健康経営の促進やストレスチェックの義務化などにより、企業は従業員に対する様々なケアは必須となっています。そのなかで、メンタルヘルスはコロナ禍によりリモートワークの推進などにより急務に。
この記事では、企業側が知っておきたいメンタルヘルス対策や症状などについて解説していきます。

メンタルヘルスの意味
「メンタルヘルス」は、精神的および心理的な健康のことです。また、精神的や心理的な側面での健康の回復させ、それを維持するといった状況もメンタルヘルスにつながっています。
また、厚生労働省の「令和元年度我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」によると、仕事にまつわる強い不安や悩み、ストレスを感じる層は、この5年間で約6割という結果です。つまり3人に2人が仕事をする上で悩みなどを抱いているということになります。
企業側はこのようなデータを頭に入れながら、自社のメンタルヘルスケアを考えなければなりません。
参照:我が国における過労死等の概要及び政府が 過労死等の防止のために講じた施策の状況 令和元年
メンタルヘルス不調によって起こる症状
従業員がメンタルヘルス不調によって起こる主な症状(=サイン)は、次のとおりです。
・気分が落ち込みが激しく、不安で気持ちが続く
・不眠や食欲の不振の症状が見られる
・暴飲暴食をするようになった、特にお酒の量が前よりも増えた
・生活リズムが崩れ、遅刻または欠勤が多くなった
・身体が疲れやすい
・今まで当たり前にしていた仕事や家事ができなくなった
・単純なミスが多くなる
・声をかけても反応がない、または鈍い
・物事の関心が薄れる
もし、従業員でこのような症状が見られた場合、早急な対応をする必要性があります。
メンタルヘルス不調に陥るきっかけ
従業員がメンタルヘルス不調に陥る主なきっかけは3つです。詳細について解説していきましょう。
燃え尽き症候群
燃え尽き症候群(別名:バーンアウト)とは、普段からコツコツと真面目に頑張って働く層がかかりやすいといわれている症状のことです。仕事に集中して取り組んだ後に、燃え尽きてしまったかのように仕事へのやる気や情熱がなくなるという状況に陥ります。
例えば、一つのプロジェクトに向けて仕事をしていた従業員が、そのプロジェクトが終わった途端、ボーっとしている、やる気のない表情をしているなどの様子が見られた場合、企業側としても何らかの策を取る必要があるでしょう。症状が重いと休職または離職になる可能性もあります。
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在宅勤務
コロナ禍によって、ワークスタイルが在宅勤務になったという層も多いことでしょう。在宅勤務は通勤時間がないという点ではストレスが少ないと思われがちです。
一方で在宅勤務は、対面でのコミュニケーションが減ったこともあり、思うように伝えることができない、孤独になったなどのストレスになったという声も挙がっています。ほかにも上長から画面を常に見える状態に指示されるなどのオンラインハラスメントもメンタルヘルスを乱す一つです。
企業側は離れて働く従業員のメンタルヘルスの管理は難しいかもしれませんが、定期的にヒアリングやリサーチすることが必要です。
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長時間の労働と業務の過多
メンタルヘルス不調のきっかけで多いのが、長時間の労働や業務の過多といわれています。
仕事する時間が長ければ長いほど、仕事への意欲や集中力だけでなく、生産性が低下し、従業員のモチベーション下がるのはいうまでもありません。
このようなワークスタイルが続くのは企業側としてもメリットがないので、勤怠の管理や業務の配分について見直す必要があります。
メンタルヘルス対策の基本方針である「心の健康づくり計画」
「心の健康づくり計画」とは、企業側が従業員の心の健康に保つことを目的とした、メンタルヘルス対策の基本方針にまつわる内容をまとめているものです。
企業側は労働安全衛生法に則って「心の健康づくり計画」を策定するよう推奨されています。なお、盛り込む内容については、次の7つです。
1.事業者がメンタルヘルスケアを積極的に推進する旨の表明に関すること
2.事業場における心の健康づくりの体制の整備に関すること
3.事業場における問題点の把握及びメンタルヘルスケアの実施に関すること
4.メンタルヘルスケアを行うために必要な人材の確保及び事業場外資源の活用に関すること
5.労働者の健康情報の保護に関すること
6.心の健康づくり計画の実施状況の評価及び計画の見直しに関すること
7.その他労働者の心の健康づくりに必要な措置に関すること
