、大王製紙株式会社が2019年12月に実施したアンケートでも、「取得したことがない」が約9割となっており、全体的に生理休暇があまり浸透していない状況がみられます。
出典:
「令和」の生理に対する意識の実態とは|大王製紙
生理休暇の制度化に向けて、消えるコト・知っておきたいコト
企業が生理休暇制度を運用する場合、取得の扱いや日数などいくつかの事項を決定する必要があります。主に知っておきたいコトについては、以下のとおりです。
有給・無給かを決める
生理休暇を取得する見込みのある従業員が気になるのが、有給か無給なのかという点です。
労基法では、生理休暇を「必ず有給にする」という内容を盛り込んでいません。したがって、企業によって、生理休暇を有給扱いする場合と、無給扱いにする場合とさまざまです。従業員にとって、この情報が曖昧だと、「生理痛がつらいけど、給与が入らないかもしれないから(休むのを)我慢する」などの状況になるかもしれません。生理休暇を制度化するなら、有給か無給かを決め、それを社内に周知しましょう。
参考までに企業が生理休暇を「無給」にしている理由の一つとして挙げられるのが、症状が本人しかわかっておらず、企業側が把握しにくい点です。あえて「無給の欠勤扱い」として不当な取得をしないよう対応しているケースもあります。
取得単位:一日単位だけでなく、時間単位の取得も認められる
生理休暇を取得する場合、一日単位・半日単位・時間単位なのかという点について問い合わせがあるかもしれません。もし、半日もしくは3時間などの時間単位で従業員から生理休暇の申請があった場合、基本的に企業は承諾する流れとなります。
半日単位の生理休暇の事例としては、「朝、鎮痛剤を飲んで、数時間休ませて欲しい」「生理痛が激しくなったので、今日は仕事を切り上げたい」などです。
不正な取得は懲戒処分の対象にもなる
生理休暇の取得数の頻度がほかの従業員よりも多い、祝祭日の前後に生理休暇を取得している……などの、生理休暇の取得が怪しいと感じた場合、対象の従業員の勤怠や仕事への態度をチェックしておきましょう。もし、不正な取得が発生した場合、懲戒免職も視野に入れても良いかもしれません。企業としても生理休暇の不正取得に関する対応を従業員に周知する必要があります。
PMSで利用できる場合もある
生理期間中の体調不良は、個人差があります。なかには生理が始まる3~10日前にPMS(Premenstrual Syndrome:月経前症候群)によって体調不調をきたす従業員もいるかもしれません。PMSの主な症状としては、腹痛や頭痛といった身体的症状と、情緒不安定や集中力の低下などの精神的症状です。PMSも生理中の頭痛などの体調不良と同様、生理休暇として設けておくと、PMSで悩む従業員も安心して生理休暇を取得できることでしょう。
参考:
月経前症候群(premenstrual syndrome : PMS)|公益社団法人 日本産科婦人科学会
生理休暇の取得が多いと有給休暇に影響する
有給休暇付与の条件は「入社日から6か月継続勤務し、そのうち全労働日の8割以上出勤(労働基準法第39条)」と定められています。仮に生理休暇を毎月2日取得していると、それだけで年間24日の休み(欠勤)になってしまい、有給休暇の消化にも影響を及ぼすかもしれません。
意外と知らない!生理休暇にまつわる3つのNGルール
生理休暇は企業によって細かいルールを設けているため、知らなかったコトがあるかもしれません。こちらの章では、生理休暇を取得するにあたって、企業側がやってはいけないルールについて紹介します。
①生理休暇の取得日数を制限すること
労働基準法によって、生理休暇の日数は「月に1回」「1年間に4日」などの日数を制限していません。
②生理休暇の請求を正社員のみに限定すること
生理休暇の申請対象は、労基法に則り、「就業が著しく困難な女性」です。正社員やパート、アルバイトでも取得できます。企業の担当者は、雇用形態に関係なく取得できる旨を伝えておくと良いでしょう。
