職場いじめや性的な嫌がらせに対して、企業は防止措置を取ることが義務付けられるようになりました。モラハラやパワハラ、セクハラなど、職場内のハラスメントは就業環境の悪化や人材定着率の低下につながります。
本記事では、モラハラについて説明しながら、職場のハラスメントを防止し適切に対処する措置について解説します。

モラハラとは?
モラハラは、モラルハラスメントの略です。モラル(道徳)によるハラスメント(嫌がらせ)を意味し、言葉や態度によって人の心を傷つける行為や嫌がらせのことを指します。
精神的暴力、精神的虐待とも言われるように、「殴る」や「蹴る」といった暴力行為ではなく、発言や身振りといった不適切な攻撃を繰り返すことで、身体的・肉体的健康に害を与える点が特徴です。
もとは、フランスの精神科医であるマリー=フランス・イルゴイエンヌが1998年に著書で使用したことにより普及した言葉です。フランスでは、いわゆる「職場いじめ」をモラルハラスメントと呼び、労働法典において以下のようにモラハラの禁止を定めています。
「いかなる労働者も、その権利及び尊厳を侵害し、身体的もしくは精神的な健康を害し、または職業キャリアの将来性を損なうおそれのあるような労働条件の悪化を目的とする、あるいはそのような効果を及ぼすような反復的行為を受けてはならない」
(訳:独立行政法人労働政策研究・研修機構)
日本におけるモラハラとパワハラの違い
モラハラと似た言葉に、パワハラ(パワーハラスメント)があります。パワハラとは、権力や立場を利用した嫌がらせを指します。日本では2000年代初頭にパワーハラスメントという言葉が広まり、職場内でのいじめ・嫌がらせを指す言葉として使われてきました。
二つの言葉は、言動により人の心や尊厳を傷つける点で同じ意味ですが、パワハラには「力の優位性を利用している」という違いがあります。また、モラハラは言葉や態度、行為での攻撃を示しますが、パワハラには殴る・蹴るといった身体的暴力が含まれます。
【モラハラ】
・言葉や態度で人の心を傷つける行為や嫌がらせ
・具体的には、暴言・無視・叱責・脅し・侮辱・プライバシーの侵害などが含まれる
・使用用途は職場内に限定されない(例:家庭内で配偶者からのモラハラ)
【パワハラ】
・権力や立場など力関係の優位性を利用して行われる嫌がらせ
・主に職場内でのいじめや攻撃、嫌がらせ等で用いられる
・言葉や態度、行為だけでなく、殴る・蹴るなどの身体的暴力も含まれる。
厚生労働省のパワハラの定義には、精神的暴力や暴言などモラハラに該当する要素が含まれており、職場での精神的暴力は、日本ではモラハラではなくパワハラ(パワーハラスメント)と呼ばれるのが一般的です。
モラハラの特徴
モラハラは「見えない暴力」とも言われるように、直接的に肉体を攻撃する暴力とは異なり、どのような行為や言動がモラハラに当てはまるのか解釈が難しい部分があります。
それゆえに、職場内のモラハラに気づき、対策を施し抑止するには、モラハラとは何かを理解することが大切です。
たとえば、「ハラスメントを許さない」と題したWorks152号(2019年・リクルートワークス研究所)では、ベルギーのモラルハラスメントの行政解釈を紹介し、ガイドライン等で具体例を挙げつつもハラスメントの適用範囲を狭めないように注意しなければいけないと述べています。
【ベルギーのモラルハラスメントの定義】
1.相手を孤立させること、無視すること、話しかけないこと、同僚から隔離すること、同僚との不和を誘発すること、同僚との会話を禁止すること、勤務シフトを変更すること、会議に呼ばないことなど
2.職場ぐるみで批判すること、意見を述べるのを妨げることなど
3.信用を失墜させること、仕事を与えないこと、意見を尊重しないこと、権限を取り上げること、無益で不合理な職場に必要のない労働を押し付けること、実現できない仕事しか与えないこと、仕事に必要な情報を秘匿すること、過重な負担を課すこと、スキルアップの機会を認めないこと、必要な労働用具を与えないこと、矛盾したあるいは曖昧な指示を与えること、不公平な評価をすること、他の労働者と同じ便宜を与えないことなど
4.人格を侵害すること、中傷すること、あざけること、うわさを立てること、宗教的信条、出身や私的生活を批判すること、肉体的な特徴を嘲笑すること、まねをすることなど
出典:P28 Works No.152 Feb–Mar 2019 リクルートワークス研究所