ストレスチェック制度については、各企業において実施されるメンタルヘルス対策の取り組みの一環として位置づけることが重要です。
企業側は、「心の健康づくり計画」の内容をベースにストレスチェック制度を明確にしましょう。
4つのメンタルヘルスのケア方法
厚生労働省は、2006年3月に「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を定め、企業側がメンタルヘルスに特化した対策をするよう注力しています。
この指針のなかでも「4つのメンタルヘルスケア」が、継続的かつ計画的に行われていることが重要視されています。こちらでは、4つのメンタルヘルスケアについて解説していきましょう。
1,セルフケア
事業主は従業員に対して、次のセルフケアができるよう、教育研修や情報提供をするなどの支援をすることが重要となっています。
・ストレスやメンタルヘルスに対する正しい理解
・ストレスチェックなどを活用したストレスへの気付き
・ストレスへの対処
また、企業側の管理監督者もセルフケアをすることは大切なので、事業主はセルフケアの対象者として管理監督者もカウントしましょう。
2,ラインによるケア
メンタルヘルス対策において、企業側の管理監督者は重要な役割を担っています。ラインによるケアは以下のとおりです。
・職場環境の把握と改善
・従業員からの相談対応
・職場復帰における支援 など
ある部下の遅刻や欠勤が増えている、業務のパフォーマンスが下がった、表情が乏しい……などの、これまでと異なる様子が見られた場合、上長である管理監督者は気にかけることが必要です。ほかにも部下からヒアリングをし、部下が通常の状況に戻れるよう最善の策を取りましょう。
3,事業場内産業保健スタッフ等によるケア
事業場内の産業保健スタッフなどは、セルフケアやラインによるケアが効果的に実施されるよう、従業員および管理監督者に対する支援。併せて、以下の項目の役割を担っています。
・具体的なメンタルヘルスケアの実施に関する企画立案
・個人の健康情報の取扱い
・事業場外資源とのネットワークの形成やその窓口
・職場復帰における支援 など
4,事業場外資源によるケア
メンタルヘルスケアを行う場合、企業が抱える問題や求めるサービスに基づいて、専門的な知識を有する層(=事業場外資源、有識者)の力を借りることも有効的です。有識者のサポートを受けることで、主に以下の効果が期待されます。
・情報提供や助言を受ける
・ネットワークの形成
・職場復帰における支援 など
ただし、事業場外資源を活用する場合で注意したいのが、メンタルヘルスケアに関するサービスが適切に実施されているか、情報管理が適切になされているかなどの体制が整っているかの有無です。活用する前に事前に確認しましょう。
職場におけるメンタルヘルス対策
従業員が心身ともに健やかで末永く働けるよう、企業側はメンタルヘルス対策を考える必要があります。詳しい予防策については初期的な対応から職場復帰までの4つの段階に分けています。
企業側でまだ対応が不十分だったり、従業員に一人ひとりに寄り添った対応ができていなかったりした場合は、以下の項目を参考に導入や実施を検討しましょう。
ファーストエイド(初期支援)
メンタルヘルス・ファーストエイド(Mental Health First Aid)とは、オーストラリアの Betty.A.Kitchener と Anthony.F.Jorm により開発されたプログラムです。
メンタルヘルスの何らかの問題を抱える人に対し、専門家による支援をする前に行う初期的な支援です。なお、企業側は、以下の5つの項目に基づき、該当する従業員に対応します。
1.自傷・他害のリスクをチェックしましょう
2.判断・批判せずに話を聞きましょう
3.安心と情報を与えましょう
4.適切な専門家のもとへ行くよう伝えましょう
5.自分で対応できる対処法(セルフ・ヘルプ)を勧めましょう
1次予防:未然に防ぐ
従業員のメンタルをノーマルな状況に保つには、未然に防ぐことが理想的です。では、実際にどのようにして未然に防げるのでしょうか。主な対策は次の3つです。
レジリエンスを高める研修を企画し実施する
レジリエンスとは直訳すると「弾力」「弾性」「跳び返り」ですが、メンタル系で用いられる場合、日常生活で起きてくるストレスや困難に対して、心が折れずに上手く回復できる能力のことを指します。
従業員のメンタルを保てるよう、レジリエンスとメンタルヘルスの研修を企画することをおすすめします。研修を実施するメリットは、従業員の自己肯定感を高められるだけでなく、困難に立ち向かい、それを克服する能力などが備わる見込みがあります。
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健康経営の促進
