企業にとって従業員のモチベーションを維持・向上させることは今や必須といえます。モチベーションが高い組織では、活発なコミュニケーションが行われ、生産性や成長スピードも向上します。
この記事では、モチベーションについての解説とともに、低下してしまう原因や、維持・向上させるメリット、具体的な手法やコツについてご紹介します。企業の管理部門や、マネジメント職の方はぜひお役立てください。

モチベーションとは
モチベーションの一般的な意味は「動機付け」で、「やる気」「意欲」と同じ意味で捉えられています。働く上では、仕事への意欲や業務に対するやる気を意味しています。
モチベーションという言葉は、1990年代に入ってから一般的に使われるようになりました。80年代までは、モラールという言葉がモチベーションに近い意味合いで使われていました。モラールとは、「士気」を意味しています。モラールは、組織や団体などの集団的な概念なものに対して、モチベーションは個人の意識に対する概念です。
かつての日本では、従業員は会社という「集団の一員」を認識する必要がありました。そして自社に対する帰属意識や忠誠心を持ちながら、一致団結して職務に取り組むことで成果を出していました。しかし時代の流れに伴い、現在は個人の意見や意欲を尊重しながら、個人がそれぞれの業務に取り組むというスタイルが主流になりつつあります。
これからの企業にとって、従業員のモチベーションの維持・向上が欠かせない取り組みのひとつとなっています。
モチベーション向上のステップ「マズローの5段階欲求」
企業は従業員の欲求を満たすことによって、モチベーションの維持や向上を進めていく必要があります。その時にヒントとなる考えが「マズローの5段階欲求」です。
マズローの欲求5段階説とは、アメリカの心理学者であるアブラハム・マズローが、「人間は自己実現に向かって絶えず成長する」と仮定し、人間の欲求を5段階の階層で表したものです。段階別に、それぞれの欲求について詳しくご紹介します。
第1段階:生理的欲求
「食欲」「睡眠欲」など、生命活動を継続していく上で欠かすことのできない必要最低限の欲求のことです。一般的な企業であれば、特に考慮する必要はないでしょう。
第2段階:安全欲求
紛争や病気など、自身の命が脅かされることなく安心できる環境で過ごしたい、という欲求のことです。こちらも一般的な企業は考慮の必要はありませんが、病気や事故に対する保障や労働環境の整備などが不十分な場合は、検討が必要な場合があります。
第3段階:社会的欲求
仲間や所属先から受け入れてほしい、という欲求のことです。所属と愛の欲求と呼ばれることもあります。誰かから必要とされていることや、居場所があることなどにより、帰属意識や信頼関係が生まれます。
欲求が満たされない場合、孤独感や不安感が強くなり、精神疾患につながる場合もあるため、注意が必要です。
第4段階:承認欲求
価値ある人間だと認められたい、誰かから尊敬されたい、という欲求のことです。尊厳欲求とも呼ばれています。他社からの評価の他に、自身の自己評価も該当します。欲求が満たされない場合、無力感や劣等感を感じることにつながります。
第5段階:自己実現欲求
自身の「あるべき姿」になりたい、という欲求のことです。自分の可能性を最大限に活かしていくための探究をしていく状態です。組織では、この欲求を持つ人材を求めるケースが多いです。
企業は、従業員それぞれの段階に合わせて欲求を満たしていくことが重要です。例えば、社会的欲求に対しては、社内コミュニケーションを強化する取り組みの検討、承認欲求に対しては、立場や評価方法について検証などが挙げられます。自己実現欲求に対しては、従業員個人の理想を見つける支援や目標達成に集中できるための環境を整備を検討すると良いでしょう。
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モチベーションの種類
モチベーションは、「外的動機づけ」「内的動機づけ」の2種類に分けることができます。
外発的動機づけ
「高い報酬がもらえるから」「注意されるから」など、自分以外の要因でもたらされる動機づけのことです。「給与や賞罰、他人からの評価など、外からの影響によって発生する特徴があります。
企業は、従業員個人を評価し、正しい処遇を割り当てることによって引き起こすことが可能です。そのため、比較的容易にもたらすことができますが、持続させるのは難しいと言われています。
なぜなら長期的な視点で考えると、目先の利益にとらわれがちになったり、アイディアや創造性を枯渇させたりする要因となるリスクがあるからです。外発的動機づけは、モチベーションを持ってもらう「きっかけ」に留め、内発的動機づけを刺激する取り組みを行なっていくとよいでしょう。
内発的動機づけ
仕事や組織への興味や関心、楽しさからもたらされる動機付けのことです。仕事に楽しさや面白みを感じることで、より意欲的に仕事に打ち込むため、持続しやすい特徴があります。自ら意義を感じて取り組んでいるため、自発的な行動による成長が期待できます。目標に向かって能動的に行動することにより、企業の業績アップにもつながります。
企業は、従業員ひとりひとりの内発的動機づけを刺激し、モチベーションの高い状態を持ち続けられるような取り組みを行うと効果的です。次の項目では、モチベーションを維持させることでもたらされるメリットについてご紹介します。
モチベーションを維持・向上させることで得られるメリットとは
