社会保険の加入条件は、個々の雇用形態や事業規模などによって異なっています。例えば、従業員の勤務形態がパートから正社員になったとき、中途の従業員が入社したとき、従業員数が増えて加入条件が変更になったときなど、企業の担当者は状況に応じて加入条件を確認し、的確に対応しなくてはなりません。
本記事では、従業員の雇用形態に基づいた社会保険の加入条件を中心に、社会保険の種類なども解説していきます。
社会保険とは?
社会保険とは、公的な費用負担によって、被保険者および被扶養者が、失業や病気の罹患、介護や高齢、勤務時間中の災害などといった万が一の事態に備えるための制度のことを指します。
そして、社会保険とは、労災保険、雇用保険、介護保険、医療保険、個人年金保険の総称のことです。従業員の年齢や、企業の規模によって、条件が異なっています。
関連記事
社会保険とは?2022年から適応範囲が拡大する改正内容を理解しよう!
社会保険制度の種類
社会保険制度には、以下の5つの種類があります。ここでは、各保険の詳細について解説していきましょう。
①労災保険
労災保険とは、業務上の事由もしくは通勤途中で負傷した、病に罹患した、障害者になった、命を落としたといった従業員とその遺族を守る目的として、保険の給付をする制度です。
なお、労災保険には、業務災害と通勤災害の2つあります。詳しく触れていきましょう。
業務災害
業務災害とは、業務中に怪我をした、病気を患った、身体に障害を負った、死亡したことを指しています。業務災害の主な事例については、以下のとおり。
・バックヤードを整理していたら、震度4の地震に遭い、上の棚から荷物が落ちて足に障害を負った
・社用車で取引先に行く途中で交通事故に遭って怪我ををした
・勤務時間中に社内の階段で転倒し、大怪我をした
・上長から人格を否定するパワハラ発言が頻繁にあり、うつ状態になり、クリニックでうつ病と診断された
通勤災害
通勤災害とは、自宅から職場の通勤途中で、事故やケガ、病気に罹患、死亡した場合に適用されるケースがあります。主な事例は、以下のとおりです。
・通勤途中で自動車事故に遭い、全治4週間の怪我をして入院した
・通勤時に電車で暴行を受け、大怪我をした
通勤災害で紛らわしいのが、プライベートで往復のルート外で怪我や病気をしたことです。この場合、労働保険の労働時間の対象外となります。
②雇用保険
雇用保険とは、被保険者である従業員が、退職もしくは解雇などで一時離職した際、主として失業中の生活と雇用の安定が図れるよう、保険給付がされる制度です。
失業中の生活面のサポート以外にも、教育訓練給付金や育児休業給付金、介護休業給付金といった給付、雇用機会の増大、能力開発などの目的で使われることもあります。
なお、雇用保険料の支払いの仕組みは、被保険者(=従業員)と事業主の双方で負担するのが基本。被保険者分の雇用保険料を給与から控除する形となっています。事業主の雇用保険支払いは、被保険者分の雇用保険料と事業主負担分の雇用保険料を合算して、1年分に相当する保険料をまとめて支払います。
③介護保険
介護保険とは、2000年4月に制定された制度であり、日々の生活において介護を要する人たちを支える介護サービスを給付する保険です。
介護保険料の支払いに関しては、被保険者(=従業員)の年齢によって決定。39歳までは保険料の支払いの義務がありませんが、40歳の誕生月から支払いの義務が科されます。
支払いの対象となるのは、1号被保険者である従業員が、要介護者もしくは要支援者として認定された場合です。ほかにも2号被保険者の従業員においては、特定の疾病に罹患した場合、介護保険の給付対象となるケースもあります。企業の担当者は、従業員の家庭環境と健康状況を必ず確認し、適用の有無について考えておきましょう。
保険料は1号被保険者なら年金からの天引き、2号被保険者であれば、健康保険料と同じ形であり、被保険者と事業主が折半で、被保険者分の保険料を給与から控除します。
④医療保険
医療保険とは、相互扶助の精神をベースに、病気や怪我に備えて予め保険料を出し合い、実際に診療を受けた際、医療費の支払いに充てる仕組みです。国内でも生命保険会社を中心に数えきれないほどの医療保険がラインナップされているので、自身の健康状態や既往歴、年齢などをチェックし、最適な医療保険を探し、契約する形となっています。
また、医療費は基本的に1~3割の支払いとなり、残りの医療費は、従業員が加入している医療保険から支払われる流れとなります。
⑤個人年金保険
個人年金保険とは、60歳や65歳などといった一定の年齢に到達するまで「保険料」という名目でお金を積み立て、一定の年齢に到達した後は積立金をベースに「年金」が給付される流れとなる保険のことです。所得控除の対象に該当します。こちらの保険の加入は、あくまでも任意です。老後の資金に余裕を持たせたいという層が加入するケースもよくあります。
個人年金保険は、毎月の支払いです。支払方法は、口座引き落としまたはクレジットカードのいずれかです。貯金する感覚で資金を地道にコツコツと蓄えることができます。