健康経営とは、従業員を企業の大切な資産の一つとして捉え、従業員の健康管理に注力する経営手段のことです。近年、メンタルヘルスが重視されていますが、心身の健康不調をきっかけに離職する層が少なからず存在します。
企業でこのような理由で離職者が多くなった場合、企業自体の生産性や実績が下がるというリスクも高くなります。やはりその負の連鎖を断ち切るためには、働き方の改善を図るなどの健康経営に取り組むことが必要不可欠です。
このような取り組みによって、従業員のメンタルが保たれ、モチベーションアップにつなげられることでしょう。
ストレスマネジメント研修
メンタルヘルスに関する記事や書籍は多数リリースされていますが、やはり自分のストレスの根本的な理由や不調のサインというものは記事や書籍を読むだけでは解決するとは限りません。
ストレスマネジメント研修であれば、「どうして自分がストレスを抱えているのか」などの根本的な原因をわかりやすく説明をしてくれるので、何らかの発見できるかもしれません。
企業の担当者は、メンタルヘルス対策の一つとしてストレスマネジメント研修を検討しても良いでしょう。
相談窓口を人事以外に設置
メンタルヘルス対策の相談窓口を人事部に設ける場合、従業員が気を遣って相談できないという声が挙がっています。こちらのケースの場合、企業内の人事部以外の窓口を設置しておくと、相談がしやすくなります。
2次予防:早期発見・ケア
従業員のメンタル不調が発生(判明)した場合、心の疲れを最小限にできるよう早期の発見やケアが肝心です。企業側がやっておきたい対策の詳細について解説します。
産業医面談
産業医とは、企業の従業員の「メンタルヘルス対策」「健康管理」「過重労働管理」の3つの役割を担っています。メンタル面では、ストレスチェック(※後述参照)および休職者への職場復帰サポートまで、メンタルヘルスに関する教育などを行っています。
企業の担当者は、従業員が産業医に相談できるようなパイプづくりができるよう対応しましょう。
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ストレスチェック
メンタルヘルスに関連したワードで「ストレスチェック」というものがあります。ストレスチェックとは、ストレスと仕事に関する質問票(選択回答)に従業員が記入し、それを集計および分析。自分のストレス度合がどのような状況にあるのかを調べる検査です。
なお、この検査は、2014年6月に「労働安全衛生法」が改正された際、従業員が 50 人以上いる企業(=事業所)において、2015年12月から年に1回ペースで一定条件を満たす従業員に対し、実施が義務付けられました。
調査の内容については以下のとおりです。
参照:ストレスチェック制度 導入マニュアル – 厚生労働省
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メンター制度/1on1ミーティング
メンター制度や1on1ミーティングというと、上長と部下が業務の振り返りや今後のことについて話し合うというイメージがあるかもしれませんが、ほかにも部下の心身の調子も確認する場でもあります。
このようなミーティングをする際に、業務のことだけで終わってしまうと、部下の心情まで汲み取れず、部大事なサインを見落とすことにもあるかもしれません。企業の担当者は、メンター制度や1on1ミーティングを行うマネージメント層にもメンタルヘルスについて確認するよう定期的にアナウンスしましょう。
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3次予防:職場復帰支援
メンタルヘルスの3次予防として、職場復帰支援があります。主な支援策についてはこちらの4つです。
リワークプログラムの実施
「リワークプログラム(=復職支援プログラム)」とは、うつ病などの精神的な不調に伴い休職している従業員が、職場復帰ができるように行うリハビリを兼ねたプログラムを指します。
休職していた従業員が、復帰後にすぐ現場で就業するのではなく、専門の施設でキャリアデザインや認知行動療法などを受講。いくつかのプログラムを経て、通常の生活リズムや体力、集中力などが回復したタイミングで現場に復帰する流れとなります。
なお、リワークプログラムを受講するには、医療機関や企業内で行う職場リワークなどがあります。
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傷病手当金の対応を迅速にサポートする
うつ病と診断された従業員に関しては、傷病手当金の対象に該当する場合があります。条件については以下のとおりです。
