皆さんはwell認証という言葉をご存知でしょうか?
well認証とは、Well Building Standrdといい、2014年に米国で開発された認証で、働く人々の健康や、ウェルネス、快適性を保証するオフィスに与えられるものです。
リモートや業務委託など多様な働き方も増えてきましたが、現状として従業員はオフィスで働くことに生活の大部分の時間を費やしています。現在オフィスは、今までの日本のように ’’ただ仕事をしに行く場所’’ ではなく、従業員にとって ’’価値ある生活の一部’’ へと姿を変えつつあります。
今日は、そんな ’オフィスと健康’を結びつけた新しい価値基準 well認証について見ていきたいと思います。

新たな建築物の認証 well認証とは
well認証は、心身の健康をサポートしたり、快適性が高く、人間の健康やウェルネスに好影響をもたらす建築物に与えられます。例えばオフィスにおいては、そこで働く従業員は心身共に活発になり、パフォーマンスが向上し、労働生産性が上昇するとの考え方があります。また、そうした建築物は不動産価値も高いとして認証されています。
ちなみに、ここでいうウェルネスとは、
世界保健機関(WHO)が提示した広範囲の意味での健康のことです。日本では琉球大学のウェルネス研究分野によると以下のように定義されています。
ウェルネスとは、「元気」や「爽快」を意味する英語「well」で、「病気」を意味する「illness」とは対照的な言葉です。病気ではない「状態」を「健康」(ヘルス)と表現してきたのが一般的であるのに対し、健康は手段・ベースであり、豊かな人生、輝く人生を目指している過程こそもウェルネスであり、より広い健康観を超えた「生き方」「ライフスタイルデザイン」、そして「自己実現」を表しているもの
どこが発行しているのか
well認証は、2014年に米国のデロス・リビング社により考案されました。
公益企業IWBI(International WELL Building Institute)が運営し、
GBCI(Green Building Certification Inc.)がその認証を行っています。
GBCIは建物の環境性能総合評価システムLEEDの認証も行っている第三者評価機関です。
どうしてできたのか
そもそもwell認証ができるまでに、同じ建築物の評価機関であるGBCIが認証するLEED(Leadership in Energy and Environmental Design)というものがありました。
これは土地の場所から建築物の完成、解体に至るまでの全てで、より環境に優しく持続可能な世界を目指した内容でした。
日本でも127件、世界でも70,000万件が認証を受けています。(一般社団法人グリーンビルディングジャパン調べ 2018年5月、11月時点)
こうして、環境の持続性については長らく考えられてきました。
しかしここ数年で、
環境的な持続性だけでなく、生物的な持続性も人類に共通する大きな課題だとして注目され、議論が進められた結果、well認証の開発につながりました。
どんなところが審査されるのか
well認証は、医師や科学者、専門家の協力で7年間の密度の高い研究を通じて開発されました。審査項目としては、vol1.としては建築物を使用する者が実際に経験する以下の7つの基本コンセプト、100項目に分かれています。
2018年 5月時点では、より認証を受けやすいvol2が発表されました。
vol1の項目としてはシンプルで、以下の7項目に分かれています。
具体的には、青字は必ず達成を要する必須項目を、黒字は任意選択の加点項目(以上「新築および既存の建物」の場合)として以下の項目がある。(グリーンビルディングジャパンから引用)
Air(空気) 29項目
空気質基準、禁煙、効率的な換気、VOC低減、空気ろ過、微生物とカビ制御、建設段階の汚染管理、健康に配慮した入口、清掃手順、農薬殺虫剤管理、基本的な製品の安全性、湿気の管理、エアーフラッシュ、気密性管理、換気量の増加、湿度制御、発生源の直接的換気、空気質のモニタリングとフィードバック、開閉可能な窓、外気システム、置換換気、害虫防除、高度な空気浄化、燃焼の最小化、有害物質の低減、強化された材料安全性、表面の抗菌、清掃しやすい環境、清掃用具
Water(水)8項目
基本的な水質、無機汚染物質、有機汚染物質、農薬汚染物質、上水添加物、定期的な水質検査、水処理、飲料水摂取の促進
Nourishment(食物)15項目
果物と野菜、加工食品、食物アレルギー、手洗い、食品の汚染、人工的原材料、栄養成分表示、食品広告、安全な調理器具、一人前の分量、特別食、責任ある食品生産、食品の保管、食品生産、心豊かな食事
Light(光)12項目
ビジュアル照明デザイン、サーカディアン照明デザイン、人工光のグレア制御、太陽光グレア制御、低グレアワークステーション設計、色の品質、表面デザイン、自動遮光と減光制御、昼光を受ける権利、昼光モデリング、採光窓
Fitness(フィットネス)8項目
屋内のフィットネスとしての動線、活動へのインセンティブプログラム、体系的なトレーニングの機会、外部空間の活動的なデザイン、運動スペース、アクティブ通勤への支援、フィットネス器具、アクティブな家具什器
Comfort(快適性)12項目
アクセシブルデザイン、エルゴノミクス:視覚的および身体的事項、外部騒音の侵入、内部発生騒音、温熱快適性、嗅覚の快適性、残響時間、サウンドマスキング、吸音面、遮音、個別温度制御、輻射による温熱快適性
Mind(こころ)17項目
健康とウェルネス意識、インテグレイティブデザイン、入居後調査、美しさとデザインⅠ、バイオフィリアⅠ-質について、適応性に優れた空間、健康的な睡眠のポリシー、出張、建物における健康のポリシー、職場における家族サポート、自己モニタリング、ストレスと依存症への対処、利他的行為、材料の透明性、組織の透明性、美しさとデザインⅡ、バイオフィリアⅡ-量について
また、これら各項目の評価点数に応じて、シルバー(必須項目全て)、ゴールド(必須項目+加点項目40%)、プラチナ(必須項目+加点項目80%以上)といった段階での認証がなされます。
Vol1. と Vol2. の違いって?
