限られた時間の中で、求職者のスキルや人柄を見極め採用の可否を決めるのはむずかしい判断が求められます。慎重に判断したい一方で、スピード感をもって採用しなければ求職者が他社に就職してしまうリスクも否定できません。
このような重大な決断が迫られる中途採用において、判断基準のひとつになるのがリファレンスチェックです。この記事ではリファレンスチェックの基礎知識について解説します。

リファレンスチェックとは
リファレンスチェックとは、企業が中途採用を実施する中で、求職者の前職の実績・勤務状況・人柄について関係者に確認する調査のことです。英語ではReference Checkと表記し、身元紹介という意味で使われます。外資系企業では一般的ですが、近年は日本でも役員など、重要な役職を採用する場合やエンジニア採用で実施する企業が増えつつあります。
主に電話で行われていましたが、最近は、書面や面談、ZOOMや専用ツールなどオンライン上で実施されることも増えてきました。チェックは企業が直接行うほか、外部に委託するケースもあります。
基本的にリファレンスチェックは、求職者の了承を得てから実施されます。行うタイミングは、書類選考段階〜内定後まで企業によってさまざま。しかし多くの企業では内定直前に最終チェックとして実施することが多いようです。
前職調査との違い
リファレンスチェックと類似するものとして「前職調査」がありますが、これはチェック内容が異なります。
リファレンスチェックで確認されるのは、主に前職での実績・勤務状況・コミュニケーションスキルなどです。
一方前職調査では、前職の経歴に詐称がないか、金銭トラブルがないかなどが確認されます。
2015年に個人情報保護法が厳格化したことで、前職調査で実施される項目についての情報収集はむずかしくなりました。そのため前職調査をする企業は減少しているのが現状です。
リファレンスチェックを行う5つの目的
リファレンスチェックを企業が実施する目的は主に以下の5つです。
1.人物像のミスマッチを防ぎ採用リスクを減らす
自社が求める人物像と異なる求職者を採用した場合、自社の水準まで引き上げるために大きな教育コストがかかる可能性があります。また、求職者自身も入社後にパフォーマンスを発揮できないなど、お互いにとってマイナスな結果につながります。
リファレンスチェックを実施することで、このようなリスクを下げることが可能です。求職者の実績や求める働き方、社風があっているかなどを、より正確に判断する材料になります。
2.普段の人柄や働き方の確認
ほとんどの場合、面接では数時間程度しか求職者と話すことができず、採用担当者が得られる情報は限られています。特にチームでの仕事の進め方やコミュニケーションの取り方、残業の有無、休日出勤の頻度などは面接で確認できないこともあるでしょう。
このような情報について、リファレンスチェックを実施することで第三者から客観的な回答が得られます。求職者の人柄などもより詳しく知ることができるでしょう。
3.履歴書と事実を照合
リファレンスチェックを実施することで、求職者の経歴や学歴詐称など悪質なケースを未然に防ぐ効果も期待できます。
4.求職者のスキルや経験のギャップを把握する
たとえば、英語でコミュニケーションがとれるといっても、そのレベルは面接だけで把握するのはむずかしいものです。日常会話でコミュニケーションはとれるけれど、実務で英語を使ったことはないというケースも考えられます。
また、メールではコミュニケーションがとれるけれどディスカッションの経験はないケースも想定できます。このようなスキルや経験について、求職者の細かい情報を得られます。
5.休職など応募者が申告していない事項を確認
求職者が前職で何か問題を起こしていなかったか、休職したことがあるか、などは応募書類や面接ではなかなか確認できません。しかし採用する企業にとっては事前に知っておきたい情報でしょう。
このような情報もリファレンスチェックを通じて、確認することも可能です。
リファレンスチェックの流れ
リファレンスチェックを行うには、以下2つのケースがあります。
・求職者がリファレンス先(推薦者)を紹介するケース
・企業または外部業者がリファレンス先を探すケース
ここからはそれぞれのケースの流れについて解説します。
求職者がリファレンスの依頼先(推薦者)を紹介するケース
求職者がリファレンス先を紹介するケースについての流れをみていきましょう。
1.企業の採用担当者が求職者にリファレンスチェック実施の説明をする
選考フローの中で、採用担当者は求職者にリファレンスチェック実施の説明をし、承諾をもらいましょう。承諾してもらう具体例は以下のとおりです。
・前職の方から求職者の情報をいただく
・リファレンスチェック実施の目的
・求職者からリファレンス先(推薦者)に対して、リファレンスチェックについて伝え同意を得ておくこと など
2.リファレンス先の連絡先を教えてもらう
求職者がリファレンスチェックを承諾したら、リファレンス先の連絡先を教えてもらいます。
3.リファレンス先に連絡し、日程調整をする
リファレンス先の方も日中仕事をしているケースが多いため、急な対応はむずかしいものです。相手と日程調整をしスケジュールを決めましょう。