・同一疾病で再び休業する場合は、最初の傷病手当金の起算日から暦で1年6カ月を超えて支給されない。
・同一疾病でも、一旦治癒し相当期間就業後に再発した場合は、支給されることもあるので保険者に確認すること。
出典:第7回 こころの病で再休職した場合、傷病手当金を再度支給できる仕組みはあるの?:社会保険労務士に聞いてみよう-メンタルヘルスQ&A-|こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト
もし、従業員がこれらの条件に該当していれば、企業の担当者は迅速にサポートするとともに、職場復帰しやすいような風土を作る必要があります。
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キャリアコンサルタントとのカウンセリング実施
キャリアコンサルタントは、クライアント先の従業員のメンタルヘルスケアも仕事の一つです。
専門家から見た最適なアドバイスも受けられるので、企業の担当者はケースバイケースでキャリアコンサルタントとのカウンセリングを検討しても良いでしょう。
メンタルヘルスケアに対応したサポートサービス
企業の担当者は、近年増えているメンタルヘルスの不調だけでなく、コロナ禍に絡んだメンタルヘルスにも注力しなくてはならない状況です。
こちらの章では、企業が知っておきたい5つのメンタルヘルスケアサービスについて解説します。
NECソリューションイノベータ|従業員のメンタルヘルス対策と職場環境の改善活動サポート
出典:企業のメンタルヘルス対策と働き方改革・健康経営を支援「メンタルヘルスケアサービス」|NECソリューションイノベータ
NECソリューションイノベータの運営しているメンタルヘルスケアサービスは、「ストレスチェック」を起点とした、従業員自身が行う「セルフケア」、産業保健スタッフによる「面接支援」、職場における「ラインケア」をトータル的に行うことで、従業員のメンタルヘルス対策および職場環境の改善活動を継続的にサポートしています。
リロクラブ|あらゆる角度でメンタルの改善にアプローチする
出典:メンタルヘルスケアサービス|リロクラブ
リロクラブが展開しているメンタルヘルスケアサービスは、「Reloストレスチェック」(※ウェブ専用)、「V-HRストレスチェック」(※ウェブ・紙両方対応)、予算に応じたカスタムサービス「Selfシリーズ」のほかに、個人と組織の問題点を改善する「アドバンテッジタフネス」の4つです。
あらゆる角度でメンタルの改善にアプローチすることで、健全な組織運営の実現や離職率の低下などにつながる施策を行っています。
メンタルヘルスケアサービス|従業員と健康安全と職場復帰、企業の経営管理と人事管理をトータルサポート
出典:人事トータルソリューション 株式会社ベクトル
株式会社ベクトルのメンタルヘルスケアサービスは、人事コンサルティングのノウハウと実績に活かしたサービスを提供。効果的なオプションサービスメニューも組み合わせることができ、 企業ニーズおよび企業特性、職場環境などを踏まえた、情報交換を十分に行っているのが特徴です。
アドバンテッジ タフネス|改善のPDCAサイクルを回し、個と組織が良い方向に変化できるようサポート
出典:ストレスチェックから始める組織改善ワンストップサービス「アドバンテッジ タフネス」|株式会社アドバンテッジ
株式会社アドバンテッジでは、メンタルヘルスケア事業のサービスとして「アドバンテッジタフネス」を展開しています。ストレスチェックをスムーズに実施するだけではなく、個々の診断結果に応じたストレス対処を提案。改善のPDCAサイクルを回しながら、個と組織が良い方向に変化できるようサポートをしています。
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メンタルヘルスソリューションサービス|産業医の紹介から動画の学習コンテンツなどの多様なサービスが強み
出典:株式会社メンタルヘルステクノロジーズ|企業をもっと健康に。
株式会社メンタルヘルステクノロジーズでは、メンタルヘルスソリューションサービスとして産業医の紹介やストレスチェック、動画を採り入れたメンタルヘルスの学習コンテンツなどの多様なサービスを展開しているのが特徴です。このようなあらゆる面からのアプローチによって、従業員のメンタル安定だけなく、信頼度が高い組織作りの実現を目指しています。
健康経営を促進しよう!
各企業でストレスチェックの義務化になった影響もあり、メンタルヘルスを保つことが重要視されていますが、何らかの原因でメンタルの不調になる層は少なからずいます。
従業員が心身ともに働き続けるためにも、企業側は未然に防ぐ対策や早期発見などができるような健康経営ができるよう努めていきましょう。
