多様性を認め合うことと企業運営は密接に関係しています。今や、ダイバーシティ経営ともいわれるように、その人の能力を最大限に引き出す環境をつくることは企業の重要な課題といえるでしょう。
本記事では、「ダイバーシティ」の基本理解から取り組む効果、企業事例などを解説します。

ダイバーシティとは?
ダイバーシティ(Diversity)とは「多様性」や「相違点」を意味し、英語で「多様な」を意味する形容詞「diverse」を名詞にした言葉です。
この概念は1960年代のアメリカで公民権法が成立されたころから使われ始め、その後マイノリティや女性が差別のない社会を求める運動を行う中で広まっていきました。
2種類に分けられるダイバーシティ
ダイバーシティは、大きく2種類に分けられます。それぞれの特性を解説します。
表層的ダイバーシティ
表層的ダイバーシティとは、人が自分の意思とは関係なく生来持っているものや、自分の力では変えることが難しい属性などを意味します。
具体的には、人種、年齢、性別、障害、特性、価値観、性的傾向、民族的な伝統、心理的能力、肉体的能力などが該当します。
深層的ダイバーシティ
深層的ダイバーシティは、人々が内面に持つ大きな違いであり、表面上はわかりにくく、違いに気づきにくいものを指します。
具体的には、宗教、母国語、職務経験、収入、働き方、学歴、コミュニケーション特性、組織での役職などが該当します。
ダイバーシティ経営(マネジメント)とは?
ダイバーシティ経営とは、多様な人材の能力を最大限に活かすことで、企業の競争力が強化され、事業が成長していくという考え方です。女性、外国人、高齢者、障がい者を含めたさまざまな人材が活躍しできるよう、経営戦略的に組織を管理していくことがイノベーションにつながります。
また、それに関連し、ダイバーシティマネジメントという手法も存在します。多様な人材のアイディアやスキルを企業として生かしていくために、どうマネジメントしていくか…が今後ますます重要になってきます。アメリカでは、ダイバーシティマネジメントを「多様性の受容」を意味するダイバーシティ&インクルージョン(Diversity&Inclusion)と表記しており、それにならう表現をする日本企業もあります。
また、昨今ではワークライフバランスを重視する働き方が浸透する中、企業側でも多様化する雇用意識や価値観へ対応した柔軟なマネジメントを行い、従業員それぞれの能力が発揮される企業文化の構築が求められています。
ジェンダー・ダイバーシティ・マネジメント
さまざまなダイバーシティ・マネジメントの中でも、女性の積極的な管理職登用を意識したものがジェンダー・ダイバーシティ・マネジメントです。
例えば、出産・育児休業からの復職をスムーズに行うための取り組みや、時短勤務のルール整備と徹底、育児中の従業員の業務バランスの見直しなども、ジェンダー・ダイバーシティ・マネジメントと言えるでしょう。どのようなライフステージの女性であっても、活躍し、輝ける状態を目指したいところです。
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ダイバーシティが必要とされる背景
企業でもダイバーシティが重視されるようになった理由は複数あります。
働き方に対する価値観の多様化
時代とともに、働き方や雇用に対する意識は大きく変化しました。企業への帰属意識が希薄化したり、仕事と私生活の両立を重視したりなど、特に若年層の中で顕著に見られます。
その流れの中で転職志向の労働者も増え、人材の流動性が高まりました。また、女性の雇用比率が高まったことにより、家事・育児に対する男性の役割も変化しました。ダイバーシティを実践することで、そのような変化に対応していく必要があります。
ビジネスのグローバル化
グローバル化とは、国や地域を超え、事業活動の中で海外とのやりとりが行われることを指します。日本でも近年、ビジネスのグローバル化が急速に進んでいます。
海外市場のニーズに合う商品開発が必要であったり、海外に製造拠点を作る場合はその国での採用活動を行ったりするため、企業ではさまざまな国籍や人種の人材を採用が必至です。
多様な価値観を受容していくダイバーシティを推進することで、外国人の人材が働きやすくなるでしょう。
少子化高齢化などによる労働力人口の減少