4.採用担当者はリファレンスチェックしたい質問を準備しておく
求職者について特に確認したいことをピックアップしておき、質問内容を準備しておきます。
5.リファレンスチェックを実施する
予定の日時にリファレンスチェックを実施します。
6.情報をレポートにまとめる
リファレンスチェックで実施した内容をテキストなどでまとめます。レポートにはリファレンス先の情報、質問内容、回答、総評を記載し採用の判断材料にします。
企業または外部業者がリファレンス先を探すケース
ここからは企業の担当者または外部業者が、リファレンス先を探すケースについてみていきましょう。
1.求職者にリファレンスチェック実施の説明をする
求職者にリファレンス先を紹介してもらうケースと同じく、選考フローの中でリファレンスチェック実施の説明をし、承諾をもらいましょう。承諾してもらう具体例は以下のとおりです。
・前職の方から求職者の情報をいただく
・リファレンスチェック実施の目的
など
2.リファレンス先を探すため連絡する
リファレンス先は企業の担当者が探す、もしくは外部に委託する場合は外部の業者が探します。企業に直接電話したり、WEBサイトやSNSなどで探していきます。
リファレンス先が決まったら日程調整をしましょう。
3.リファレンスチェックしたい質問を準備しておく
求職者についてリファレンスチェックしたい質問を準備します。外部業者に依頼している場合は業者が準備していることが多く、その場合、担当者は追加で確認したい質問を準備しましょう。
4.リファレンスチェックを実施する
予定の日時になったらリファレンスチェックを実施します。
5.レポートにまとめる
リファレンスチェックが完了したら、レポートにまとめます。外部業者へ委託している場合は、レポートまで作成してもらえるでしょう。完成したレポートは採用関係者へ共有し、採用の判断材料として活用します。
【企業担当者向け】リファレンスチェック実施のポイント
リファレンスチェックを実施するには、いくつか気をつけなければならないポイントがあります。リファレンスチェックを導入する前に、ポイントを把握しておきましょう。
個人情報保護法に抵触に注意
2015年に「個人情報保護に関する法律」が改正されました。これにより求職者の個人情報の取り扱いにはより注意が必要になっています。
第2条第3項に定められている「要配慮個人情報」は特に注意が必要で、主に以下の項目の他、求職者本人が差別・偏見といった不利益を生じないように特別な配慮が必要な個人情報があります。
・人種
・信条
・社会的身分
・病歴
・犯罪の経歴
・犯罪により害を被った事実
また、第17条第2項に規定されている場合を除いて、要配慮個人情報の取得には求職者本人の同意が必要です。採用活動は除外に該当しないため、本人の同意なく個人情報を取得することは不可です。
リファレンス先から断られた場合を想定しておく
仕事の都合などで、リファレンス先からアポイントを拒否されるケースも考えられます。このような場合に備え、求職者からリファレンス先を複数紹介してもらいましょう。
また時間の都合上、「電話やZOOMなどでのリファレンスチェックには協力できない」というケースも少なくありません。
このような場合にはオンラインアンケート形式での質問のやりとりが行えるサービスもあります。相手がアンケート形式なら答えられるという場合には、活用してみましょう。
リファレンスチェックの結果だけを鵜呑みにしない
求職者がリファレンス先を紹介する場合には、よい回答をしてくれそうな人を紹介する可能性が高いでしょう。
また、リファレンス先が必ずしも求職者のことを正直に回答してくれるとは限りません。つまり得られた情報を鵜呑みにして採用の合否を判断するのも、リスクがあるといえます。
そのためリファレンスチェックは、あくまで面接での評価を第三者からの回答と照らし合わせて確認する、という認識でいることが大切です。
リファレンスチェック後の不採用は慎重に判断する
リファレンスチェックは繊細な個人情報に関わるため、実施後に不採用をだすと企業のイメージダウンにつながるリスクがあります。そのためリファレンスチェックは最終選考前の求職者など、採用見込みの高い求職者に対して、採用後にパフォーマンスを発揮してもらうための関わり方の参考にしたい、などというスタンスで実施するとよいでしょう。
また、企業は内定を出した時点で、就業開始日よりも前であっても従業員とみなされるという労働契約(始期付解約権留保付労働契約)が成立したとみなされます。
たとえ、リファレンスチェック後に経歴詐称といった深刻なケースが発覚しても、内定を出したあとであれば、内定取り消しが認められるとは限りません。
そのため、リファレンスチェックは、内定を出す前段階で実施するのがよいでしょう。
リファレンスチェックの具体的な質問例
リファレンス先も仕事をしていることが多いため、短時間で知りたい情報を集めるには事前準備が大切です。
ここからはリファレンスチェックの具体的な質問例をご紹介します。
経歴や仕事内容についての質問
・求職者の勤務期間は○年○月〜○年○月ですか?