暴言、叱責、脅し、侮辱といった攻撃性の高い言動だけではなく、無視や嘲笑、プライバシーの侵害、業務妨害、行動の制限などさまざまな行為がモラハラに含まれていることがわかります。
職場で起こるハラスメントの種類
職場では、モラハラ・パワハラだけでなくさまざまなハラスメントが発生します。1997年の男女雇用機会均等法改正ではセクハラ(セクシャルハラスメント)への事業主の配慮義務が導入され、2006年の改正でさらに措置義務へと強化されました。
2016年には妊娠した従業員に対するマタハラ(マタニティハラスメント)への項目も加わり、さらには2019年の労働施策総合推進法において、職場でのパワハラ防止措置が義務づけられました。
2021年現在では、こうしたハラスメントの防止対策措置だけでなく、ハラスメントの相談をしたことを理由に解雇等の不利益取り扱いを禁止するなど、会社の責任の明確化が進んでいます。
これらの法律での対策が義務付けられている3つのハラスメントに加え、近年問題が明るみになっているハラスメントについて解説します。
パワーハラスメント
職場のパワーハラスメント(以下、パワハラ)とは、次の3つの要素全てを含むものをいいます。
【職場でのパワーハラスメントの定義】
1.優越的な関係を背景とした言動
2.業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
3.労働者の就業環境が害されるもの
出典:ハラスメントの定義|厚生労働省
職場では、例えば無断欠勤を注意するといった業務を遂行するのに必要と認められる指導については、パワハラには該当しないと考えられます。パワハラが発生する状況やその内容は、個別のケースによって異なることから、厚生労働省ではパワハラの6つの代表的言動の類型を挙げています。
【パワーハラスメント6つの類型】
1.身体的な攻撃:暴行、傷害等
2.精神的な攻撃:脅迫、名誉棄損、侮辱等
3.人間関係からの切り離し:隔離、仲間外し、無視等
4.過大な要求:業務上明らかに不要なことや遂行不能なことの強制等
5.過小な要求:業務上の合理性なく能力や経験からかけ離れた程度の低い仕事を命じる等
6.個の侵害:私的なことに過度に立ち入ること
これらの類型はあくまで例であり、厳密に該当しないからといってパワハラに当たらないと判断されるわけではありません。厚生労働省のガイドラインを参考にしつつ、パワハラの判断が微妙なケースも含め、幅広く相談にのることが企業に求められます。
セクシュアルハラスメント
セクシャルハラスメント(以下、セクハラ)とは、職場において行われる労働者の意に反する性的な言動により、労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されることをいいます。
ここでいう「性的な言動」には、性的な内容の発言や性的な行動が含まれます。
【性的な言動の例】
・性的な事実関係を尋ねる
・性的な冗談を言う
・食事やデートに執拗に誘う
・個人的な性的体験談を話す
・性的な関係を強要する
・必要なく体に触れる
・わいせつな絵や写真を配布したり職場に貼ったりする
男性から女性というイメージがセクハラには強くありますが、性別を問わず加害者にも被害者にもなり得ます。異性間だけでなく、同性間でもセクハラは発生します。
また、人の恋愛・性愛をいずれの性別とするかの性的指向、性別に関する自己認識である性自認を問わず、性的な言動はセクハラに該当すると考えられます。
さらにセクハラは職場内だけではなく、取引先や顧客など、職場以外の場所でも問題になります。
マタニティハラスメント/パタニティハラスメント
妊娠・出産・育児休業等のハラスメントは、マタニティハラスメント(以下、マタハラ)もしくはパタニティハラスメント(以下、パタハラ)と呼ばれ、妊娠・出産したことや、育児休業を利用することに対して、上司・同僚からの言動を受け就業環境が害されることをいいます。
マタハラ・パタハラは、「制度を利用することへの嫌がらせ」と「状態への嫌がらせ」という二つの類型にわけられています。
【制度等の利用への嫌がらせ型で対象となる制度】
以下の制度を利用することで受ける言動により、就業環境が阻害される状況はマタハラ・パタハラに該当します。
・産前休業
・育児休業
・介護休業
・子の看護休暇
・介護休暇
