雇用方法が多様化している今、正規の雇用前にお試しで一定期間働くというトライアル雇用という手段があります。こちらの記事では、トライアルコースの概要、メリットとデメリット、助成金などにフォーカスして解説していきましょう。

トライアル雇用とは?
トライアル雇用とは、職務経験・技能・知識の不足や、ブランクが長いなどを理由に就職が難しい求職者を対象に、一定の期間(原則3ヶ月)の雇用期間を設ける制度です。この期間中に、求職者のスキルと人間性が、企業が求める要件にフィットしていれば、正規雇用として働くことができます。
出典:
「トライアル雇用」に応募してみませんか?
トライアル雇用に関する詳細事項は、以下の通りです。
トライアル雇用の対象者
トライアル雇用は、誰でも該当するわけではありません。以下のような方が、対象となります。企業の担当者は、トライアル雇用が可能の有無を事前に確認しておくとよいでしょう。
トライアル雇用の対象者は、以下のとおりです。
【トライアル雇用の対象者】
・ 紹介日の前日から過去2年以内で、離職や転職を2回以上繰り返している
・ 紹介日の前日時点で、1年を超えた離職期間が生じている
・ 離職の理由が、妊娠や出産・育児であり、紹介日の前日時点で安定した職業に就いていない期間が1年を超えている ※パート・アルバイトなどを含める
・55歳未満で、ハローワークなどの機関で担当者制の個別支援を受けている
・ 就職の援助を行うに当たって、特別な配慮(生活保護受給や母子家庭の母など)を要する
試用期間の違い
試用期間は、トライアル雇用期間とよく混同して使われているワードの一つです。
トライアル雇用の期間は、基本3ヶ月であり、企業側が雇用を継続するかしないかの選択ができます。一方、試用期間は、企業によって期間の設定に相違があり、3ヶ月もあれば6ヶ月などとまちまちです。あくまでも試用期間は、長期的な雇用を前提として契約の上で運用されています。
トライアル雇用制度のメリット
企業がトライアル雇用を運用する主なメリットは、いくつかありますが、ここでは、主なメリット3つを紹介しましょう。
採用のミスマッチの回避ができる
企業がトライアル雇用を行う場合、トライアル雇用期間中に対象者が一定のレベルに達しているか、自社に相応しい人材であるかどうかなどを見極めることができます。「採用したら相応しくない人材だった」ということが回避できるだけでなく、無駄な採用コストが生じにくくなります。
採用の自由度が高い
トライアル雇用は、トライアル後に正規雇用を確約するものではありません。したがって、トライアル雇用の期間が満了すれば企業側は、自社の状況や対象者の適性を考えた上で、正規に受け入れるか否かを選べます。
正式雇用する前に求職者を観察できる
トライアル雇用は、何度かの採用面接で求職者の人柄などを見極めるのではなく、まずは一緒に働いて、人柄やスキル、心意気を現場で観察できます。つまり正式雇用前に求職者を受け入れるかどうかの判断ができるわけです。
トライアル雇用のデメリット
トライアル雇用は、メリットだけでなく、デメリットもあります。企業側の主なデメリットについては次の通りです。
人材育成に時間がかかる場合がある
中途採用の場合、前職などのナレッジや経験があるため、育成するコストはあまりかかりません。一方、トライアル雇用は、就業経験が少ない層と、長期のブランクがある層がいるので、状況によって入社後に一から人材育成を目的とした研修が必要になる場合があります。
即戦力の採用としては不向きである
トライアル雇用は、業務未経験という層がいる場合があるので、即戦力の採用として不向きかもしれません。即戦力を軸として採用したい企業は、条件を定めて中途採用を募るのも一つの手です。
トライアル雇用を実施する場合の留意点
企業がトライアル雇用を本格的に実施する場合、留意点を知ったうえで運用しましょう。主な留意点を下記の通りまとめました。
書類提出は日にちを守る
トライアル雇用に絡んだ書類には提出期限が定められています。提出期限を過ぎてしまうと助成金の受給ができなくなります。提出期限を必ず確認し、間に合うように努めましょう。
企業側都合で途中退職した場合は受給できない
トライアル雇用を活用したものの、トライアル雇用期間の途中で退職に至った場合、助成金の受給はできません。
トライアル雇用助成金の種類
企業が、ハローワーク経由の紹介でトライアル雇用を行った際、最長で3ヶ月間、対象の企業に
トライアル雇用助成金制度
が支給されます。種類については、次の通りです。
があります。
【雇用助成金支給額】
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一般トライアルコース 新型コロナウイルス感染症対応トライアルコース
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新型コロナウイルス感染症対応短期間トライアルコース
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支給額 (月額)
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最大4万円
※一般トライアルコース/母子家庭の母等もしくは父子家庭の父に該当する場合
※新型コロナウイルス感染症対応トライアルコース/事業主が雇用調整助成金を受給していないなどの場合
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最大2.5万円
※1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の無期雇用を希望する場合
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支給期間
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最長3ヶ月
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最長3ヶ月
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一般トライアルコース
一般トライアルコース
は、対象者の雇い入れ日から原則として最長3ヶ月間支給される制度です。1人当たりの支給額の上限は月額4万円。助成金の算出方法は、以下の通りです。
ひと月あたりの支給額(※それぞれ異なる)×雇い入れ対象の月数