離職防止に繋がる
モチベーションがあがることで、ポジティブな気持ちで仕事に打ち込めるために、不満を抱きにくくなります。これによりメンタルが安定し、充実感が生まれます。万が一、困ったことがあったときには、社内に相談できる人がいるため、早い段階で解決できます。
生産性が向上する
従業員自らが意思を持って業務にあたるため、自発的な行動が増加します。より良いものを提供しようとするため、細部までこだわった品質の高いサービスや成果を期待できます。また、集中して効率的に業務を遂行するようになり、自らPDCAを回していくようになります。
チームの雰囲気が良くなる
熱意を持ちながら業務にとり組むために欠かせないのが、チーム内のコミュニケーションです。親密で丁寧なコミュニケーションから、お互いを知り、認め合うことができ、信頼関係も生まれます。
困った時には助け合い、互いに教え合うチームとなっていきます。雰囲気がよくなることで、創造性が高まり新しいアイディアが生まれることもあります。結果として、チームが一丸となって目標に向かうことができ、成果を残すことにつながります。
育成コストの削減
自らどんどん経験や学びを増やしていくことによって、個人の成長スピードが速くなります。
また、雰囲気のいいチームでは、先輩が後輩に教えるということが自然に発生し、育成し合う組織になっていきます。結果として、教育にかけるコストを削減することができます。
企業の成長スピードが早まる
従業員が意欲的に業務に取り組み、組織に貢献しようとするため、成長スピードの早い組織を作ることができます。自発的に目標に向かって努力をするため、従業員の中には自らスキルアップを始める人もいるでしょう。
ひとりひとりの高いパフォーマンスによって、高品質の商品やサービスを展開することが可能になり、高い生産性を期待できます。
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モチベーションが低下する理由とは
人間関係に不安を抱えている
職場での人間関係に悩みを持つことで、不安感や不満が発生することがあります。長時間労働や、パワハラなどのハラスメントを受けていると、体力的・精神的に辛い状態が継続します。それによって集中力欠如や疲労による生産性低下が発生し、次第にモチベーションも低下していきます。
コミュニケーション不足
社内でコミュニケーションが不足していると、報連相がうまくいかずミスが増えたり、仕事を任せる信頼関係が築きにくかったりします。また、必要な伝達事項が一部の従業員に届いていなかった場合、疎外感や孤独感を持つ従業員が出る可能性があります。
従業員本人が望まないのにも関わらず、自身のスキルアップにつながらない業務が断続的に続くことにより不満が発生し、離職につながるケースもあります。従業員とマネジメントとの間に認識の差異があると、すれ違いが起こりやすくなります。
評価に不満がある
「自身の評価はもっと高いはず」「自分より他人の方が高いことに納得がいかない」など、人事評価に不満を持っている場合も、モチベーション低下につながります。評価基準が公平であるかや、従業員が納得できる基準となっているかについて、定期的に検証すると良いでしょう。
給与や賞与の減額
業績不振などによる減給や賞与カットは、企業活動を行っていく上で避けては通れないことです。ただ、「仕方がないこと」だと認識はしていても、実際に今までもらっていた給与が減額になってしまうと、モチベーションを下げてしまう可能性があります。
中には、給与分の仕事だけをしようとする従業員が出てくるかもしれません。それによって、生産性が低下する恐れもあります。
報酬が業務に見合っていないことも同様で、同程度の業務内容で他社の方が給与がよい場合は、目移りする可能性があります。
目標や指針が明確でない
企業の大きな目標はもちろん、所属チームの方針が明確でない場合、業務の方向性が見定まらず、不安感や不満が発生する原因となります。従業員は、自分に期待されていることや、やりがいを見出せず、モチベーションを下げてしまいます。
また、達成が不可能な目標や、逆に容易に達成できる目標も不適切です。立てた目標は定期的に見直し、努力すれば必ず達成可能な目標を設定すると良いでしょう。
【管理部向け】従業員のモチベーションを上げる方法
職場環境を整える
従業員が安心して職務に取り組めるような環境作りを進めましょう。
メンタルヘルスやハラスメントについて、相談しやすい仕組みを整備し、積極的な利用を呼びかけをするとよいでしょう。また、従業員が快適に集中して業務にあたれるよう、福利厚生を充実させるのもおすすめです。
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積極的なコミュニケーション
従業員同士が積極的にコミュニケーションをとる仕組みをつくることにより、チームの雰囲気が良くなり、業務が円滑に進むようになります。企業でのテレワーク化が進んだことにより、対面でのコミュニケーションが減少している昨今は、オンラインコミュニケーションが注目され重要視されています。必要に応じて、オンラインチャットやミーティングツールの導入を検討しましょう。
また、従業員の認識について把握するため、1on1ミーティングを実施するのもおすすめです。30分〜1時間くらいで業務の中で感じている率直な思いや意見などを定期的にヒアリングし、チームづくりに活用しましょう。
