新入社員を育成するうえで、「OJT」はとても重要な役割をもっています。人材育成のためには、ただやみくもに教えればよいというものではなく、適切な研修を行う必要があるのです。この記事では、多くの企業で導入されているOJTの目的や、メリット、注意点や、OJTを成功に導くためのコツについても紹介します。この記事を読めば、OJT研修の成果を高めるためのポイントが理解できるため、ぜひ参考にしてみてください。

OJTについての基礎知識
まず、OJTの目的や基本的な考え方について、それぞれの違いや手順について詳しく解説します。
そもそもOJTとは?
OJTとは、「On-The-Job Training」の略で、実務を通じて行う教育トレーニングのことです。先輩や上司が指導役となって、新人や部下に対し、業務の手順やノウハウを教えます。OJTは第一次世界大戦中のアメリカで誕生し、短期間で大量の新人を育成する手段が必要になったことから「4段階職業指導法」が編み出されました。「やって見せる」「説明する」「やらせてみる」「確認と追加指導」の4段階からなり、戦後の高度経済成長期の日本に導入されました。人材の育成は、企業が生き残るために重要となるポイントです。終身雇用やバブル経済期など、OJTは時代の流れとともに改良を繰り返しながら進化しており、今でも多くの企業で新卒研修などに活用されています。
OJTとOff-JTの違い
OJTとOff-JTはセットで実施されることが多く、似ているように見えますが、内容はまったく違います。業務を実践的に指導していくOJTに対し、Off-JTは集合研修や座学により、業界知識やビジネスマナーなどの基礎を教えるものです。新卒の場合、OJTに入る前に社外講師などを招き、研修センターなどで行われる場合もあります。先にOff-JTで基礎を作っておくことで、OJTで指導する側の負担が軽減され、教わる側も理解しやすくなるといったメリットがあります。
企業や入職状況によっては、先に業界知識やビジネスマナーという基礎を作っておかないと、いきなりの実務では理解しづらいということもあり得るのです。そのため、実務以外に専用の時間を作り、あらかじめ前提となる知識を学んでもらうのが目的です。
OJTの原則と手順
OJTの手順としては、まず「Show(やってみせる)」「Tell(説明・解説する)」「Do(やらせてみる)」「Check(評価・追加指導を行う)」の4つがあります。最初に手本を見せたうえで、業務の内容や意味を説明します。続いて教わる側に実務を行ってもらい、その様子をチェックした指導者が、細かな点も含めたフィードバックを行うのです。そこまで終わったら次の実務指示へとつなげます。重要なのは、教わる側がある程度理解しているかを確認しながら進めるのがポイントです。要所ごとに質問をしてもらい、わからない点をそのままにしておかないことで、その後の研修もスムーズに進めることができます。
OJTには3つの原則があり、「意図的」「計画的」「継続的」であることとされています。具体的には、OJTをどのような意図で行うのかという目的を示すことが大切です。目的が示されなければ、教わる側としても重要性が見えず、今教わっている内容が何のために行われているのかを理解することができません。さらに、具体的なゴールを設定して、そのためには「いつまでに」「何ができるようになっている必要がある」、と計画的に進められるようにします。そして、1度で習得できるようなレベルではなく、継続して少しずつレベルアップしていくようなトレーニングを設定します。
その場限りの曖昧なOJTではなく、目標と目的をしっかりと定め、継続的に行うことが重要です。
OJTのメリットと注意点
新人の育成に効果的であるものの、メリットだけでなく、注意点もあるのがOJTです。ここからは、一つずつ例を挙げて解説します。
メリット
まずは、OJTにより得られるメリットを紹介します。
即戦力が育つ
OJTは、現場で実務を通じ、仕事のノウハウを学ぶことができます。そのため、研修と実際の仕事とのズレが生じにくいのがメリットです。教わる側も研修で教わった内容と違った、と戸惑うことなく、安心して業務を進められます。結果として、効率の良いトレーニングを行うことができ、即戦力となる人材を短期間で育成することができるのです。