・役職は○○ですか?
・保有資格を教えてください
・仕事内容は○○ですか?
勤務態度や人間関係、コミュニケーションスキルについての質問
・一緒にお仕事をされた期間はどれくらいですか?
・周囲との関係は良好でしたか?
・遅刻や欠勤について教えてください
・上司へのホウレンソウはできていましたか?
・部下への教育の経験はありますか?
・求職者とどのような関係でしたか?
・また一緒に働きたいと思いますか?
実績・強み・仕事のスタンス・スキルについての質問
・○年に○○の実績をあげられていますか?
・主な実績を教えてください
・問題が起きたとき、リーダーシップを感じましたか?
・個人プレーとチームプレー、どちらがむいていると感じますか?
・意思決定は得意でしたか?
・仕事上で周囲によい影響を与えていましたか?具体例を教えてください
・今後どのような点を克服すればよいと思いますか?
リファレンスチェックサービス
最近ではオンラインでのリファレンスチェックを支援するサービスが増えています。代表的なリファレンスチェックサービスをご紹介します。
実績数最多! | back check
出典:back check
オンラインリファレンスチェックサービスの中では、年間実施数最多(TSR調べ:2020年4月〜2021年3月)のback check。
リファレンスチェックレポートを平均3日で取得可能で、導入の効果検証や採用後のオンボーディングまで利用範囲の拡張も強みのサービスです。
採用コンサルのフィードバック付き | parame
出典:parame
進捗通知やリマインド機能を備え、採用担当者の工数を削減できるのが強みです。
また、parame独自のアルゴリズムで求職者の性格傾向を分析し、採用コンサルタントのフォードバック付き結果レポートが取得できます。
低価格で利用しやすい| リファレンス・レター
出典:リファレンス・レター
質問が全部で100以上あり、職種ごとのテンプレートから自由に選ぶことが可能。また、質問は追加・編集することもできます。
初期費用や追加費用がなく、月額1万円から使い放題という料金が大きな特徴です。
大手企業が運営 | ASHIATO
出典:ASHIATO
大手総合求人サービスのエン・ジャパンが運営するサービス。独自のアンケートから求職者の多面的な情報を取得でき、面接アドバイスもレポートとして取得できるのが特徴です。
反社チェックも同時にできる | MiKi WaMe Point
出典:MiKi WaMe Point
LINE、メッセンジャー、Chatwork、Slackなどさまざまなツールからリファレンスチェックを進行でき、担当者の負担を軽減できます。
また、スタンダードプランではリファレンスチェックと同時に反社チェックとして新聞やWEBを検察閲覧できるのが大きな特徴です。
リファレンスチェックを活用して採用を成功させよう
企業はリファレンスチェックを通して、求職者をより多角的な視点で判断することが可能です。書類選考や面接では高評価だった求職者も、実際に入社してみると人間関係や環境によってパフォーマンスを発揮できないケースもあります。
リファレンスチェックは、求職者がどのような環境・仕事内容・働き方を求めていて、どうすればモチベーションが上がるのかを事前に把握する手段になるでしょう。
採用の精度をより向上させたい企業は、自社の選考ステップにリファレンスチェックを取り入れてみてはいかがでしょうか。