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評価制度を見直す
適切な評価は、やる気や意欲に直結するため、評価制度の有効性について定期的に検証する必要があります。貢献度や成果物だけでなく、業務プロセスについても評価する基準となっているか、企業と従業員の双方にとって納得のいく基準になっているかを確認し、必要に応じて見直すとよいでしょう。
表彰制度を設ける
優秀な成果を残したプロジェクトや、貢献度の高い従業員に対して表彰する制度を設けることは、従業員のやる気アップにつながります。「自身が表彰されること」をひとつの目標とすることができ、意欲や意識を高める要素となる可能性があります。
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【マネジメント向け】従業員のモチベーションを上げる方法
業務の見える化
従業員ひとりひとりの業務について整理をして工数を把握し、平均的に業務が振り分けられているかを定期的に確認しましょう。個人の業務をマネジメントが把握していない状態が続くと、プロジェクトの遅れや生産性の低下につながります。可能な限り俗人化を避け、誰でも把握できるような透明性を持たせる仕組みづくりを実施していきましょう
適材適所の確認
人にはそれぞれ得意不得意などの特性や資質があるものです。「アイディアを出すのが得意な人」「リーダーシップを発揮して、チームをまとめるのがうまい人」「時間はかかるものの一切ミスをしない人」など、従業員それぞれの資質を把握し、管理と育成ができる仕組みを整備しましょう。
社内外の研修実施はもちろん、ストレングス・ファインダーなどにより個人の特性を把握したり、個人のスキルを一元管理したりするとよいでしょう。
また、定期的に異動希望の調査を行うのもおすすめです。直属の上司には言いづらいけれど、実はチャレンジしたい気持ちのある従業員の希望を募るために有効な手段です。自身のやりたい業務にチャレンジすることによって、前向きな気持ちで心機一転でき、前向きに頑張るモチベーションとなります。
キャリアパスの明確化
従業員ひとりひとりの達成目標を明確にすることは、やる気や意欲を引き出すために重要な役割を果たします。具体的に何をやれば評価されるのかがはっきりしているため、従業員自身も上司も能動的な行動ができます。
また、将来的な目標を設定することにより、日々の業務にあたる意義を見出し、前向きな気持ちを生み出すことができます。定期的に従業員にヒアリングをして、方向性にズレが生じていないか、認識のすり合わせをするとよいでしょう。
【従業員向け】モチベーションを上げる方法とは
ストレスを溜めないよう心がける
職場や家庭以外で、相談できる人や場所を作っておくとよいでしょう。利害関係を気にせずに話ができる仲間をつくっておくのがおすすめです。
もちろん、職場でも信頼のおける人をつくっておくことも重要です。悩みや不安感は早めに解消して、できる限りストレスを溜めない生活を心がけましょう。
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スキルアップをする
独学やキャリアスクールなどでスキルアップすることもおすすめです。
自身の業務に活用できるだけでなく、将来的な人生の目標を見つけることにより、前向きな気持ちを継続できる効果もあります。一緒に勉強する仲間を見つけることで、モチベーションを維持にもつながります。
モチベーションの測定方法とは
実際に、従業員のモチベーションについては、どうやって把握するのがよいのでしょうか。モチベーションを可視化するには、従業員の客観的な意見と定量的なデータを用いたモチベーションサーベイが有効です。
調査は定期的に実施し、定点観測をしながら、普段から取り組みを行なっていくとよいでしょう。
組織の状態を把握する「モチベーションサーベイ」
モチベーションサーベイとは、従業員に対して業務内容や組織に対する満足度の調査のことです。従業員に対して「報酬」「人間関係」「労働環境」などの満足度を測る調査で、企業の業績アップにもつながるといわれています。
全従業員にサーベイを実施することにより、数値化されたデータを収集することができます。上司には直接言いにくい意見なども収集可能であるため、忖度のない「現場の声」を把握することができます。また、「うわさで聞いた話」「一部で出ている意見」などレベル感が不明確で、対応が必要なものか判別に困る場合の判断材としても活用できます。
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自分のモチベーションを可視化する「モチベーショングラフ」
自身のモチベーションを客観的に観察するには、モチベーショングラフの作成がおすすめです。何が起因でモチベーションが上がったり下がったりしたのか明確になるため、傾向の認識と適切な対処につなげられます。
モチベーションを維持・向上させて従業員のやる気を引き出そう
モチベーションは、従業員の欲求を満たすことに密接な関係があり、維持・継続するためには内発的動機づけが有効です。モチベーションが低下する原因には、労働環境や人間関係、報酬、評価などが関係する場合が多く、それぞれに対してマネジメントやコミュニケーションによって解決することが可能です。
まずは従業員のモチベーションを調査し、取り組みを始めてみてはいかがでしょうか。