個別最適な指導ができる
同じ新卒ではあっても、スキルや理解レベルには個人差があります。そういったバラつきがある新入社員を、1度に同じレベルまで教えることはできません。OJTでは上司や先輩社員が1対1で指導するのが基本のため、教わる側のレベルに応じて、内容やスピードを調整することができます。教わる側としても、自分のペースに合わせて指導してもらえるので、不安や疑問が解消されやすくなります。新入社員それぞれの特性や性格を把握し、臨機応変に指導方法を変えられるのがメリットです。
職場の人間関係が構築される
企業の運営において、社員同士のコミュニケーションは不可欠です。OJTでは、教わる側が不明点を質問したり、逆に指導する側がフィードバックを行ったりといったやりとりが頻繁に行われます。必然的にコミュニケーションが生まれることで、両者の距離が縮まり、信頼関係が生まれやすくなります。その結果として職場の人間関係の構築につながり、こうした初期段階での信頼関係やコミュニケーションは、その後のモチベーションや協調性にも関係していく重要なものとなるのです。
新入社員のうちに感じた信頼関係などは、安心感にもなります。職場に馴染めるかどうかといった不安を払しょくすることができますので、積極的に関係性を作ることが大切です。
コストが抑えられる
OJTでは、上司や先輩といった社員が指導役になるため、Off-JTのように、講師や研修を外注する必要がありません。現場で日々の業務を通じて行われることもあり、講師や研修場所の用意など、特別なコストは発生しません。OJTは基本的に就業中に行われるため、特別な時間を用意するなど、人件費における手当などのコストも必要ないのです。そのかわり、指導する側の人材育成も必要となるので、広い視野での人材育成を心がけましょう。この点については、以下の段落で解説します。
注意点
続いて、OJTを行う際に注意すべき3つのポイントを解説します。どれも陥りやすい点ばかりですので、必ずOJTを進める前に確認しておきましょう。
教える側の能力によって研修の効果に差が出やすい
OJTで指導する側となるのは、基本的に上司や先輩といった社員です。Off-JTのように、専門的な知識を持つプロが研修を行うわけではないので、指導者の能力によっても研修結果に差が出やすくなってしまいます。先輩社員や上司の教え方や熱意、対応の仕方により、きちんとした教育が受けられず、放置されてしまうといったケースも少なくないのです。
そのため、それらを踏まえた研修計画を立てることが重要です。教わる側の育成だけではなく、常に指導者としての研修を行うことも必要となります。一定の勤続年数がある社員には、常にOJTに対応できるよう、定期的に研修を行うなどを検討しましょう。
教わる側が受け身になってしまう
業務を行っていくうえで、「自分で考える」という能力は重要です。しかし、OJTでは指導する側と教わる側の関係性がはっきりしており、教わる側が主体的に考えなくなってしまうことがあります。つまり、指示されたことしかしない、業務における根拠や目的を推測することができない、などの弊害が起こりやすくなってしまうのです。特に、コミュニケーション能力も人それぞれです。そこで、教わる側のモチベーションが低い場合や、コミュニケーションが得意ではない場合には、指導する側のフォローが必要となります。
教わる側が意欲的で、自分からどんどん質問をするタイプであれば問題はありません。しかし、遠慮をして質問ができない、自分が考える必要性がわからないなどの場合は、指導する側が様子を伺いながら、適宜教わる側のモチベーションを保っていきましょう。
新入社員は、雰囲気に萎縮してしまうことも多く、必然的に受け身になりすぎてしまう場合もあります。教わる側が質問をしやすいよう、フランクな雰囲気を作ることもOJTの1つです。
実務が滞ってしまう
OJTの場合、指導する側が教える時間を割き、通常の実務と並行して行うことになります。そのため、教わる側の取得スピードが遅いと、何度も同じ説明を繰り返さねばならないなど、なかなか前へ進むことができなくなってしまいます。OJTの進みが遅くなれば、その分だけ指導する側に負荷がかかってしまうのです。
