日本的組織の問題点として、よく取り上げられる「セクショナリズム」。縦割り組織や縄張り意識に頭を悩ませる管理部門の方も多いのではないでしょうか。
風通しの良い、生産性の高い組織を目指すためには、「セクショナリズム」の原因を知り、それを解決していく必要があります。では、そもそも「セクショナリズム」とは何なのか。その問題点と解決法について、詳しくみていきましょう。

停滞した組織に蔓延する「セクショナリズム」とは
「セクショナリズム」とは、集団や組織において、各部門が自分たちが持つ権限や利害にこだわって外部からの干渉を排除し、部門間で協力せず、組織全体の利益や効率性を考えずに行動する状態のことを言います。官僚主義にありがちな「縄張り争い」「派閥主義」などがこれにあたります。
具体的には、「納期が遅れたのは営業部門が無理な納期で注文を取ってきたからで、製造部門の責任ではない」「商品の開発力がないから、営業しても売れない。売上が悪いのは、開発部の責任だ」など、自分の部署を守るため、他部署に責任を押し付ける様子をイメージするとわかりやすいでしょう。
また、セクショナリズムは、組織の各部門が、プロフェッショナルとして専門性を高めた結果とも言えます。各個人、部門が専門性を高めることは、悪いことではないはずです。しかし、それが行き過ぎると、自らの職務に専念するあまり、自分の職務以外のものに関心を持たず、専門外の仕事は避けようとする状態、「タコツボ化」に陥ってしまうのです。
セクショナリズムの種類
セクショナリズムは大きくわけて、「無関心型・非協力型」と「批判型・排他型」に分けられます
無関心型・非協力型セクショナリズム
無関心型は、「自分たちさえ良ければ良い」というように、自分たちが所属する部署・部門の中で起きた出来事にのみに意識があり、同じ会社でも自分たち以外で起こっていることに興味がありません。そのため、他部署であることを認知しておらず、変化も気にしない特徴があります。
非協力型は、「関係ない」という立場で、社内で連携が必要な部分で協力をしない特徴があります。また、他の部署でヘルプがあっても、手をかそうとしません。
無関心型・非協力型はともに、他の部署や社内に対して、直接的な悪影響を与えません。しかし、普段からコミュニケーションをとらないため、不測の事態に対する対応が遅れてしまったり、最良の判断を下せないおそれが出てきます。
批判型・排他型セクショナリズム
批判型は、他の部署で何か問題があり、それが自分たちにも影響が出そうな場合、「迷惑をかけられている」というな感情をいだき、嫌悪感を出してしまうことを指します。
排他型は、特定の部署や人を排除する考えを持ち、その方法を模索、または実行してしまいます。
批判型・排他型は、モチベーション低下や、実際に傷ついてしまう人ができるなど、周りにも影響が大きく出てしまいます。また、一方的に攻撃をしかけるだけでなく、相互批判や相互排他的な関係に陥る可能性も出てきてしまい、根本的な解決をしないかぎり、不毛な戦いを繰り返してしまいます。
セクショナリズムが組織にもたらす弊害とは?
このように、いきすぎたセクショナリズムは、組織に大きな弊害をもたらします。セクショナリズムがもたらす問題点は、次のものが考えられます。
過度な仲間意識・同調圧力が生じる
動物が群れになって力を持ち、自分の身を守るように、自分の所属する組織を盛り立てたい、守りたいという意識は人でも同じようにあります。
この意識が正しい方向に向けば良いのですが、時には仲間を守るためにミスを隠蔽したり、チームの意見に従わないものに対して攻撃し、従わせるといった過度な仲間意識、同調圧力が生じることがあります。
仲間の顔色を伺いながら仕事をすることになるので、新しいアイデアや現状の改善点の提案なども生まれず、組織が停滞する原因となります。
組織内での対立が生まれる
自分の部署を守るため、他部署を悪く言う、他部署に責任を押し付けるといった状態が生じます。
他部署に敵意を持ち、対立が起こるため、部署間の協力や意思疎通がうまくいかず、それが原因で取引先の信用を失う過失が起こったり、仕事の進行が滞ったりと、生産性も悪化し、組織全体の重大な損失を招くことになります。
視野が狭くなり、生産性が悪くなる
自分の部署内の利益を優先して考えるため、その行動によって組織全体がどうなるか、利益になるのかといった、俯瞰的な視点を持てなくなってしまいます。
視野が狭いうえに部署間の横の連携がないため、他の部署でどんなことをしているのかも分からず、重複した設備投資をしてしまうなど、組織全体で見たときの無駄が多くなります。
また、新たな知識やチャレンジを避ける意識が高まるため、新しいアイデアや新規事業なども生まれにくくなります。
ただし、適度なセクショナリズムは、組織内のチームの結束を高め、専門性を高めるというメリットもあります。
そもそも、日本の高度成長期は、組織にきちんと守られている「終身雇用」という安心感と、専門性を高めた職人的な個人の力を、管理しやすい組織という枠組みを作ることで効率的に活用できたことで、成長したとも言えるでしょう。
また、人が顔を合わせてお互いを理解しながら動けるのは、20人が限界と言われています。組織が大きくなるにつれ、意思疎通がスムーズに行える部署という単位を作るのは、決して間違いではないのです。
セクショナリズムは何が原因で起こるのか?
