現在の採用状況の特徴は「売り手市場」であること。2018年のマイナビの調査では、3社に1社が19卒新卒採用において予定人数の確保が困難な状況にあると回答しました。基本的に労働人口が減少傾向にある中で、中途採用に関しても同様であるといえます。
そうした状況下で、企業がより自社にあった優秀な人材を採用するには、どうすればいいのでしょうか?

「採用力」を上げるためには…?
採用状況を改善するためには、「どんな人材が欲しいか」ばかり考えず、求職者目線に立った現状把握とその改善が求められます。ここで、企業が良い人材を採用する力を「採用力」と定義し、分析的に考えることで、採用状況を改善できるという考え方があります。
一般によく使われるのが、以下の図のようなもの。最初にこの公式が考案されたのは2000年で、リクルートが大手企業の採用力を新卒・中途採用共に数値化するために、生み出しました。ちなみにその時の数値ランキングの総合1位はソニー、2位はNTTドコモでした。
「採用力」の定義を採用すると、すなわち
「企業力」と「労働条件」と「採用活動力」
が採用力を左右する要素となります。それぞれの要素をアップすることで、総合的に採用力が上がるわけですが、3つはそれぞれ性質も違えば、上げるためのアプローチも異なります。
ポイント1:企業力アップ
企業力とは読んで字のごとく、企業自体の知名度やブランド力やサービス・製品の競合性などを表します。要するに「いわゆるいい企業には人が集まる」ということで、しかも企業力は一朝一夕に上がるものでもありません。
しかし、本来持っている企業力を上手くアピールできていないとしたら、それはすぐに改善が可能です。例えば、業界では有名な企業でも、BtoB企業であったりすると、一般消費者や別業界の人間には耳馴染みがないかもしれません。また、創業から日の浅いスタートアップであれば、その将来性や成長率が適正に認識されていないかもしれません。
企業が自社の企業文化や職場環境、ブランドをわかりやすく求職者に提示することが大切です。
採用オウンドメディアの活用
企業力を上げるために使えるツールとして代表的なのが「採用オウンドメディア」。ネイティブ広告と言われる企業広告の一形態です。もはや、広告会社に頼んでブランディングしてもらうだけの時代は終わり、自社でメディアを所有して自らブランディングする時代です。
メルカリのオウンドメディア「mercan(メルカン)」、サイボウズの「サイボウズ式」などが有名です。会社自体について宣伝することはもちろん、業務に関連する領域で、自社のスタンスを示したり、役立つ情報を掲載したり、自社サービスを使った人のことを載せたり、使い方は何通りも考えられます。
また、最近は中途採用SNS「Wantedly」のように、企業側にも記事投稿フィードがついている採用プラットフォームもあります。ここで、自社のサービスや福利厚生、社員に関する情報を認知してもらうこともできますね。
ポイント2:労働条件をよくする
「働き方改革」が社会課題となる昨今、労働環境の質は間違いなく企業の人気を左右します。職場環境をよくすること、従業員満足度をあげると、定着率も高まり、離職率が低いということで、採用時にもアピールできます。
福利厚生を充実
従業員満足度を高めるために、福利厚生の充実は一般的かつ効果的な方法です。これからの時代に合った福利厚生の事例・ツールをいくつかご紹介します。
オフィスおかん
住宅手当、人間ドッグ、資格手当にリフレッシュ休暇制度…会社の福利厚生は様々ありますが、その中でも食事補助は従業員からの満足度も高いサービスです。オフィスおかんは1品100円からお惣菜を購入できる簡単社食サービス。オフィスに冷蔵庫を設置することで、健康的な食事を24時間いつでも手軽に食べることができます。
従業員の健康面でのサポートになることはもちろん、社内で食事を一緒に取ることで、コミュニケーションが捗るという効果も期待できます。

育児・家事との両立を促進、働きやすい職場へ
社内託児所「WithKids」
ワークスアプリケーションズが自社内に持つ託児施設。ここでは、既存の保育の枠にとらわれない理想の子育て環境を創り上げるため、保育士・看護師・栄養士を自社の社員として雇用しています。
その中で、保育スタッフにも余裕のある勤務体制を整備し、また社員の1日先生や社員参加型の様々な企画を実施するなど独自の試みも実施。会社と託児スペースが一体となって、仕事も育児も全力投球できる理想の環境を追求しているということです。
https://okan-media.jp/takujispace-withkids/
家事代行サービス「ベアーズ」の法人会員
さすがに企業保育所の新設は難しい、という企業でも低コストで導入できるのが家事代行サービス。
ベアーズでは、法人会員になると、従業員やその家族が『家事代行サービス』『キッズ&ベビーシッターサービス』などを優待価格で利用できるようになります。そのほか、社内向けセミナー開催(保育・清掃など)、ファミリーイベントにおけるイベント保育、なども優待価格で利用できるそう。