・所定外労働、時間外労働、深夜業の制限
・育児のための所定労働時間の短縮措置
・始業時刻変更等の措置
・介護のための所定労働時間の短縮措置
・妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置(母性健康管理措置)
・軽易な業務への転換
・変形労働時間制での法定労働時間を超える労働時間の制限、時間外労働及び休日労働の制限並びに深夜業の制限
・育児時間
・坑内業務の就業制限及び危険有害業務の就業制限
出典:P11『職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!』|厚生労働省
また、状態への嫌がらせ型では、女性が妊娠・出産したことに対するハラスメントが該当します。
【状態への嫌がらせ型にあてはまる例】
・妊娠したこと
・出産したこと
・産後の就業時間の規定により就業できず、または産後休業したこと
・妊娠又は出産に起因する症状により労務の提供ができないこと若しくはできなかったこと又は労働能率が低下したこと
出典:P14『職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!』|厚生労働省
マタハラ・パタハラでは、上記にあげた状況において、「解雇等の不利益な取り扱いの示唆」「制度利用の阻害」「制度利用や状態への嫌がらせ」が企業の防止措置が必要となるハラスメントとされています。
とくに、育児休業利用の申請の際、上司が「休みをとるなら辞めてもらう」といった言動は1回だけでもハラスメントに該当します。
近年問題となっているハラスメント
これまで紹介した企業が対策を講じなければならないハラスメント以外に、職場ではさまざまなハラスメントが問題となっています。近年取り上げられるハラスメントを紹介します。
ジェンダーハラスメント
ジェンダーハラスメントとは、「女らしさ」「男らしさ」といった性に関する固定観念に基づいた言動や嫌がらせのことをいいます。たとえば、職場の女性をみな「女の子」といい名前を呼ばない、「女にはこの仕事は無理」と発言する、職場で唯一の女性だからという理由でお茶くみを期待されるといったケースが該当します。
こうした性別に関する不快な言動は、性的な言動が含まれるセクハラとは法律上区別されていますが、性別にもとづく差別意識が元になっており、セクハラに発展する危険性も含まれています。
また、性別を理由に不適切な状況に置かれることで、被害を受けた従業員のストレスが高まることが懸念されます。
テレワークハラスメント(テレハラ・リモハラ)
在宅で仕事を行うテレワーク(リモートワーク)が普及したことにより、テレワークハラスメント(以下、テレハラ)の問題が問いだたされるようになりました。
テレハラとは、テレワーク中、オンラインで業務に関係のない質問を受けたり、常に仕事をしているかなど連絡を強要されたりするケースをいいます。
「就業時間は常にカメラオン」「自室をもっと見せてといわれる」こうした行為は、オフィス外やオンラインで発生した言動とはいえ、パワハラやセクハラと判断される場合もあります。
アルコールハラスメント(アルハラ)
アルコールに関する嫌がらせを指します。一気飲みの強要や、飲めない人に執拗に飲酒を促すといった行為が該当します。また、酔った状態で暴れる・暴言をはく・体に触れるといった行為もアルハラであり、なかにはセクハラに該当するケースもあります。
アルハラは、急性アルコール中毒につながる危険性の高いハラスメントです。職場内だけでなく、大学でも新入生歓迎会の時期などに問題にあがります。他人にお酒を強要しない、節度を守って飲むといった配慮とルールの周知が必要です。
スモークハラスメント
タバコに関する嫌がらせ行為を指す言葉です。タバコを吸わない非喫煙者の近くで喫煙をし、受動喫煙をさせるケースや、タバコを吸わない人や禁煙をした人に喫煙を勧めるケースが該当します。
また、就業時間中にも関わらず何度も喫煙と称して休憩することもスモークハラスメントと考えられることもあります。
テクノロジーハラスメント
IT知識の高い人が、そうでない人に対して馬鹿にするような言動をしたり、嫌がらせを行ったりすることを指します。
年配の社員やブランクがあり復職した社員に対して、会社が導入しているシステムの使い方を説明する際、小ばかにするような態度を取る、わざと使い方を教えないといった行為がテクノロジーハラスメントに該当します。
