2018年に日本語版が発売され、瞬く間にマネジメント分野の書籍として話題となった『ティール組織』。新たな組織モデルとして注目を浴びている「ティール組織」とは、いったいどんなものなのでしょうか?これまでのマネジメント手法を覆す、その考え方とは?
ビジネスマンなら知っておきたい「ティール組織」について、ざっくりまとめました。

新たな組織モデル「ティール組織」とは
次世代の組織モデルとして注目を浴びている「ティール組織」は、フレデリック・ラルーが書籍『ティール組織(原著:Reinventing Organizations)』で提示した新たな組織モデルです。
従来の組織構造を支えていた「上下関係」「予算設定」「マネジメント」などの弊害を取り上げ、それらのない、権限や意思決定が個人に移譲され、その集合体によって組織の発展がもたらされる新たな組織のことを言います。
組織の五段階とは?
ラルーは、アメリカの現代思想家ケン・ウィルバーが提唱したインテグラル理論における「意識のスペクトラム」に基づき、組織を5段階に分類し、各段階の組織を色で示しました。その第5段階が「ティール組織」です。
1)Red組織(衝動型組織)
オオカミの群れのように、特定の個人の力による支配によって成り立つ組織であり、力の強さが重要となります。その組織がどう生き抜いていくかという短期的思考となりやすく、中長期的な視点は持ちにくいという欠点があります。
2)Amber組織(順応型組織)
軍隊のように、階層や組織図が明確に定められたヒエラルキー型の組織です。上の階層の人が意思決定を行い、下の階層の人が実行するという役割分担が明確になされ、Red組織よりも多人数をまとめることができます。また、長期的な視点で動くことも可能ですが、ルールや他の人からの評価に縛られるため、変化や競争は起こりにくい組織となります。
3)Orange組織(達成型組織)
ヒエラルキー型は残りながらも、それは固定されたものではなく、個人の実力や成果によって上の階層に上がることも可能な柔軟性を持っている組織です。組織の掲げた目標を達成するために各個人が働き、ポジションを上がっていく、「達成型組織」とも言います。
変化や競争も起きやすく、中長期的な計画を実現していくことも可能ですが、数値的な目標達成に追われ、人が機械のようにひたすら働くことを強いられる組織とも言えます。
4)Green組織(多元型組織)
社長や従業員などのヒエラルキーは残りながらも、Orange組織のように機械的な働き方ではなく、各個人の多様性が尊重され、人間らしく主体性をもって働くことを重視した、家族のような組織となります。
各個人がある程度の裁量を持ち、ボトムアップ型の意思決定を行います。この組織ではその組織の存在目的や価値観を共有し、各個人がその達成に向けて動きます。
5)Teal組織(進化型組織)
Green組織のように社長と従業員といった階級はなく、組織を一つの生命体ととらえ、メンバーは生命体である「組織の(進化の)目的」を実現するための方法を自ら考え、そこに向かって働き、必要があれば協力しあいます。
各個人に意思決定権があり、それぞれが組織の目的を理解し、自分の内面と向き合って決めた行動を行うため、人間らしく、主体的に、責任感をもって働くことができる組織となります。
ティール組織の「3つの要素」
ティール組織を実現させるためには、次の三つの要素が必要となります。
1)セルフマネジメント
ティール組織においては、誰かから指示されるのではなく、メンバー各個人が主体性を持ち、自分で意思決定を行って自主的に動くことが必要となります。各個人が意思決定をするために、それに必要な組織の情報がオープンになっていること、必要があれば各メンバーの助言や協力を仰げる体制作りが必要となります。
2)ホールネス
ティール組織に必要な「ホールネス(全体性)」は、その人の全てをその組織が受け入れてくれるという安心感、個性や個人の力を抑えることなく発揮できる状態を作ることです。
現在の会社組織では、誰しも大なり小なり「仕事用の自分」の仮面をつけて働いています。上司に悪く思われたくない、業務を円滑にまわしていきたいなどの建前のために、多くの労力が使われているのです。
その人の全てを組織が容認することで、組織の目的以外に使われていたそうした労力が不要になります。各個人が組織の目的に向かって100%の力を出せるようになり、結果として組織の発展につながります。
3)存在目的
ティール組織において、「組織」は株主や社長のものではなく、一つの生命体としてとらえられています。そしてその目的はこれまでの組織形態のように、組織の拡大や利益ではなく、「どうありたいか」というその組織の使命、存在意義が求められます。
この「存在目的」を各メンバーが理解し、それを元に意思決定を行い、自主的に動いていくため、その「存在意義」の共有、理解をきちんとメンバー間で行っていく必要があります。また、その目的は不変ではなく、状況に合わせて変化していくものであるため、常に共通認識を持てるような場を設けていくことが大切です。
「ティール組織」のメリット・デメリットとは
ティール組織のメリットとして、各メンバーがフラットに関わりあい、意思決定権があることで、各自が自分の仕事に責任感や専門性をもって取り組めるということ。従来の組織のような一部の意思決定権を持ったものの暴走や権力争いなどの、組織の目的を阻害する活動が抑えられることがあげられます。
また、自分のすべてが受け入れられているという安心感から、自分の持っている全ての力を使うことができ、各自がこれまで以上の力を発揮し、組織の目的に向かって動くことができるというメリットもあります。
ただし、全ての組織がティール組織となることで成功するというわけではありません。また、今までOrange組織であった組織を、いきなりティール組織の段階に引き上げることも難しいでしょう。まずは、自分の組織がどのような形を目指しており、どうティール組織の要素を取り入れていけるのかを考えることから始めましょう。
「ティール組織」の実例
では、実際にティール組織は実現可能なものなのでしょうか。ティール組織の考え方を実現し、成功している組織の実例は、いくつかあげられます。
ビュートゾルフ(オランダ)
新しい形の在宅介護支援を提供するオランダの組織「ビュートゾルフ」の特徴は、約10名ほどで構成されたチームで活動し、各チームがビュートゾルフの掲げる目的に沿って、介護などの実務から、管理業務までそのチーム内で決定し、自由に活動しているとうことです。
また、その活動は「Buurtzorg Web」というITツールを駆使し、情報やノウハウ、アドバイスなどがすべてのチーム内で共有され、コーチと呼ばれるアドバイザーが、各チームの議論の補助をしています。
ザッポス(アメリカ)
ティール組織の運営手法「ホラクラシー」を取り入れたことで話題となった、アパレル通販会社です。組織内の上下関係をなくし、各自が意思決定権をもって働く、自走式組織を目指してホラクラシーの導入を進めています。
フラットな組織となることで、より意思決定を早くし、イノベーティブなアイデアが実行されることを目的としています。
なぜ、いま「ティール組織」なのか
世界で注目を集めるティール組織ですが、特に日本でこれほどまでの注目を集めたのは、なぜなのでしょうか。
それは、現在の日本の会社組織のほどんどがOrange組織(達成型組織)であり、その機械的な働き方での疲弊が、サービス残業や過労死など、さまざまな部分で顕著化してきたことがあります。そんな機械的な働き方を見直すべく登場した「働き方改革」の機運が盛り上がる中、「ティール組織」の提示した新たな組織のあり方は、これまでの「管理するマネジメント」から脱却した理想の形と見えるのでしょう。
しかし、前述したとおり、全ての組織がティール組織に適しているわけではなく、また実現にはたくさんの段階が必要です。自社の組織において、ティール組織のどんな要素を取り入れていくことができるのか。社員が自主性を持って働けるようにするには、どうしたらよいのか。まずは自社の組織を見つめることから、はじめてみてはいかがでしょうか。