15歳~64歳までの社会で働くのに適している人たちのことを「生産年齢人口」と称しますが、少子高齢化に伴い、この人口は年々減少傾向にあります。その結果、今後の日本では深刻な人手不足に陥るという予測もされています。
人手不足により事業が継続できなくなることも懸念されるため、安定した事業の継続のためには従業員を安定して確保する必要があります。
そこで、ダイバーシティの考え方に基づき、女性や高齢者、障がい者、外国人などの多様な人材を活用することが重要とされています。
フルコミットメント社員の減少
フルコミットメント社員とは、「いつでも」「どの勤務地でも」「どんな仕事でも」働ける社員を指します。生産年齢人口の減少に加え、高齢化により介護に従事する人口も増加していることから、このフルコミットメント社員を確保することが以前よりも難しくなり、フルコミットメント社員だけでは人材不足が懸念されるようになりました。
企業はダイバーシティを進め、フルコミットメントではない時短労働者やリモートワーカーなどの労働力の活用が求められるようになっています。
顧客の価値観の多様化
日本の消費者の消費志向は、市場の成熟を経て多様化しています。消費行動の意味も「モノ消費」から「コト消費」に移行し、「体験を買う」という消費行動も増加しています。
そのような消費行動の多様化に対応していく企業戦略を立てるためにも、多様な人材を受け入れ、柔軟性と創造性のある組織づくりを推進していく必要があるでしょう。
ダイバーシティ推進で得られる4つの効果
企業がダイバーシティを推進することで、どのような効果を得られるのでしょうか。
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プロセスイノベーション
プロセスイノベーションとは、製品やサービスの開発・製造・販売の過程、つまり「プロセス」を改良することを指します。ダイバーシティによって多様な人材が企業内にいることで、効率化のアイディアや販売手法の改善案が浮かびやすくなります。
プロダクトイノベーション
プロダクトイノベーションとは、製品やサービスの新しい価値を生み出したり、改良、開発を行うことです。多様な価値観を持つ人材が集まることで、従来とは違った視点で製品・サービス企画が生まれる事例が期待されます。
たとえば、日本人のみの企業に海外出身の人材が入社することで、海外市場に適した商品企画ができたり、海外商品のアイディアを取り込めたりが可能になります。
外部からの評価の向上
多様な働き方を推進し、多様な価値観を大事にすることで、企業の社会的な評価が高まります。自社の従業員を大事にしているという印象を持たれるため、採用力アップにつながるでしょう。
また、多様な人材を採用してユーザーニーズを汲み取った事業を行えば、顧客からの信頼も高まります。顧客満足度が上昇し、企業のブランド力向上を狙えるでしょう。
職場内の効果
フレックス制度や時短勤務、リモートワークなど、多様な働き方が可能であることで、従業員が自身の都合に合わせて勤務を続けられます。従業員のモチベーションアップや心身の健康向上に役立ち、離職率の低下も見込めるでしょう。
ダイバーシティを推進するための5つのポイント
ダイバーシティを推進し、企業文化として定着させるためにおさえておきたいポイントを解説します。
意思決定の透明性
企業に多様な人材を集め、それぞれが活躍できるようにするには、業務における意志決定のプロセスの透明性を高くしなければなりません。
さまざまな価値観を持つ人を受け入れるダイバーシティ経営においては、「空気を読む」や「言わなくても察する」という日本人にありがちな意識は、かえってトラブルを招きかねません。
意思決定のプロセスが透明化されることで、従業員の企業への信頼感が増し、意見の出しやすい場になるでしょう。
一人ひとりの意見を尊重する
ダイバーシティ経営の推進のためには、従業員ひとりひとりがさまざまな意見を出せる環境づくりと、それを尊重し採用することが重要です。
あまり自己主張が得意でないタイプの従業員であっても意見を出しやすい環境にするには、気軽に使える相談フォームを用意したり、チャットツールや意見箱などでアイディアを簡単に持ちこめる場を作ったりなどの工夫が必要でしょう。
属性で人を見ず、「個」を見る
たとえば、若年層向けの商品を開発するので、若年社員だけのチームを作って丸投げすればいい、というわけはありません。「若年層」と一括りにされることでアイディアが限定されてしまう可能性があり、むしろ違う世代の従業員からのアイディアが良い足掛かりになることもあるでしょう。
