不安や悩みを鎮め、自分の「今の状態」に集中する精神状態をつくるマインドフルネスは、ストレスの軽減や生産性向上につながるとして、企業でも注目されています。
ここでは、マインドフルネスの効果や方法といった基礎知識に加え、実際に取り入れている企業事例をご紹介します。
マインドフルネスとは
マインドフルネスとは、心を「今、ここ」という一つのことに集中できる状態を指します。
マインドフルネスの科学的・学術的研究を後押しする日本マインドフルネス学会によれば、マインドフルネスとは「今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、 評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること」と定義されています。
たとえば、何か心配事があり心がざわざわしているとき、マインドフルネスを実践することで、「私はいま不安だ」と気づけるようになります。
一見、単純なことのように思えるかもしれません。しかし私たちの脳は、日々膨大な情報に触れ、せわしなく動いています。忙しすぎる状態が続くと、「自分が何をしたいかわからない」と心が疲弊します。周囲の期待に答えるために、自分の本心に蓋をすることさえあります。
こうした状態を俯瞰的に見つめ、自分が抱える感情など「今」の状態を正しく、客観的に認識する力を養うのが、マインドフルネスなのです。
マインドフルネスを実践するためのトレーニングでは、呼吸に集中することで気づきを得る「マインドフルネス瞑想」が知られています。
数分間という短い時間でも効果を実感でき、心身の状態を落ち着かせるメソッドとして日常に取り入れられるほか、自己認識力の向上や集中力アップなど、ビジネスで求められるスキルを高める手法として注目され、企業研修に導入する動きも広がっています。
働く上でマインドフルネスを実践する効果
マインドフルネスは「今、ここ」に意識を集中させる行為です。それにより、心の状態を整えたり思考を整理したりできるだけでなく、うつ病などのメンタルヘルスの回復に貢献するなど、脳と関連したさまざまな効果があると研究が進められています。
ストレスの軽減→クリエイティビティのアップ
日頃から感じるストレスを軽減させ、心身ともに健康な状態に導きます。脳の疲労が減り、周囲の変化や自身の内面など、さまざまなことへ反応する受容能力が向上するため、仕事で新たな企画を出したり、業務フローを工夫したりするといったクリエイティビティがアップします。
感情の安定→マネジメント力の向上
不安や怒りといったネガティブな感情から解放され、穏やかな心情を保ちます。ネガティブな感情に振り回されないため、対人コミュニケーションの面でも相手に寄り添った言動をとれるようになり、チームマネジメントで良い影響をもたらします。
集中力の向上→業務のスピードアップ
「今、ここ」へのコントロールを意識的に行うことで、自分が何をやるべきなのか、思考と行動を選択できるようになります。仕事面では業務のスピードアップや成果物のクオリティ向上が期待できるでしょう。
眠りの質の改善→ストレス耐性の向上
ストレスや不安の軽減により、睡眠の質が向上し、より健康的な生活を送れるようになります。スッキリとした気持ちで日々を過ごせるほか、不安や恐怖に反応する偏桃体が小さくなり、不測の事態にも落ち着いて対処できるといったストレス耐性が高まる効果が期待できます。
マインドフルネスがビジネスで注目されている理由
ビジネスシーンでマインドフルネスが注目されるようになったきっかけは、Google社が2007年からはじめた「SIY|Search Inside Yourself」と呼ばれるプログラムといわれています。
世界経済フォーラムであるダボス会議に「朝の瞑想の会」としてマインドフルネスが取り上げられるほか、日本国内でもYahoo、リクルート、パナソニックといった企業が導入し、年々注目が高まっています。
こうしたビジネスシーンでマインドフルネスが注目される背景には、働く人々のメンタルヘルスの重要性や、生産性向上のための職場環境を整える必要性の高まりがあります。
メンタルヘルス対策の手法の一つに
メンタルヘルス対策は、現代において企業の重要な経営課題の一つです。近年の働き方改革での長時間労働の是正や、従業員へのストレスチェックの義務化の流れは、企業において従業員のメンタルヘルスの重要性が増していることを表しています。