また、エンジニア同士などIT知識を持っている者同士でも、熟練者が若年社員に「クイズ」という形で知識試しをするような行為もハラスメントの一部になります。
ハラスメントが発生しやすい職場の特徴
なぜ、こうしたハラスメントが発生してしまうのでしょうか。さまざまな要因が絡み合うため一概に決めつけることはできませんが、パワハラ・セクハラが発生した職場の特徴から共通項が見えてきます。
厚生労働省の調査によればパワハラ・セクハラがある職場では、「上司と部下のコミュニケーションが少ない/ない」が最多の特徴として上げられています。他に多いのが「残業が多い/休暇を取りづらい」「業績が低下している/低調である」という回答です。
この点から、仕事でのストレスの多さや信頼できる人間関係が築かれていないことが、ハラスメントにつながっていると推測できます。
一方、過去3年間にパワハラ・セクハラを経験しなかった回答と比較すると、「ハラスメント防止規定が制定されていない」「従業員間に冗談、おどかし、からかいが日常的に見られる」という点で、ハラスメントがあった職場となかった職場では大きく差があります。
出典:令和2年度「職場のハラスメントに関する実態調査」P4|厚生労働省
つまり、防止規定等でなにがハラスメントにあたるのか、認識が浸透している職場はハラスメントが発生しづらく、かつハラスメントにつながるような言動は少ないということです。
企業がハラスメントを防止するための規定や措置を講じ、周知活動や啓蒙等を通じて、より良い職場環境をつくることが重要といえます。
ハラスメントが企業にもたらすリスク
職場内のハラスメントは、被害者・加害者のみだけでなく企業にも大きなダメージを与えます。以下に、ハラスメントが企業にもたらすリスクについてみてみましょう。
職場環境の悪化
ハラスメントが発生すると職場の雰囲気も悪くなります。職場内で同僚に浴びせられた激しい叱責や、チームメイトが苦しんでいる過大な仕事の重圧に、萎縮したり緊張を覚える人もいるでしょう。緊張感が漂う職場ではストレスも増大します。
ハラスメントを行う行為者が、次々とターゲットを変えることで職場内に被害者が増えることも考えられます。他者から受けたハラスメントを、より弱い立場にいる人間に行うようなハラスメントの連鎖も無視できません。
ハラスメントは、職場内で働く従業員のモチベーションや精神的安定に影響を与え、ひいてはチーム力や生産性の低下を引き起こすリスクがあります。
人材定着率の低下
ハラスメントの問題が解決されず、被害を受けた従業員が離職してしまうケースもあります。マタハラで育児休業を拒否されたことで、物理的につづけられず辞めざるを得ない状況もあるでしょう。
こうしたハラスメントが常態化すると、従業員の離職を引き起こし、人材定着率が低下します。採用をしても定着せず、採用コストや教育コストのみがかかる状態になります。
企業の信用度の低下
ハラスメントは、企業の信用度にも関わる問題です。パワハラ、セクハラ、マタハラ(パタハラ)は、昨今では「あってはならないもの」と世間の厳しい目が向けられています。
ハラスメントは個人の尊厳を侵害する行為と明らかに認識されており、一度ハラスメントの問題が世間に広まると、企業イメージが急速に低下します。
近年ではSNSで問題が広まる「炎上」などもあり、一度低下した企業信用度を回復させるのは容易ではありません。
企業が日頃から行う対策
パワハラ、セクハラ、およびマタハラやパタハラを防止するために、企業は対策を講じる必要があります。以下の措置は、法律で講じなければいけないとされている措置です。
・ハラスメント対策の方針の明確化及び周知と啓発
・相談に応じ、適切に対応するための体制整備
・職場のハラスメントへの迅速かつ適切な対応
・プライバシー保護や不利益取扱いの禁止等
出典:P19『職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!』|厚生労働省
具体的になにをするべきか、以下に解説します。
ハラスメント防止規程の作成
ハラスメントを予防するためにまず大切なのは、企業として「ハラスメントを許さない」という姿勢を明確にすることです。明確な方針があることで、組織はハラスメントを起こさないよう行動し、発生したものに適切に対応することができます。