「女性」や「若年層」「外国人」という属性の集団で従業員を見ず、それぞれ個人として捉えた上で思想や得意・不得意などを把握しておくことが重要でしょう。
縦割り組織を防ぐコミュニケーションの工夫
ダイバーシティ・マネジメントを推進し、浸透させるのに不可欠なのは、円滑なコミュニケーションです。組織が硬直化していたり、縦割りだったりすると、従業員同士のコミュニケーションが分断されてしまい、円滑な情報共有や意見発信が困難になります。
組織を横断して行うプロジェクトや、役職や肩書きを気にせず意見交換できるオフサイトミーティングを取り入れることで、組織内のコミュニケーションが円滑に行えるようになるでしょう。
社内での発信・共有
ダイバーシティの取り組みはやりっぱなしにせず、経営層が成果へのフィードバックを行うと、成果を従業員と共有でき、良い循環が生まれやすくなります。社内への積極的な情報発信として、表彰や、社内広報システムでの共有を行うと効果的でしょう。
ダイバーシティ疲れに注意
ダイバーシティ経営に取り組んでも、なかなか成果が現れず「ダイバーシティ疲れ」に悩んでいる企業担当者もいるのではないでしょうか。
たとえば、「せっかく女性を管理職に登用したのに妊娠・出産で退職してしまった……」「制度を用意しても、結局辞められてしまう」という企業側の意識と、「本当は働きたいのに、辞めざるを得ない状況に陥っている」という女性側の意識にズレが生じてしまった状況も聞かれます。
実際に女性が活躍できる「ジェンダー・ダイバーシティ経営」を叶えるためには、さまざまな制度や取り組みが、本当に女性の役に立っているかどうかが重要です。
ジェンダー以外であっても、ダイバーシティについて「マイノリティに配慮するのがめんどう」「コミュニケーションを円滑に取れない」「成績に直結しない」という意見が見られます。
ダイバーシティ経営を成功に導くには、多様な価値観を持つ人材を受容し、管理職側が従業員の能力をくみ取り活躍に導くスキルを意識して身につける必要があります。また、従業員と経営層がこまめにコミュニケーションを取りながら、従業員が自分らしく働けるような社内の制度づくりやサポート体制の構築を行うことが肝要でしょう。
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企業でダイバーシティを推進するための4つの施策
ダイバーシティ経営を推進するにはどのような施策を行うのが効果的か、具体的に解説します。
1.柔軟なワークスタイルを整備する
さまざまなワークスタイルで働けることは、従業員のワークライフバランスを充実させるのにも一役買います。
育児休業や介護休業などの制度は、整備するだけでなく、活用しやすい状態になっていることが大事です。相談窓口を設置したり、休業後の復職支援システムを設けたりなど、女性の活躍を推進するための工夫が必要でしょう。
また、裁量労働制やフレックスタイム制など、柔軟な勤務体系を取り入れることは、ワークライフバランスを重視する人材や、介護・育児中の人材にアプローチできるため、採用力の向上にもつながるでしょう。
さらに、リモートワークを導入したり、サテライトオフィスを作ることで、従業員の働く場所が柔軟になります。通勤電車から解放されたり、オフィスへのアクセスにとらわれず住む場所を選択できたりすることは、従業員の心身の健康に好影響をもたらすでしょう。
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2.働きやすい雰囲気づくりを心がける
役員の中にダイバーシティ担当者を設定したり、専用の相談窓口を設けたりすることで、より相談しやすい環境づくりが可能です。些細なことでも相談できる雰囲気を醸成することで、マイノリティや困りごとを抱えた人が孤立しにくくなるでしょう。
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3.経営層への研修の実施
研修は、従業員だけではなく、経営層を含めての実施が不可欠です。ダイバーシティをただの一時的な取り組みではなく企業文化と言えるほどまでに浸透させるには、執行役員やマネージャーなど、管理職を含めて研修を受けることが効果的でしょう。