③生理休暇の請求に際し、診断書等の提出を求めること
生理休暇は、事前申請することが難しい休暇であり、当日の朝に申請するケースが多い傾向です。申請した従業員に対し、「生理によって就業が著しく困難だった」の証として診断書などの提出させることができません。もし、何らかの証明に代わるものが必要であれば、対象の従業員の上司やもしくは同僚からヒアリングを取りましょう。
生理休暇を取得しやすくための環境整備
企業全体で生理休暇を取得しやすくする場合、全体的な環境整備が必要不可欠です。
上司に伝える方法以外で申請できるようにする
生理休暇が取得できない理由として挙げられるのが、職場の理解不足です。特に上司が理解していないと、「我慢しても仕事しなくてはならない」という状況に陥ります。企業側としても上司以外のメンバーにも申請できる仕組みづくりを考えましょう。社内でも相談しやすい窓口を作っておくと、精神的な不安が緩和されます。
全社に生理休暇は権利であることを周知する
生理休暇は、労基法によって定められた権利です。生理前と生理中の体調が芳しくなく、仕事にも支障を来すという場合、雇用形態に関係なく取得できます。企業内でも生理休暇が権利ということを知らないという従業員がいるかもしれないので、定期的に社内チャットツールなどを活用して周知しましょう。
生理休暇関連の企業の取り組み事例
これから生理休暇を導入、もしくは変更する予定の企業は、他社の取り組み状況や情報を知っておきたいことかもしれません。こちらの章では、事例をピックアップしていきましょう。
従来の生理休暇の取得条件を拡大、PMSにも対応|株式会社桃谷順天館
出典:
桃谷順天館
桃谷順天館では、PMSで悩んでいる層に着目し、2020年7月にPMSの理由でも生理休暇を取得できるよう、取得条件を拡大しました。また、社内での生理休暇の名称は「エフ休暇」として運用し、取得する際の心理的ストレスを取り除けるよう配慮されています。ちなみに「エフ」とは英語の“Female”の頭文字「F」が由来です。
参考:
不妊治療・PMSに対応した休暇制度を導入!|桃谷順天館
無給扱いから月1回の有給休暇として生理休暇を取得できる|株式会社PHONE APPLI
出典:
株式会社PHONE APPLI
PHONE APPLIでは、2021年8月に無給扱いとして運用していた生理休暇を、月1回の有給と同じ扱いとしました。生理休暇という名称だと申請や取得がしにくいということもあり、「YOU休」という名称で運用しています。こちらの休暇制度は、生理だけでなく、不妊治療や更年期障害などの婦人系特有の症状でも取得可能です。
参考:
PHONE APPLIが「生理休暇の有給化」を実施し女性社員の健康課題をサポート!
社員の声によって生理休暇を制度化した|株式会社アイル
出典:
インフォメーション| 株式会社アイル(東証プライム:3854)
株式会社アイルでは、社員の声により無給扱いとして運用していた生理休暇を、月1日ベースで年次の有給休暇とは別の扱いとして生理休暇を設けました。また、2020年8月に、男女ともに健康に関する理解を深める機会を得られるよう、ユニ・チャーム社主催の「みんなの生理研修」を実施しました。
参考:
社員の声から「生理休暇」を有給として制定。社内に生理用品も設置
生理休暇を取得しやすくするなら社内に周知しよう
個人差がありますが、生理前と生理中に仕事に集中できないほど身体の調子が芳しくないというケースもあります。この状況で無理して仕事をしてしまうと生産性も上がらず、かえって非効率であり、ストレスが溜まる一方です。
やはり女性が身体的にも精神的にも安心して働けるなら、生理休暇もしくはそれに代わるような休暇制度を設け、運用するのが先決です。生理休暇は企業によって取得日数などのルールなどが異なるため、企業側も従業員に生理休暇に関するルールなどの周知をしておくと良いでしょう。