「ハラスメント防止ルールブック」というようなパンフレットを作成したり、企業メッセージとしてコーポレートサイトに方針を掲載したりするのも効果的です。ほかには、就業規定等にパワハラ・セクハラ等を行った場合は厳正に対処するなどの方針や懲戒規定等を定める方法もあります。
ハラスメント相談窓口の設置
ハラスメントを未然に防ぐためにも、従業員が安心して気軽に相談ができる窓口を設けましょう。相談窓口を担当する社員は、相談者研修等で適切な対応の仕方を学んだ者にしましょう。
社内だけで対応するのではなく、複雑な問題に対応できる弁護士や、心の問題を相談できるメンタルの専門家と契約することで、より相談しやすい環境を作ることができます。
ハラスメント防止措置の周知
せっかく方針や相談窓口を作っても、従業員が知らなければ効果を発揮しません。ハラスメント防止措置は、多くの従業員が日常的に目に触れる場所に掲示したり、周知したりします。
相談窓口の連絡先は、簡単にアクセスしたりすぐに見つけられる場所に常に掲載しておきましょう。社内グループウェアに掲載したり、名刺サイズのカードにして配布したり、職場にポスターを掲示したりするなどの方法もあります。
ハラスメントへの迅速かつ適切な対応できる体制の構築
相談窓口は設置して終わりではなく、従業員に活用されなくてはなりません。そのためには、ハラスメントの相談が発生した場合、誰がどのように対応するのか、より具体的な流れを決めておきましょう。
出典:職場のパワーハラスメント対策ハンドブック|公益財団法人21世紀職業財団
ハラスメント研修の実施
ハラスメントが発生した際、相談者や被害を受けた従業員のプライバシーが守られるには、相談窓口の担当者だけではなく、多くの従業員がハラスメントについて理解を深めて置く必要があります。
定期的にハラスメント研修を実施しましょう。その際「管理職」「一般社員」「新入社員」など参加者を分け、それぞれの立場で気を付けるべきことを学ぶのも効果的です。
さらに、ハラスメントの相談をした従業員や、事実確認に協力した従業員が、不利益な取り扱いをされないために、そうした旨を就業規則や社内パンフレットに明記し、管理者や社員に継続的に周知することが大切です。
職場でハラスメントが発生したときにするべきこと
ハラスメントが発生したら、迅速かつ適切な対応が求められます。
相談者の話を聞く
ハラスメントの相談を受けたら、まずは相談者の話に真摯に耳を傾けます。「気にしすぎだよ」「あなたのためを思っての指導だったのでは?」といった一方的に決めつける言葉をかけてはいけません。こうした言動はハラスメントの二次被害として相談者をより傷つけることになりかねません。
相談者がどうしたいと思っているのか、意向を確認した上で迅速に対応します。ハラスメントの適切な対応とは、一律ではありません。状況によって注意深く見守る必要のあるものや、行為者に間接的に注意を促す必要があるものなどさまざまです。中には、被害者の休職やカウンセリングが必要になるケースもあります。
相談を受けたあと、時間を空けるのは適切な対応とはいえません。問題がさらに悪化したり、被害が広がったりする恐れがあるばかりか、相談者に「話したのに何も解決しない」と不信感を抱かれる要因にもなります。
行為者へ事実確認を行う
相談を受けた窓口の担当者や、人事部門、ハラスメント対策委員会などが、相談者だけでなく行為者からも事実を確認します。こうした事実確認に速やかに対応するには、事前に相談窓口と個別案件に対応する部門との連携手順を定めておくことが重要です。
行為者への聞き取りでは、以下のような点を確認します。
・相談対象となっている行為が実際にあったかどうか
・行為が行われた日付や場所
・その行為を行った理由
このとき、はじめから加害者と決めつけて接するのではなく公正中立の立場を保ち、客観的な内容を確認できるよう務めます。なお、セクハラの相談では、「性的な言動」の有無が重要なポイントになりますが、パワハラやマタハラ・パタハラでは、相談内容の言動の有無に加え、その言動の業務上の必要性について、前後関係を踏まえて判断する必要があります。
第三者へ事実確認を行う
相談者と行為者の双方の言い分が食い違う場合、必要に応じて第三者へ事実確認を行います。
第三者への事実確認は、ハラスメントの相談内容が職場内に広がってしまわないよう、必ず事前に相談者に確認した上で、決められた範囲で聞き取りを行います。必要に応じて、弁護士や専門家の意見を仰ぐこともできます。