研修では、女性やLGBT、高齢者や障害者、介護従事者など、それぞれに対して自分たちがどのようなバイアスを持っており、そのバイアスを取り除くにはどうすればいいかなどを学びます。経営層が学んだことを積極的に経営方針に取り入れることで、ダイバーシティが強力に進んでいくでしょう。
4.成長機会の提供
従業員が自身の興味のあるプロジェクトに携われる機会得られやすいような仕組みも、従業員のモチベーションアップに有効です。雇用形態に関わらず、機会を公平に提供することが重要です。
また、キャリア形成支援研修を実施したり、メンター制度を取り入れたりなど、成長できる機会を誰でも得られるようにすることで、自社でのキャリア形成への意識も高まるでしょう。
ダイバーシティ施策の事例
ダイバーシティ経営の推進企業として、経済産業大臣表彰となる「2020年度新・ダイバーシティ経営企業100選」から抜粋して紹介します。
育児休業中社員への支援など|日本ユニシスグループ
出典:日本ユニシスグループ
日本ユニシスでは、育児や介護などのライフイベントと仕事の両立支援のため、育児休職中の通信教育などのキャリア開発支援の仕組みを整備しています。
そのほか、管理職によるテーマ別(育児・介護・女性活躍など)研修の実施や、女性社員の人財パイプラインの構築を目的とした育成プログラムを実施していることが評価されています。またLGBT、障がい者支援などの施策も継続して実施されています。
服装自由化、性別を問わない育児休業の整備など|カンロ株式会社
出典:カンロ株式会社
カンロ株式会社では、
・家庭と仕事の両立支援
・フレックスタイム制度
・服装自由化
・女性のキャリアアップセミナーや、多様な部下を持つ管理職に対するセミナーの実施
・男女を問わない育児休業
など、さまざまなやり方で従業員をバックアップし、働きやすい職場づくりを行っています。
さらに、多様な人材の活躍を推進する施策の一つとして、2020年からはLGBTへの取り組みを行っています。研修の実施や相談窓口の設置などで、当事者が安心して働ける環境が整備されています。
「無意識の偏見」に関する研修を実施|エーザイ株式会社
出典:エーザイ株式会社
エーザイ株式会社では、シェアオフィスやワーケーション等、就労可能な場所の選択肢を拡大するなど、多様な働き方を認めていくほか、全社員を対象にアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)に関する研修を継続的に実施するなど、従業員の意識改革にも積極的です。
また、管理職に対して育児支援に関する制度やイクボス(部下や同僚の育児・介護等に配慮・理解のある上司)に関する研修を実施し、育児休職を取得しやすい職場風土を作ったり、育児休職取得時には、スムーズな復職に向けた保育園等の情報提供や休職中の自己啓発の支援を行うなど、育休・産休に関する制度も充実しています。
管理職向けの「イクボス養成講座」を実施|四国銀行
出典:四国銀行
四国銀行は、多様な人財の活躍推進に取り組んでおり、女性活躍の推進や、障害者雇用に取り組んでいます。そのほか、ワーク・ライフ・バランスの推進のため、仕事と家庭の両立支援制度を充実させたり、女性活躍推進委員会を設置したりと、積極的に取り組んでいます。
また、やりがい・働きがいのある職場環境づくりを実現するための「イクボス企業同盟」に加入しており、「イクボス養成講座」を実施するなど、経営者や管理職への研修・啓蒙にも努めています。
看護休暇や介護休暇を有給化|株式会社ズコーシャ
出典:株式会社ズコーシャ
株式会社ズコーシャでは、
・フレックスタイム制の導入
・子の看護休暇や介護休暇の有給化
など、ワークライフバランスに考慮した働き方改革を推進し、性別や年齢等を問わず全ての社員がライフステージにあわせて多様かつ継続的に働ける環境を整えています。
多様な人材が能力を最大限に発揮し、イノベーションを生み出し、企業価値の創造につなげていることが評価されています。
真の「多様性」実現のために企業がすべきことを考えよう!
ダイバーシティ経営を実現し、企業内に浸透させるのは簡単なことではありません。
経営層、マネージャー層と従業員が密にコミュニケーションを取り、表面的ではなく、真の「多様性」を受容した働き方や採用スタイルの整備を、長い目で見ながら行う必要があるでしょう。
すでに取り組みを続けて成果をあげている他社の事例などを見ながら、自社に取り入れたいダイバーシティ経営のあり方を考えてみてはいかがでしょうか。