実務が滞りがちになるケースでは、会社が指導する側のフォローをするなど、OJTと実務をスムーズに行うための工夫が必要となるでしょう。業務の分担を見直したり、随時ほかの社員が問題はないかと気にかけたりと、全体でOJTに協力する流れを作ることが大切です。
OJTを成功させるためのコツ
OJTはメリットばかりではなく、デメリットもある育成方法です。ここからは、そんなOJTを成功させるためのコツを解説します。ぜひ参考にしながら、計画を立ててみてください。
手順をマニュアル化する
前述のとおり、OJTでは指導する側の能力や熱意により、結果に差が出やすいという課題があります。この課題を解決するためには、OJTの目的や指導方法、業務内容、評価基準、期間などを計画表にまとめ、マニュアル化するのが効果的です。基本となる要素をマニュアル化することで、指導する側の負担も軽減されます。「指導方法」や「業務内容」では、人によってバラバラになりがちな手順などを統一することができ、指導する側の能力によって効果に差が出るといった問題も防ぎやすくなります。
「目的」を設定することで、会社や指導する側、教わる側が共通の認識を持つことができ、OJTの着地点を予測することが可能です。また、教わる側のできること・できないことを明確にするのが「評価基準」であり、フィードバックが必要な箇所やOJTの進み具合を判断することができます。
適宜フィードバックを行う
基本的に、OJTでは指導する側と教わる側のやり取りが行われますが、コミュニケーションが生まれにくいケースもあります。たとえば、先輩が忙しすぎて後輩がなかなか質問の機会が持てない場合です。そもそも、後輩が質問をためらう性格といったこともあります。こうした場合には、指導する側が意識して、適宜フィードバックの機会をもつことが大切です。フィードバックを行う際は、「できた部分を評価する」ことと、「改善点を教える」ことをセットで行うよう意識しましょう。評価がセットになることで、教わる側のモチベーションを上げることができます。
人が何かを覚えるとき、ただ説明されるだけでは成長することはできません。わからない点があれば常に質問することが重要であり、そのためには業務への意欲となるモチベーションの維持は欠かせません。単なるダメ出しをするのではなく、できた所はきちんと評価することで、教わる側はこれで良いのだと安心することができます。
1on1ミーティングを取り入れる
1on1ミーティングとは、上司や部下などが、1対1で日々の業務について話し合うものです。キャリアミーティングのような、評価や査定を目的とするものではありません。フランクな雰囲気の中で、日々の業務についての成果や失敗について共有し合います。OJTのペア同士でも一定期間ごとに実施すると効果的で、教わる側の学びや気付きを、自然な流れで促すことが可能です。新入社員のうちはどうしても萎縮しやすいため、フランクな雰囲気で行うことが大切です。すぐ近くにほかの社員がいる職場や、緊張感を生みやすい会議室ではなく、仕事感の少ない開放的な場所で行うのが良いでしょう。たとえば、社食などでランチを兼ねながら行うのも良い方法です。
こうしたフランクな雰囲気での1on1ミーティングは、教わる側の状態を見定めることができます。さまざまな会話を織り交ぜることで、コミュニケーションを生む効果もありますし、教わる側がどのような性格をしているのか、どのような進め方が効果的なのかを判断できることもメリットの1つです。OJTを成功させるためには、個人に向き合う時間が重要となるのです。
OJT成功のカギはペア同士の円滑なコミュニケーション
OJTの成功は、ペア同士がいかに円滑なコミュニケーションを取れるかで大きく左右されます。ただマニュアルに沿って進めるだけではなく、適宜フィードバックやミーティングを実施しながら、双方向のコミュニケーションを心がけると良いでしょう。職場内よりもカジュアルな雰囲気で話ができ、手軽に利用できる場所として、社食の導入や拡充を検討してみてはいかがでしょうか。