こうした事実確認は、ハラスメントに適切に対応するために不可欠な過程ですが、対応する担当者や部門、委員会が「ハラスメントの有無」を明らかにすることを第一の目的にしてはいけません。最優先されるべきは、問題となっているハラスメントが中止され、相談者にとって良好な職場環境が回復されることです。
なお、事実確認が完了しなければ、相談者に配慮した措置がとれないわけではありません。行為者の更なるハラスメントを防ぐために、担当者替えをする、業務で第三者を同席させるなど臨機応変に対応しましょう。
問題の解決
以下の点をもって、ハラスメントの問題の解決といえます。
・被害者への適切な配慮の措置
・行為者への適正な措置
・再発防止措置
被害者への適切な配慮の措置とは、ハラスメントの問題となった言動が中止され、被害者の心身が回復するような取り計らいを指します。
具体的には、行為者からの謝罪、配置転換、両者の関係改善に向けた援助、被害者の労働条件上の不利益の回復などがあります。この際も、被害者の要望を聞き、意向に沿う形で対応します。
もし、ハラスメントにより被害者が休業を余儀なくされた場合には、本人が元の仕事に復帰できるよう積極的なサポートが求められます。
行為者への適正な措置とは、就業規則やハラスメントに関連した職場の規定に基づき、懲戒当の必要な措置を実施することをいいます。
ハラスメントを個人の問題に帰結させたり、内密に処理したりする対応は、より問題を複雑にし解決から遠ざけてしまいます。職場のハラスメントをなくすためには、組織全体が一つ一つの相談に真摯に取り組む姿勢が重要です。
関連記事
ハラスメントへ対する企業の正しい対処法とは?リスクや種類を解説
もしも職場でハラスメントの被害をうけたら
ハラスメントは、被害を受けた側が我慢して解決するものではありません。時間が経つことで、さらにエスカレートする恐れもあります。一人で悩まず、信頼できる人に相談することが大切です。
被害の内容を記録しておく
ハラスメントかな? と気づいたら、被害の内容は記録して起きましょう。
パワハラやマタハラ・パタハラで、上司や同僚からされた行為・かけられた言動を、日付と共に書き残しておきます。こうした記録が、ハラスメントの裏付けになります。メール等は消さずに残しておきましょう。
医師の診断書をもらう
パワハラで身体的暴力を受けたときは、傷跡を写真に残し、医師の診断を受けましょう。また、職場のハラスメントがうつなどのメンタルの不調を引き起こすこともあります。おかしいなと感じたら、専門医を訪問しましょう。
ハラスメント相談窓口の有無を確認する
社内のハラスメントの相談窓口を確認しましょう。
もし社内にない場合でも、社外の相談窓口、都道府県労働委員会や法テラスのほか、労働局の総合労働相談コーナーを利用できます。厚生労働省が運営するウェブサイトで相談窓口が案内されていますので、確認してみましょう。
パワハラ防止措置が中小企業も2022年4月より義務化へ
労働施策総合推進法の改正により、パワーハラスメントの防止措置が義務化されました。
大企業は2020年6月1日からすでに義務化されており、中小企業でも2022年4月1日から、上述したハラスメント防止のための措置を講じなくてはなりません。
また、職場におけるパワハラの原因や背景を解消するために、職場環境の改善やコミュニケーションの活性化といた施策は、パワハラ防止のための望ましい取組とされています。
今後は職場での従業員間のハラスメントはもちろんのこと、従業員から就活生に向けられるハラスメントや、取引先や個人事業主といったさまざまな関係性でのハラスメント防止に取り組むことが求められます。
詳しい義務や改正点についてはこちら
パワハラ防止関連法の改正点とは?中小企業は2022年4月1日施行
働きやすい環境作りを行おう!
ハラスメントが生まれる背景には、ストレスの多い職場環境や、ハラスメントそのものに対する無知、固定観念に基づく差別意識など、さまざまな要因があります。こうした要因のすべてを一気に取り除くことは不可能でも、一つ一つの取り組みを通じて、ハラスメントが生まれにくい環境を作り出すことができます。
継続的にハラスメントを許されないという姿勢を発信し、従業員一人ひとりが働きやすい職場環境をつくっていきましょう。
