ワーク・ライフ・バランスを重視した働き方改革が進められている今、在宅勤務に注目が集まっています。在宅勤務は育児や介護の時間、また自己啓発や趣味の時間の増加させ、従業員の生活にゆとりをもたせる効果が期待されています。
今回の記事では在宅勤務を導入する場合、人事・労務・総務の方が準備するべき内容をお伝えしていきます。
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在宅勤務とは
在宅勤務とは、勤務する会社のオフィスではなく、自宅で働くことをいいます。
従業員にとっての在宅勤務のメリットとしては以下のようなものがあります。
・育児や家事、家族と過ごす時間や自己啓発の時間が増え、生活にゆとりをもてる
・周りからの影響が少ないため、集中力が増し、仕事の効率が良くなる
・自律的、自己管理的な働き方を実現できるようになった
また、企業側としても以下のようなメリットがあります。
・生産性の向上が期待できる
・人材の確保、離職防止の効果がある
・非常時にも業務が継続できる
在宅勤務を利用することで約半数の人が家族と過ごす時間や、育児にかける時間が1時間以上増加したとする総務省の調査結果もあります。在宅勤務によって従業員のワーク・ライフ・バランスが維持されやすくなっているといえるでしょう。企業にとっても「働き方改革」をすすめることができ、社会にとってもよい影響があると言われています。
逆に、在宅勤務を導入しない理由は「適した仕事がないから」とする企業がおよそ7割を占めると総務省の調べで分かっています。
他にもセキュリティの面で情報漏洩を心配する声や、社内のコミュニケーション不足につながるから、など業務への影響を心配する回答が多く見られるようです。同じような懸念を抱える企業も多いかもしれません。ではそのような問題を解消するためにどのような準備をしていくべきなのでしょうか。
参照:情報通信統計データベース|テレワークの動向と課題について|総務省
在宅勤務の土台作りですべきこと
上述の通り、在宅勤務の導入に関して、いくつかの課題があります。課題の大きな部分はICTによる解決策が示されていますが、ICTを使わなくても解決できるものもあります。
土台作りとしてまず必要なことは、下記の3点であると考えられます。
・就業規則の改定や整備
・インターネットセキュリティ環境の整備
・勤怠システムやテレビ電話会議などのインフラの整備
就業規則の改定や整備
まず就業規則の改定や整備です。業務上必要な情報の持ち出しのルールやパソコン貸出のルールなど、ICTを活用するために改定すべき規則も存在するのではないでしょうか。
また顔を合わせてコミュニケーションを取るべきと考えるのであれば、何日かに1度は出社することなどを定めてもいいかもしれません。
実際、アメリカの世論調査を行う会社の調べで、在宅勤務の期間が長くなるとオフィス勤務の従業員と生産性が変わらなくなるという結果もあるようです。
インターネットセキュリティ環境の整備
次にインターネットセキュリティ環境の整備です。在宅勤務の多くは自宅のインターネット回線を使って仕事をするため、情報漏洩のリスクが高まる可能性があります。現在使っているセキュリティ環境を見直し、よりレベルの高いセキュリティシステムを取り入れる必要があるでしょう。
勤怠システムやテレビ電話会議などのインフラの整備
最後に勤怠システムやテレビ電話会議などのインフラの整備です。社内コミュニケーションを心配する声も多く聞かれますので、テレビ電話会議等のインターネットを使ったコミュニケーションツールを取り入れる準備が必要です。勤怠システムについてはこのあとくわしく説明していきます。
簡単に3つにまとめてられてしまいますが、内容的にこれは大仕事だぞ…と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし在宅勤務は導入の方法次第で、今よりも業務効率があがる可能性を大いに秘めているといえるでしょう。
先ほどあげたアメリカでの調査結果では、毎日オフィスに通う人よりも週に3〜4日の在宅勤務をする人のほうが「集中できている」と感じる人が多いという結果が出ています。
順を追って導入を進めていけばまったく実現不可能なものではありませんので、一つひとつ解決していきましょう。
在宅勤務の労働時間の管理方法
在宅勤務を導入しようとしたとき、一番のハードルになるのが労働時間の管理方法です。
基本的には通常勤務と同様に、勤務開始時間と終了時間の管理と集計が必要となります。そして在籍、離席確認ができるとさらによいです。また、もちろん在宅の場合にも、基本的に週40時間を超えた場合は残業代を支払う必要があります。
一番簡単な管理方法は、メールや電話で始業・終業の報告を行うこと。ですが、長期間の在宅勤務や在宅勤務者が多く所属している部署の管理者には負担が大きくなりがちです。最小限の負担で、業務に必要な管理をするにはどのようにすればよいのでしょうか?
導入に多少の選定や手間はかかりますが、やはりICTを活用する方法が一番現実的な方法といえます。ICTを活用したクラウド勤怠管理システムには以下のようなものがあります。
・ビジネスチャットのプレゼンス機能やカメラ機能を利用するもの
・パソコンの電源をいれると自動で勤務時間を計算してくれるもの
・パソコン、タブレット、スマートフォンから登録可能なタイムカード
その他にもスケジュール管理ツールや情報共有ツールなどを使って、今どんな仕事に従事しているのかを見える化することも勤務状況の管理としては効果的です。これらすべてがまとまっているサービスもあるようなので、検討してみてはいかがでしょうか。
それぞれ、会社にあったやり方やシステムを選び、勤怠管理のインフラを整えていきましょう。
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在宅勤務に「事業場外労働によるみなし労働時間制」は適用できるか?
