福利厚生は、人材定着やワークライフバランス実現のために有効な施策のひとつです。その導入にあたって使える助成金があることをご存知でしょうか?
この記事では、企業の福利厚生導入に活用できる助成金について、補助金との違いや助成金を使うメリット、注意点など知っておきたいポイントをご紹介します。新たな福利厚生導入を検討している企業担当者はぜひ参考にしてください。

なぜ福利厚生が必要なのか
福利厚生とは、企業が従業員に対して賃金とは別に支給する、健康やQOL向上を目的とした報酬のことです。家賃補助や食事補助、子育て・介護のサポートなど、その種類はさまざまです。では、なぜ福利厚生が必要なのか、その目的から見ていきましょう。
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離職率低下につながる
福利厚生は働きやすさに大きな影響を与えるもののひとつです。例えば福利厚生として子育て・育児の休暇制度が整っていると、「従業員のライフプランに合わせた働き方ができる、働きやすい職場である」と感じる従業員が多くなり、離職率の低下につなげられます。
離職率の低下は、人材不足が叫ばれる現代の日本において重要です。せっかく入社した優秀な人材を失ってしまわないよう、働きやすい職場づくりのために福利厚生を活用しましょう。
優秀な人材が集まりやすくなる
離職率の低下はもちろん、人材を集める上でも福利厚生を充実させることは有効です。求職者が入社する企業を決めるポイントとして「福利厚生の充実」が挙げられることも多く、福利厚生が充実している企業には求職者からの応募がより集まりやすいと考えられます。
勤務条件などが同じ企業であれば、福利厚生が充実した企業に入りたいと思うものです。優秀な人材を確保するためにも、福利厚生を充実させることは必要だといえるでしょう。
生産性向上につながる
福利厚生制度の中には、従業員のスキルアップのサポートや働きやすい環境整備のための取り組みもあります。例えばセミナー・勉強会への参加費負担や、テレワーク環境整備のための手当、栄養バランスの取れた社食などです。
このような福利厚生が充実して働きやすい職場になると、従業員エンゲージメントが向上し、生産性向上にもつながるでしょう。
企業への助成金とは?
助成金とは、特定の条件を達成した場合に受け取ることができる、返済の必要がない資金のことです。厚生労働省が管轄する雇用関係の助成金は、政府の政策に合わせた活動を行っている企業が要件を満たして申請した場合に支給されます。
福利厚生に活用できる助成金には、キャリアアップ助成金やトライアル雇用助成金などがあります。詳しくは後述しますので、参考にしてみてください。
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補助金との違い
助成金と似た制度に補助金があります。どちらも融資とは異なり返済不要な資金ですが、助成金は条件を達成していれば原則として支給されるのに対し、補助金は条件の達成にプラスして審査に合格する必要があるため、申請しても必ずしも支給されるものではありません。
助成金を活用するメリット5つ
福利厚生の充実に助成金を使うことは、企業にとってメリットもあります。ここでは、助成金を受けるメリットについて詳しく見ていきましょう。
①融資とは違い返済不要
まず1つ目に、助成金は返済の必要がないという大きなメリットがあります。厚労省管轄の助成金は、基本的に企業や従業員が支払っている雇用保険料や税金から資金が賄われています。特定の目標に対して要件を満たした企業に支給されるもので融資ではないため、返済は不要となっています。
②使い道は企業の自由
助成金の使い道は企業の自由である、という点もメリットだといえるでしょう。支給された助成金は雑収入として計上し、福利厚生費だけでなくそれ以外の目的で使用することも可能です。
③条件を達成していれば受給可能
助成金は条件を達成していれば、書類の不備や対象社員の退職があった場合などを除き、ほとんどの場合において支給を受けられます。補助金はさらに審査に合格しなければならず、申請しても受給できない可能性があるため、この点においては助成金の方がメリットが大きいといえるでしょう。
④申請準備が雇用環境整備につながる
雇用関係の助成金は、労働環境を整えるためのものです。申請には厳しい条件を達成しなければならず、助成金申請のための準備を進めていくと、雇用環境を改めて見直し、整備ができるというメリットもあります。
就業規則や雇用契約書の提出が求められることも多く、改めて職場の環境を見直すきっかけにもなるため、助成金申請に関わるポイントだけでなく全体を通して、改善点がないかどうかチェックしていくとよいでしょう。
⑤企業イメージの向上につながる
助成金の支給を受けるためには、さまざまな要件をクリアしなければなりません。国から助成金を受けているということは、それだけ厳しい条件を達成している、労働環境が整備された企業であるというアピールにもなり、企業の信頼性の向上につなげることができます。
求職者からはもちろん、顧客や取引先などに対してもプラスイメージを持たれやすくなり、人材採用や営業の場にも良い影響がもたらされるでしょう。
助成金申請時の注意点3つ
助成金の活用にはさまざまなメリットがありますが、申請には注意すべき点もあります。
①導入した制度の廃止が難しい
助成金申請に際して導入した制度は、廃止が難しくなります。新しい制度を作った場合に受給資格が得られる助成金もありますが、一度作った制度を廃止するのは従業員からの反発なども考えられ、信頼を失うことになりかねません。また、制度によっては一度作ると助成金の制約ですぐに廃止できない場合もあります。