メンタルヘルス対策では、働く環境を整えたり、管理職が部下の状態に気づくことのほか、従業員自らが自分が抱える不調に気づくセルフケアが重要とされます。マインドフルネスは、ストレスの軽減などの効果をもたらし、従業員の健康を維持する方法の一つとしてメンタルヘルス対策に取り入れられています。
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リーダーシップ人材の開発・育成を目的に
変化の激しい世の中では、世の中の状況を客観的に見つめ、事実情報と主観情報を切り分ける力がビジネスパーソンに求められます。自身のバイアスを認識し、必要に応じて取り除こうという姿勢は、多様性が掲げられる組織でリーダーに欠かせないものです。
国内でもいち早くマインドフルネスを研修に取り入れたYahooでは、次世代リーダの育成の一つとしてマインドフルネスをベースとしたコーチングプログラムを導入し、その後も社内での継続的なプログラムに採用しています。
マインドフルネスの実践を通じ、自分自身の考えや感情に気づき、恐れや不安に振り回されずに、自分自身をリードする術を学びます。このマインドフルネスでの振り返りと気づきが、リーダーに求められる自己認識力や自己管理力、共感力を育てます。
生産性向上とワーク・ライフ・バランスを両立
近年、職場では長時間労働の見直しなど働き方の変革が重視されるようになりました。「週休3日制」や「ワーケーション」など、生産性向上とワーク・ライフ・バランスの両立を模索するように、さまざまな働き方が登場しています。
そして働き方と同じく、重要なのが働いているときの「状態」です。マインドフルネスの実践でもたらされる集中力アップは、仕事中のパフォーマンス向上に貢献します。就業時間内に業務が進み、成果につながれば、従業員自身のモチベーションアップにもなります。限られた業務時間内で生産性を下げない働き方を実現する手法として、マインドフルネスは注目されています。
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マインドフルネスの実践方法|2つのポイント
マインドフルネスは数分からでも実践できるものです。そのため、朝の仕事開始前やお昼休憩など、隙間時間でマインドフルネスを実践し、心身を整える人たちもいます。
マインドフルネスを実践するポイントは「姿勢」と「呼吸」です。姿勢を整え、呼吸に意識を集中することで、「今、ここ」を感じ取ります。
ポイント①姿勢を整える
椅子でも床でも、リラックスして座れる場所で姿勢を整えます。椅子に座る場合は、浅く腰掛け両足を少しひらきましょう。床に座る場合は、体重を両膝とお尻の三点で支えるように座ります。
頭を上から吊られるように、肩や腕の力は抜き、背筋を上に伸ばすのがポイントです。視線は45度ほど下に落とし、無理なく力まずに座れる姿勢を保ちましょう。
ポイント②呼吸に集中する
マインドフルネスの実践は、呼吸に意識を集中することが基本です。鼻先かお腹の1点に意識を集中させます。すると、鼻先を通じて空気が出たりはいったり、お腹が膨らんだりへっこんだりするといった、呼吸に伴う体の変化に気づきます。この呼吸の身体感覚を感じることが「今、ここ」を感じるマインドフルネスです。
マインドフルネス瞑想とは
こうした姿勢と呼吸を整えて実践するのが「マインドフルネス瞑想」です。マインドフルネス瞑想には、「呼吸瞑想」と「気づき瞑想」の二つがあります。
呼吸瞑想
呼吸に集中していても、身体のかゆみや心配事といった「雑念」は湧いてきます。しかし、この雑念を消す必要はありません。雑念が湧いてきたら「いま〇〇だな」「××と考えてくる」と、確認するだけでいいのです。
次第にリラックスした状態になりますが、ならないときもあります。落ち着けなかったとしても焦る必要はありません。ただ呼吸を繰り返し、いまを確認していく。この繰り返しが、集中力や持続力を高めるトレーニングになります。
気づき瞑想
呼吸に集中したら、次は全身の変化や周囲の音というように、受け取る感覚を徐々に広げます。このとき、何かの音がしたら「〇〇の音がしたな」と、ただ受け取るだけで大丈夫です。「なんの音だろう」と判断する必要はありません。
また不安に思う出来事やストレスを感じる物事が頭に浮かんできても、「いま〇〇と思っている」「〇〇のことを考えた」と、考えたことだけを受け取ります。否定したり、考えを追いかける必要はありません。呼吸にあわせ、浮かんだこと、感じたことを受け取り、また呼吸に戻ります。
マインドフルネスの企業向け研修サービス