セクショナリズムは大企業だけの問題ではありません。社員数が数十人の中小企業でも、複数の部門に分かれるようになると、セクショナリズムは起こる可能性があるのです。
では、セクショナリズムの原因として、どんなことが考えられるのでしょうか。
1)仲間意識
利害関係が一致する仲間と群れを作り、それを守りたいというのは生き物の本能とも言えます。普段顔を突き合わせて同じ部署で働く仲間と、争わずうまくやっていきたいと思うのは、自然な感情でしょう。
一緒の目標に向かっていく仲間を大切にすることは、悪いことではありません。しかし、それがいきすぎてしまうと、外部からの干渉を嫌がる、仲間内で全て完結させてしまうなどの弊害が出てきてしまうのです。
2)縄張り意識
同じように、自分たちのテリトリーを守りたいという感情も自然な感情です。これは、その範囲が組織全体の利益となっていれば良いのですが、もっと狭い範囲、同じ会社の部署間でのお客の取り合いや、もっと狭い範囲になると、自分の仕事を囲い込み、他の人に教えないといった、仕事の属人化の問題にもつながっていきます。
これは、各部門ごとの目標数字を掲げ、目標達成を競わせるような施策を取っている組織で起こりやすく、目標数字達成に目が奪われ、自分の部署さえよければ他の部署を蹴落としても良いという考えに陥ってしまうのです。
3)視野の狭さ
部署の異動がなく、仕事もずっと同じことを続けているような場合、自分が関わっている仕事のごく狭い範囲でしか、物事をとらえられなくなってくる可能性があります。
経験が少なかったり、能力が低い従業員に特にありがちで、自分さえよければ良いと、全体の利益が見えなくなってしまうのです。
セクショナリズムの解決・対策方法は?
では、セクショナリズムを解決するには、どうすればよいのでしょうか。セクショナリズムの解決方法としては、「従業員の意識改革」「組織面・制度面からの対策」「経営理念の浸透」の三つがあります。
従業員の意識改革
狭まった視野を広げるため、そして他の部署への敵対心をなくすため、意識的に部署間の横のつながりを作るようにします。
例えば、部門横断のプロジェクトチームを作る、メンターを他部署の人にする、全社員が気軽に集えるカフェスペースを作る、社内SNSを作り他の人の顔が見えるようにする、などの施策があげられます。
他部署の人と関わりができることで、それまであった心の垣根がなくなり、視野も広がります。仲間の範囲が広がることで、部署内ではなく、組織全体の利益を考えられるようになります。
組織面・制度面からの対策
組織体制を見直し、新たな組織に組織変更することも、セクショナリズム防止の対策となります。組織を組み替えることによって人の移動がおき、担当範囲も変わっていくため、縄張り意識を持ちづらくなるのです。
また、同様に、ジョブローテーション制度を導入するのも縄張り意識の軽減に有効です。ただ、ジョブローテーション制度を成功させるには、誰でもその仕事がスムーズにこなせるよう、マニュアルを充実させたり、属人化している部分を見直すなどの準備が必要です。
さらに、各部署に目標数字の達成率を競わせるだけの評価基準はセクショナリズムを強める要因となるので、どれだけ組織全体の利益に貢献したか、他の部署との連携を行ったかなどの新たな評価基準を作ることも大切です。
経営理念の浸透
組織として20人を超えると、全ての人と顔を突き合わせて分かり合って動くことが難しくなってきます。そうした場合に大切なのが、「思い・価値観」を言語化し、共有することです。
会社は、社員に会社として進むべき方向、会社の判断基準を明確に示しましょう。それが明確に言語化され、社員に浸透することで、何かを判断するときにそこに立ち返ることができ、会社全体の方向性を認識し、会社全体の利益を各社員が考えることができるようになります。
セクショナリズムを認識することが、解決への第一歩
セクショナリズムによって組織にどんな問題が起こり、それをどうしたら解決できるのか。いくつかの解決策を提示してきましたが、実際に自分の組織でそれができるのか……と不安に思う方もいるでしょう。
しかし、実際に今、自分の組織にセクショナリズムを感じ、そこに問題を感じた時点で問題解決の第一歩は始まっています。
現状の組織にどんな問題点があるのか。それはどのような原因があるのか。所属する組織の目指す方向性を再確認し、社員が生き生きと、風通しよく、お互いを刺激しあいながら、生産性を高めていくためには何をすればよいのか。周りを巻き込みながら一緒に考え、試し、進んでいきましょう。