IWBIによると、Vol2. の方は現在試験期間中で、2018年12月現在はどちらも受講できるようです。試験期間終了後も、Vol1は登録のためにオープンにはなっているとのことでした。
また、新しいvol2の価値基準は、これらをベースに更に10項目に分かれています。
詳しくはIWBIのサイトを参照ください。
登録者数と認証数の現状
それでは現在、世界の浸透状況はどれくらいなのでしょうか。見ていきましょう。
先進国はアメリカと中国!
2018年11月20日時点で、世界では37ヶ国1034件が登録し、そのうち17ヶ国134件が認証を受けています。中でもアメリカと中国では登録件数がとても多いのが現状です。
世界の登録件数:グリーンビルディングジャパン参照
日本では、2018年11月時点で登録件数10件、認証件数は1件といった状況です。
認証されたのは「大林組技術研究所本館テクノステーション」で、vol2. では世界初の認証です。
日本の登録場所:グリーンビルディングジャパン参照
上記の数値から見ても、世界での取り組みはかなり進んできているものの、日本ではまだま少ないと考えられます。次の項目では、どういう方法で認証を受けるのかを見ていきましょう。
認証されるまでのプロセス
それでは、実際に認証されるにはどういう手順を踏むのでしょうか?
①WELLへプロジェクトを登録する
まずはここからWELLへの登録を済ませます。
②コーチング担当者と話し合う
次にWELLのコーチング担当者とやりとりし、会話や技術的な質問への回答、項目へのソリューションなどに対してブレインストーミングを行います。
③資料作成 書類審査
WELL Building Standard またはWELL Community Standardの必須要素(前提条件)、および各要素の加点項目を満たしていることを証明するための書類を作成して送信する。そうすると、本部より書類審査が行われます。
④現地審査
書類審査に通ると実際に現地での調査が開始されます。
⑤認証
必須項目を満たすと認証となります。認証においては前述のように、加点項目を加味した点数に応じて段階が変わります。
企業事例 株式会社イトーキ
では実際にどういった施策をすれば良いのでしょうか? 大変なものもありますが、実はすぐに取り組めるものもあったりします。株式会社イトーキは、2018年に新本社オフィスITOKI TOKYO XORKがwell認証のゴールドに達しました。ここでは、そんなイトーキの取り組みで、特徴的な取り組みをご紹介します。
①リラックスできる空間
(出典:日経XTECH)
これは瞑想するための部屋で、社員のリフレッシュを意図して作られたそうです。これはwell認証の評価項目である心の部分を押さえたものとなっています。こうした企業ごとの文化や需要に合わせた、スペースを作ることも一つの施策だと考えられます。昼寝場所やフィットネス場、卓球台を置いた部屋など、自社に必要なものを考えてみてはいかがでしょうか。
②照明や区分けによる作業環境
(出典:日経XTECH)
これは、オフィス内部の写真です。照明をあえて抑えることで、集中できる環境を作り出しているそうです。また、仕事の内容によってオフィスを区分しているレイアウトにもなっています。
(出典:Worker’s Resort)
また、CNET Japanによると、こうしたオフィス区分は活動に合わせて93個もあるそうです。well認証の評価区分における快適性には、このような仕事場の区分を考えることもその一つとして考えられます。
まとめ
いかがだったでしょうか? well認証はご覧いただいた通り、まだまだ人口は少ないです。
しかし、社員1人1人により快適に、長く働いてもらうにはこうした建築物(オフィスや工場)がもたらす従業員の健康、ウェルネスを考えることも観点としては大切なのではないでしょうか。今後も気になる方は引き続きチェックしてみて下さい。