前章の労働時間の管理の話題から、「みなし労働時間制」を思い浮かべた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
みなし労働時間制はその名のとおり、実際の労働時間に関わらず、あらかじめ定めておいた時間働いたとみなす制度です。会社の外で仕事をしており、労働時間の計算が困難な場合などに適用されます。
なお、事業場外労働によるみなし労働時間制については、労働基準法第38条の2に記載されています。
では在宅勤務で「事業場外労働によるみなし労働時間制」を適用できるのでしょうか。答えはイエスです。ただし一定の要件を満たす必要があります。
在宅勤務でみなし労働時間制を適用するために必要な3つの要件
在宅勤務でみなし労働時間制を適用するために必要なのは以下の3条件です。
当該業務が私生活を営む自宅で行われていること
情報通信機器が使用者の指示により常時通信可能な状態になっていないこと
当該業務が、上司等管理者の具体的な指示にもとづいておこなわれていないこと
もちろん在宅勤務なので、1つ目は特別な場合を除いてクリアできます。問題は2つ目と3つ目。
2つ目について、いまは携帯電話やスマートフォンの普及により、電話はもちろん、インターネットですらほとんどの場所でつながる時代です。なので、なかなか条件を満たしにくいと考えられます。
ただし、電源を切ったり、通信機器から離れたりなどが自由に行える場合はこれにはあたりません。在宅勤務のルールとして必ず応答できる状態にしておくこと、などと定めている場合に限ります。
そして3つ目については、通常の場合、ほとんどの仕事は上司などからの指示にもとづいて行われていることと思います。なので、こちらも条件が満たせないことが多いでしょう。
前述のように、労働時間の管理を実施していくのであれば、ほとんどの在宅勤務者が適用されることはないと考えていいのではないでしょうか。
それでも仕事内容などによっては、適用できることもあるかもしれません。その場合は、労働時間を事前に社員側とよく話し合い、のちのちトラブルにならないように注意が必要です。
参照:労務管理QA集_0331.indd
在宅勤務時の交通費について
在宅勤務を導入する場合、在宅勤務中の交通費についてもきちんと定めておく必要があります。
多くの場合は、「出社日数が多い場合は定期代を支給」、「少ない場合は出社した日数分の交通費を支給」としているようです。
たとえば平均して週4日以上在宅勤務をした場合、定期代等の交通費の支給をせず、外出等の交通費請求と同じ流れで請求する、など。また、半年に一度まとめて定期代を支給する場合や、6ヶ月定期を月割りにして支給している場合もあるかと思います。
その場合は、一回支給した分をどのように算定しなおすのかどうか、など。細かいようですが、こういったことも決めておかないとのちのちトラブルになりかねません。
会社によって計算方法や支給方法も異なりますので、各自の算定方法に合わせて事前にシミュレーションしてルールを決めておきましょう。
また在宅勤務を実施していることを、交通費支給をおこなう部署が把握していないと、あとで大変な負担になります。長期の在宅勤務を決めた場合は、事前に担当部署宛に申請書を提出するなどのルールを定めておくとよいでしょう。
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在宅勤務時の労働災害について
在宅勤務時の労働災害については、出社時と同様に、勤務に付随するものであれば認定することが可能です。労働災害は「業務遂行性」「業務起因性」の2つの判断基準から認定されます。
「業務遂行性」とは?
業務遂行性とは、会社や上司の指示を受けて業務を行うことです。
在宅勤務は上司の管理から離れて業務を行っていますが、事業主の支配のもと業務を遂行していることになりますので、「業務遂行」の状態にあると認められます。
「業務起因性」とは?
業務起因性は、業務と災害との間に因果関係があること。たとえば業務に必要な資料を取ろうとして腰を痛めた、などは業務に関連しているので、業務起因性が認定されます。
これはどの労働災害にもいえることですが、業務上であることが判断の大きなポイントとなります。ですので、私的行為が原因の場合は対象になりません。
自宅という場所柄、労働時間であっても私的行為が行われやすく、災害発生時の第三者の目撃証言がないことも多いので、立証が難しくなるケースもあります。
在宅勤務時のルールとして、業務時間と私的時間の区分をきちんとわけること、などを事前に定めておくとよいでしょう。
また、労働時間の管理の話にもつながりますが、定時連絡などを実施することで、万が一災害が起きた場合に、きちんと立証できる可能性が高まるかもしれません。
「在宅勤務」という選択肢がもたらすもの
ワーク・ライフ・バランスを重視した施策の一環として、在宅勤務をはじめとした多様な働き方が求められる時代となってきています。
今回お伝えしたように、在宅勤務を取り入れるためにはいくつかの準備が必要となります。
もしかすると、在宅勤務を取り入れること自体に抵抗がある方もまだ多いかもしれません。
しかし「在宅勤務」という選択ができる企業は、働く人に大きな魅力として映ります。在宅勤務が可能なインフラを整えることで、よい人材が集まり、また育てた人材の流出を防ぐことができるでしょう。
インフラが整備されていれば、基本はオフィス勤務だとしても、何かあったときにスポット的に活用することもできます。近年多くなっている台風などの自然災害による通勤障害のストレスや、インフルエンザなどの感染症流行期に社員を守る一助ともなります。さらに非常時でも事業を継続でき、早期回復も期待できるでしょう。
在宅勤務が難しい職種はもちろんあります。ただ、在宅勤務を取り入れられない業界はない、と言われているいま。まずは社内にそれぞれどんな業務があるのか洗い出す「業務の棚卸し」からはじめてみましょう。そして「在宅勤務できる仕事」「条件を整えればできる仕事」「絶対にできない仕事」に仕分けすることで、いままで見落としていた課題も見えてくるかもしれません。
在宅勤務実施への第一歩は、「業務改善の機会」と捉えると、やってみて損にはならないのではないでしょうか。