こうした事態を防ぐためには、助成金のためだけに労働環境を整備するのではなく、目的をもって計画的に制度の設置や運営を行うことが大切です。
②申請後すぐに支給されるわけではない
条件を達成したからといって、申請すればすぐに助成金が支給されるわけではありません。基本的に助成金は後払いであり、内容によっては1年以上後になってから支給されることもあります。
支払われるまでの期間は自社の資金で福利厚生を運営していく必要がありますので、すぐに資金が必要となる場合は先に銀行などから融資を受け、助成金が支給されたら返済に充てるなど、工夫をしなければなりません。その場合は、助成金の支給が確実になってから融資を受けるようにしましょう。
③社内制度の整備や書類作成に労力がかかる
助成金の申請を行うためには要件を満たす必要があり、社内制度を整備するのには労力も時間もかかるでしょう。さらに、具体的な申請方法は助成金によって異なりますが、いずれも複雑なものが多く、書類の準備にも手間がかかります。
また、申請後にも書類の保管義務があり、問い合わせや立ち入り調査の対応を行わなければならない可能性があります。自社の目的に合った助成金の選定から申請、受理後まで、さまざまなコストがかかる点には注意しておきましょう。
福利厚生導入に活用できる助成金をご紹介
ここからは、福利厚生を充実させるために活用できる助成金をいくつかご紹介します。なお、この他にも国や自治体から支給されるものがありますので、自社の目的に合ったものを探してみてください。
キャリアアップ助成⾦
キャリアアップ助成金
は、非正規社員のキャリアアップ促進のために設けられた助成金です。現在は7つのコースがあり、それぞれ求められる取り組みの内容が異なります。
1)正社員化コース
2)障害者正社員化コース
3)賃金規定等改定コース
4)賃金規定等共通化コース
5)賞与・退職金制度導入コース
6)選択的適用拡大導入時処遇改善コース
7)短時間労働者労働時間延長コース
いずれも派遣社員や契約社員、パート・アルバイトなどの非正規社員に対して、正社員化や処遇改善の取り組みを実施した企業を対象として、助成金が支給されるコースとなっています。
トライアル雇用助成金
トライアル雇用助成金
は、職業経験不足や病気・障害などにより安定した就職が困難な求職者に対して、一定期間の試行雇用をした企業を対象として支給される助成金です。現在、大きく分けて4つのコースがあります。
1)一般トライアルコース
2)障害者トライアルコース・障害者短時間トライアルコース
3)新型コロナウイルス感染症対応トライアルコース・新型コロナウイルス感染症対応短時間トライアルコース
4)若年・女性建設労働者トライアルコース
企業側は助成金を受けとりながら、求職者の適性や業務遂行能力を見極めることができ、求職者側も企業や業務に対しての理解を深めたり、自分に合う仕事かどうかを判断することができます。
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両立支援等助成金
両立支援等助成金
は、仕事と家庭生活の両立支援などの取り組みを行う企業に対して支給される助成金です。2022年度は5つのコースが設けられています。
1)出生時両立支援コース
2)介護離職防止支援コース
3)育児休業等支援コース
4)不妊治療両立支援コース
5)新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置による休暇取得支援コース
男性の育児休業取得促進や仕事と育児・介護の両立支援は、従業員の働きやすさや生活の質向上につながる施策のひとつです。福利厚生で従業員の暮らしをサポートしたいと考えている企業にとっては、注目すべき助成金だといえるでしょう。
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人材確保等支援助成金
人材確保等支援助成金
は、労働環境の向上を目指し人材確保のための施策を行った企業に支給される助成金です。現在は次のようなコースが設けられています。
1)雇用管理制度助成コース
2)介護福祉機器助成コース
3)中小企業団体助成コース
4)人事評価改善等助成コース
5)建設キャリアアップシステム等普及促進コース
6) 若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コース(建設分野)
7)作業員宿舎等設置助成コース(建設分野)
8)外国人労働者就労環境整備助成コース
9) テレワークコース
具体的には、従業員研修制度や健康づくり制度に関する取り組みなどが対象です。離職率低下・人材定着のために助成金を活用しながら福利厚生の充実を図り、働きやすい職場環境を整えたいと考えている企業にとっては、相性のいい助成金となっています。
助成金を活用して働きやすい職場づくりを!
人手不足が叫ばれる昨今、人材定着は企業にとって大きな課題となっています。人材定着のために福利厚生の充実を図り従業員の満足度を高めることは、離職率の低下や業務の生産性向上も期待できますので、有効な施策のひとつだといえるでしょう。
福利厚生の充実にあたって助成金制度をうまく活用すると、返済不要な資金が受給できるだけでなく、社内の労働環境整備や企業イメージの向上にもつながります。企業の成長のためにも、助成金を活用しながら働きやすい職場づくりを行いましょう。