多様な働き方を促進
クラウド業務システム「Kintone」
kintone(キントーン)は、サイボウズが手がけるクラウドサービスです。社内外を問わずどこからでもアクセスできる業務システムを作成し、多様なワークスタイルでの関わり方が可能になります。
また社内SNSのような機能を備えているため、オフィスで顔を合わせることの少ないメンバーとも活発なコミュニケーションが生まれます。少人数のオンラインオフィスとして、大企業の全社システムとしてなど幅広く利用されています。
こうしたツールを活用すれば、労働環境の質を上げ、良質な職場環境をアピールして採用力アップに繋げることができそうです。
ポイント3:採用活動力をあげる
上記2点「企業力」と「労働環境」は、「企業価値」に関わる点で、採用に関わらず、普段から企業全体で改善に取り組む課題です。一方、採用活動力は、人事のみで頑張れる、採用活動に直結した問題です。採用活動にかけられる費用や人材などの「採用資源」、そもそも採用を行っていることを広く知ってもらう「採用広報力」と、運用・面接の能力である「採用実務力」によって構成されます。
現在、採用活動力が想定より低いとすれば、資源をより多く注入するか、もっと広報力を高めるか、良い人材を見極める能力を高めるかなどを総合的に考慮しながら、新しい採用戦略を考える必要があります。
ここでは、最近話題の採用戦略をいくつかご紹介します。
リファラル採用
最近、特に中途採用でよく用いられる採用戦略です。リファラルとは英語で「紹介/推薦」という意味。リファラル採用とは「社員から友人や知人を紹介して採用する方法」を指し、Googleや、 Facebook等のアメリカIT企業から始まり、日本でも中途採用のシーンで多く使われてきました。
よくコネ(縁故採用)やリクルーター制と混同されますが、リクルーター制は、あくまで企業が主導する手法で、企業が採りたい学生に対し社員を派遣し、一方コネ採用は、社員のネットワークに居る知り合いを資質に関わらず採用します。このリファラル採用は、社員のネットワークを利用しつつ、かつ会社に合った資質の人材を採用します。
何より社員のネットワークを借りて人を集めるので、採用コストを下げることができますし、もともと知り合いなのでどういう人間か知ることができ、結果的に面接の精度が上がるというメリットがあります。
採用SNSの活用
従来は、リクルートなどが運営する採用Webプラットフォームが就職活動や転職活動の主戦場でした。
しかし近年、WantedlyやLinkedInなど、ビジネスに特化したSNSが普及しています。こうしたプラットフォームでは、求職者の側も、自分のビジネスの実績を見やすく載せることができますし、その人の人脈やプロジェクトで関わってきた企業なども知ることができます。求職者にとっては、応募も楽で、さらにチャット機能がついていて企業とのやりとりがしやすいというメリットもあります。職種ごとの検索もかけられるので、職種に応じた能力の高い人物に採用募集を知ってもらう機会の向上が見込めます。
こうしたプラットフォームにおいて、採用したいポストの、求める人物像やプロジェクトの内容について魅力的にかつ適切にアピールできる力も重要でしょう。LinkedInは海外人材や、日本ではビジネスプラットフォームに縁遠い業界の人、例えばアーティストやキュレーターなど幅広い人材が登録していて面白いです。Wantedlyではスタートアップ企業が自社の採用日記のようなものを綴っていたりして、読み物としても面白いし、採用活動への気づきも得られるかもしれません。
転職コンサルタントの活用
転職コンサルタントは、転職者にとってももちろん頼れる味方ですが、採用の側もコンサルタントを活用する意識をもつことが重要です。
例えばコンコードは、経営幹部・幹部候補の紹介、またコンサルティングファーム・投資銀行・PEファンド等へのプロフェッショナル人材につき強みを持っていて、独自の料金システムで転職活動をバックアップしています。同社は大学でキャリア教育を行ったり、社会起業家への支援も行っていて、繋がる人材網の強化が見込まれます。
このように、コンサルタント会社の強みを見比べて、自社の活動に合ったコンサルタントとネットワークを作っておくことも採用活動力を効率よく上げる手段だといえます。
まとめ
売り手市場である現在の日本において、良い人材を確保するためには、もともとの企業力に加え、働きやすさ、そして効率よく精度の高い採用活動を行う力が必要であることが分かりました。特に、採用活動力については、人事や採用担当者の周辺だけですぐに高めることができるものであり、逆に、企業の価値がいくら高くても採用活動力が低ければいい人材を集め、選ぶことができません。
新しい採用の形や、採用に関するサービス・プラットフォームの登場も今後進んでいくと予想されます。柔軟な発想で、他社にはない採用力の強みを見つけるのが、これからの生存戦略なのかもしれません。