なお、支給は一括となります。また、対象者の期間中の離職や、正規雇用に切り替え、トライアル雇用期間中の就労が1ヶ月未満の 休暇や休業があったケースに関しては、就労日数で算出され、支給されます。
障害者トライアルコース/障害者短時間トライアルコース
障害者トライアルコース/障害者短時間トライアルコース
は、就職が難しい障がい者が対象です。トライアル雇用の機会を与えることで、障がい者が早期に働けるようサポート。助成金の金額は、精神障がいと、それ以外の障がいで異なっています。
障害者トライアルコースは、基本的に週に20時間以上の就業が必須となっていますが、慣らしとして、週に10~20時間の就業からスタートの短時間トライアルコースで対応するのも可能です。トライアル雇用の期間中に週20時間以上の就業を目指せるようバックアップをしています。
【助成金の支給額】
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障害者トライアルコース
障害者短時間トライアルコース
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精神障害者の場合
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支給額(月額)
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最大4万円
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最大8万円
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支給期間
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最長3ヶ月
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最長3ヶ月/月額8万円の場合
3ヶ月超過の場合/4万円×3ヶ月
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新型コロナウイルス感染症対応トライアルコース/新型コロナウイルス感染症対応短時間トライアルコース
上記のコースのほかにも、
新型コロナウイルス感染症の影響に絡んだトライアルコース
もあります。
こちらのコースの条件は、以下のとおりです。
・新型コロナウイルス感染症の何らかの影響により離職せざる得なかった
(例:コロナ禍で勤務していた会社が倒産したなど)
・離職期間が3ヶ月以上
・就労経験のない職種を希望している
無期雇用を前提としており、週30時間以上就業のトライアルコースと、週20時間以上30時間未満の短時間トライアルコースの2種類を設けています。
なお、2022年4月より支給金額が下記のとおり拡充しました。
【2022年4月以降の助成金支給額】
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新型コロナウイルス感染症対応トライアルコース
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新型コロナウイルス感染症対応短期間トライアルコース
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増額支給額(月額)
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最大5万円
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最大3.12万円
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通常支給額(月額)
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最大4万円
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最長2.5万円
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トライアル雇用の一連の流れ
トライアル雇用をこれから運用する場合、一連の流れを頭に入れておくと、そのあとの対応もスムーズです。こちらの章では、企業側が対応する一連の流れについて解説します。
出典:
トライアル雇用 |厚生労働省
1.求人票の提出と有期雇用契約の締結
トライアル雇用を希望する企業は、「トライアル雇用である」旨を記載した求人票をハローワークに提出。ハローワークは、条件に見合う人材をリサーチし、相応しい人材を企業に紹介します。
その後、企業は求職者向けの1~2回の面接を実施し、トライアル雇用の有無を決定します。トライアル雇用の面接では、求職者に適性があるかどうかを判断しますが、職業経験が少ないことが前提。技能や知識よりもポテンシャルを重視される傾向です。
面接によるトライアル雇用が決まった場合、3ヶ月の有期雇用契約を締結する流れとなります。
2.トライアル雇用の実施と計画書の提出
トライアル雇用の開始をしたら2週間以内に、ハローワーク宛てに「トライアル雇用実施計画書」を提出します。こちらの書類は、主にトライアル雇用中の措置の内容や、常用雇用の移行などの要件などを記載します。
トライアル雇用の期間が終了、もしくは期間中に常用雇用にシフトチェンジした際には、その翌日から2ヶ月以内に「
トライアル雇用助成金支給申請書
」の提出が必要です。
3.トライアル助成金の支給
トライアル雇用助成金の支給は、トライアル雇用期間の終了後です。なお、支給に関しては、トライアル期間の3ヶ月分が一括で振り込まれます。
4.雇用契約の成立
求職者のトライアル雇用での実績とスキル、そして企業側のニーズが一致した場合は、正規で雇用される流れとなります。
トライアル雇用で人材不足を解決し、企業の発展につなげよう
トライアル雇用は、職業経験が少ない、出産育児による長期のブランクなどの就職が難しい求職者を3ヶ月(原則)の間、お試しで雇用する制度です。企業と求職者のニーズがマッチしていれば、正規雇用になる場合もあります。
人材不足が深刻化している今、ブランクがあっても、未経験でも働く意欲があれば雇用をしたい企業もいることでしょう。企業がトライアル雇用を活用すれば、人材不足をカバーするだけでなく、また新たな相乗効果を生み、企業の発展につながるかもしれません。