ただし、銀行の普通預金のように簡単に引き出せないので、その点について注意が必要です。万が一、途中解約となると解約払戻金が発生し、実際に支払いに充てた保険料よりもキャッシュバック額が低くなります。
正規雇用の各社会保険の加入条件
正規雇用の社会保険の加入条件は、所定労働時間や・勤務先・事業規模などで加入条件が異なっています。ほかにも各保険の条件は、強制加入と任意加入の2つを設けています。詳細については、次のとおりです。
労災保険
労災保険の加入条件の条件は、以下のとおりです。
強制加入
・原則として、労災保険を常時使用する従業員が1人でもいる事業所
※法人および個人事業を問わない、国の直轄事業および官公庁の事業を除く。
任意加入
・個人経営の農業において労災保険を常時使用する従業員が5人未満
・個人経営の林業において労災保険を常時使用する従業員がおらず、年間の従業員数がのべ300人未満
・個人経営の漁業において労災保険を常時使用する従業員が5人未満
任意加入する方法
事業所で労災保険の常時使用する従業員(=雇用保険加入の条件を満たす者)の過半数
の同意があれば、事業主が加入申請をする流れとなります。
労災保険の特別加入の条件
労災保険は、従業員の心身を守る目的として設けている制度ではありますが、従業員以外にも生活の実態や災害の発生などに考慮する目的として、特別加入制度を設けています。
以下の人が対象です。
・中小事業主
・一人親方
・特定作業従事者
・海外派遣者
雇用保険
雇用保険における加入条件の詳細は、以下のとおりです。
強制加入
・原則として、雇用保険を常時使用する従業員が1人でもいる事業所
※ただし、雇用保険の加入条件を満たす従業員がいない事業所は除く
任意加入
・個人経営の農業において労災保険を常時使用する従業員が5人未満
・個人経営の林業において労災保険を常時使用する従業員がおらず、年間の従業員数がのべ300人未満
・個人経営の漁業において労災保険を常時使用する従業員が5人未満
健康保険・厚生年金保険
健康保険および厚生年金保険の加入の詳細は、以下のとおりです。
強制加入
・法人事業所において、健康保険および厚生年金保険従業員を使用
※国・地方公共団体・事業主だけの事業所を含む
・個人事業所で常時使用する従業員が5人以上
※農林水産業・一部サービス業・士業・宗教などを除く
任意加入
・個人事業所において、健康保険および厚生年金保険を常時使用する従業員が5人未満
※農林水産業・一部サービス業・士業・宗教などを含む
非正規雇用の社会保険の加入条件
2016年と2017年に社会保険の加入対象が拡充されたことによって、これまでアルバイトやパートといった非正規社員も社会保険加入ができるようになりました。
非正規雇用の社会保険の加入は、雇用状況などによって異なるので、該当者もいれば、該当しない方もいます。そして、条件については事業所に規模によって異なります。詳細は、以下のとおりです。
従業員501人以上の事業所
常勤の従業員501人以上が在籍する事業所では、次の4つのすべての条件を満たす場合、加入対象となります。
・1週間あたりの所定の労働時間が20時間以上である
・月収が88,000円以上であること
・勤務期間が1年以上の見込みがある
・学生ではない
従業員500人以下の事業所
常勤の従業員500人以下が在籍する事業所における、社会保険の加入条件は、以下のとおり。
・前述の従業員501人以上の事業所の4つの条件を満たしている
・労使の合意がある→従業員の過半数を超えた同意が得られたら加入対象となる
もし、自社の非正規雇用の従業員で、これらの条件に該当しているケースがあるかもしれないという場合、雇用契約書や給与明細書などの控えでチェックしておくと良いでしょう。
2022年10月から段階的に社会保険の適用範囲が拡大
2022年10月より、社会保険の適用範囲が段階的に拡大する運びとなります。変更内容を下記の表にまとめました。
要件
|
2016年10月~(現行)
|
2022年10月~
(1回目の改正)
|
2024年10月~
(2回目の改正)
|
事業所の規模 |
常時501人以上 |
常時101人以上 |
常時51人以上 |
勤務期間 |
継続して1年以上使用される見込みがある |
継続して2カ月以上の雇用見込みがある |
継続して2カ月以上の雇用見込みがある |
なお、労働時間「週の所定労働時間が20時間以上」、賃金「月額88,000円以上」、適用除外対象「学生ではないこと」に関しては、変更がありません。
関連記事
社会保険とは?2022年から適応範囲が拡大する改正内容を理解しよう!
社会保険の中身と一緒に加入条件も理解しておこう
社会保険の加入は、企業の規模(※従業員数)や職種、配偶者の扶養の有無などで内容が異なっています。企業の担当者は、自社の規模などを考えた上で、問い合わせがあっても、すぐ対応できるよう、体制を整えることが肝心です。