ストレスをもたらす多くの要因は「今、ここ」で起こっているのではなく、当人の頭が想像しています。過去や未来ではなく、今この瞬間に意識をむけることは、健やかな精神をつくります。こうしたマインドフルネスの効果を企業研修に取り入れているサービスを、以下に紹介します。
「SIY」やマインドフルネスのコーチングプログラムで人材開発|MiLI
一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート(略称MiLI)は、日本国内で唯一、Google社が開発したマインドフルネスプログラム「SIY」を提供し、マインドフルネスを基盤としたリーダーシップ研修やコーチングプログラムを行っています。
SIYは企業だけでなく個人でも受講することができ、ストレス軽減や集中力向上のほか、自己認識や自己管理、モチベーションといった面でも変化が挙げられています。
経営課題であるメンタルヘルスに対応する法人向けプログラム|株式会社Melon
株式会社Melonはサロンとオンラインの双方でマインドフルネスプログラムを提供しています。法人向けプログラムでは、近年企業が直面する経営課題の一つでもあるメンタルヘルスにフォーカスをあて、従業員のストレスを減らし生産性の向上につながるといった狙いで、導入社数を広げています。
セミナー実践とアプリでマインドフルネスを継続実施|ラッセル・マインドフルネス・エンターテインメント・ジャパン株式会社
ストレス提言、作業効率の低下、創造性の解放などを効果に掲げ、ラッセル・マインドフルネス・エンターテインメント・ジャパンでは、企業向けのソリューションパッケージを提供しています。企業だけではく大学や行政機関でも導入され、セミナーでのマインドフルネスの実践とアプリでの学びを通じ、マインドフルネス瞑想の習慣化をサポートしています。
マインドフルネスを企業に取り入れた事例5選
1.Googleのマインドフルネスプログラム「SIY」を日本発導入|Sansan株式会社
同社では、マインドフルネスを仕事のパフォーマンス向上のためのマインドセットと位置付け、2017年9月にマネージャー54名に対して、Googleにより開発されたマインドフルネスプログラム「SIY」を実施しました。
2.「瞑想」がリーダーシップ研修|ヤフー株式会社
ヤフーでは2016年から、マインドフルネスをベースとした独自プログラムを社内で実施し、リーダーシップの育成に役立てています。トレーニングプログラムは週に1回、1時間のワークを7週間かけて実施するもので、自己認識力やコントロール力の向上につながっています。
3.新入社員研修でメンタルヘルス対策としてマインドフルネスを展開|カルビー株式会社
職場環境の改善やストレスチェックの実施など、多方面での健康支援の取組みに力をいれているカルビー株式会社では、2021年度の新入社員研修においてマインドフルネスを取り入れました。ストレスを軽減させ、感情を穏やかにするマインドフルネスの実践をメンタルヘルス対策の一つに位置付けています。
4.職場でマインドフルネスを効果的に実践できるメディテーションポッド|凸版印刷株式会社
凸版印刷株式会社では、同社が持つセンシングソリューション技術を活用し、マインドフルネスプログラムを提供するラッセル・マインドフルネス・エンターテインメント・ジャパンと提携し、職場でもマインドフルネス瞑想を効果的に実践できるメディテーションポッドを開発・提供しています。メディテーションポッドは利用者の疲労の減少に効果があると実証されています。
5.マインドフルネスで新たな宿泊体験を提供|パナソニック株式会社
パナソニック株式会社では、宿泊事業者向けにマインドフルネスを基軸としたアクティビティを体験できる宿泊体験ソリューション「(MU)ROOM(ムルーム)」を開発。ミスト、光、音、香りなど同社が持つ様々な技術を組み合わせ、マインドフルネス空間を演出します。
ビジネスシーンでもマインドフルネスの活用は今後も広がる
マインドフルネスは、集中力や記憶力を高めたり、ストレスを軽減させるなど、脳にとって良い効果をもたらします。一日のなかで隙間時間に取り入れられるため、マインドフルネスの考えを知り、実践方法を身につければ、従業員が職場で実践することもできます。
変化が激しく、またインターネットを通じて多大な情報が日々行き来する現代では、「今、ここ」に集中し、自分を取り戻す力がビジネスパーソンには求められます。心を鍛えるマインドフルネスは、企業研修という形だけでなく、製品やサービスに組み込まれ、さらに広まっていくかもしれません。
