近年、人材不足がうたわれています。そんな中、個々の力だけではなく組織としての力が問われるようになってきました。組織力は一朝一夕で築かれるものではありません。人をどのように捉えるのかは、経営者やリーダーによって大きく左右されるのです。この記事では、組織力とは何なのか、経営者、責任者、一般従業員が考えるべきことは何なのかについて解説し、組織力向上のために必要なことを紹介していきます。

組織力という言葉が表す意味とは?
組織力と言われても、漠然としすぎていてよくわからない人も多いでしょう。組織力とは、組織がまとまって動くときに働く実行力のことを指しています。また、一つの目標のもとに人々を集めて動かす能力も、組織力だと言われています。
組織と集団の違い
組織と集団という言葉は似ていますが、意味の異なるものです。組織力を正確に把握する上で、この2つの違いをしっかりと知っておくことが大切になります。まず、集団とは、単なる「人の集まり」のことです。共通の目的を持っていなくて、人が多く集まっていればそれは集団になります。一方組織とは、人の集まりに共通の目的が加わった状態のことを言います。コミュニケーションを取って、その目的を達成しようとする集団が、組織なのです。
組織が成り立つための要件とは
組織を定義する上で、バーナードの「組織成立要件」が役立ちます。組織成立要件によると、共通の目的(組織の目標を共有)が重要になるとされています。共通の目的とは、組織の目標を各階層で共有し、個人が組織の目標を達成するために自発的に行動することです。組織が成立するためには、しっかりとした旗印があることが大切なので、目標を明確にしておくことが求められるでしょう。
コミュニケーションを深めることも重要です。意思伝達や情報交換をきちんとおこない、メンバー間の意思疎通を図ることによって、共通の目的に対する理解が深まります。円滑なコミュニケーションで、組織の目標達成に向けての情報共有や意思伝達をし、組織が進むべきベクトルを合わせることは、組織成立のためには欠かせません。
貢献意欲の高さも大切になります。貢献意欲とはその名の通り、組織のために貢献したいという気持ちのことです。構成員の貢献意欲が高い組織は、組織共通の目的を達成しやすくなります。リーダーには構成員に、組織のために働きたい、少しでも貢献したいと思わせるようなマネジメントをすることが求められるでしょう。
階層ごとに考えるべき責任と役割とは
組織力を強化するためには、階層ごとに考えるべき事柄が違います。階層ごとの責任や役割について詳しく見ていきましょう。
経営者に必要な責任と役割
経営者(企業のトップ)は、組織の方向性を示すことが重要です。会社の将来像をしっかりと見据えた上で、経営理念と方針を提示して、組織が目指すべき方向性を全従業員に示す責任があります。役割としては、目標を達成した後のイメージを示し、組織に浸透させることが挙げられるでしょう。経営戦略や目標とする将来像を、社内に示し、共有していくことが求められます。
責任者に必要な責任と役割
責任者、つまりリーダーなどのマネジメント層は、組織の方向性を実現するために、目標や戦略を考えてマネジメントをおこなうことが求められます。目標達成のための施策を考えるという責任があります。年度計画を作成するなど、目標を達成するための具体的な計画を練ることも責任者の仕事です。責任者には、組織が目標達成に向けて動くためのイメージを提示することや、従業員に目的をはっきり伝えていくという役割があります。
一般従業員に必要な責任と役割
マネジメントをおこなわない一般従業員の場合には、目標を達成するために、日々努力することが求められるでしょう。基本的には、共有された目標や計画に従って仕事をおこなっていくことになります。一般従業員の責任としては、目標達成のために日々努力したり工夫したりして仕事をこなしていくことが挙げられます。目の前の目標に向かってまい進していくことが重要です。また、会社の目標や目的の意図をしっかり受け取り行動に移していく役割があるのです。また、ときには健全な衝突(ヘルシーコンフリクト)なども、従業員一丸となって解決策を見出すきっかけになります。
経営者が考えるべき組織力の課題とは
経営者が考えるべき組織力の課題は、いくつか挙げられます。どのような課題があるのか、詳しく解説します。
組織の明確な方向性やビジョンを示しているか?
経営者が組織力を考えるとき、「組織のビジョンを示しているか」は非常に重要なポイントです。経営理念やクレド、行動指針がはっきりしていることは、組織力を高めるためには欠かせません。クレドとは、経営理念よりも具体的な行動指針のことで、従業員の業務や経営判断の基準となります。クレドは、個人的な目標とは違い、企業や組織全体に共有されるのが特徴です。共有するだけが目的ではなく、従業員それぞれの具体的な行動に落とし込むことが重要です。
組織の方向性やビジョンを明確にすることで、責任者や一般従業員が自発的に行動できるようになるでしょう。
組織の目標が具体的になっているか?
方向性やビジョンをはっきりさせた後は、そこに到達するための目標が必要になります。ビジョンや理念といった遠い将来の理想像だけを見て、そこに至るまでの目標がない状態だと、足元がおろそかになってしまうのです。そのため、方向性やビジョンを達成するために必要な目標を、具体的に掲げるようにしましょう。1年後、3年後、5年後、10年後というように、中長期的な目標を定めることが大切です。
教育の仕組みは整っているか?
組織力を高めるためには、教育の仕組みについてもしっかりと考えなければいけません。従業員が自発的に行動するためには、教育の仕組みは欠かせません。教育もせずにいきなり現場に放り込んだのでは、何をすればいいのか、何を求められているのかがわかりません。また、しっかりとした教育の仕組みがないと、退職率も高まりノウハウが継承されないことも考えられるでしょう。仕事の方法はもちろんのこと、会社の理念や方向性を共有するためには、きちんと教育することが重要です。
責任者が考えるべき組織力の課題とは
責任者にとって重要な資質は、自分が動くことではなく、組織を動かすことができる力を持っているかどうかです。責任者として組織力を高めていくためには、どのような課題と向き合えばいいのでしょうか。
PDCAを回す仕組みが定着しているか?
PDCAを回す仕組みが定着しているかどうかは、責任者としては気にしておきたいポイントです。PDCAとは、「plan(計画)・do(実行)・check(評価)・action(改善)」の頭文字を合わせたもので、企業の業績アップや効率のいい業務をおこなうためには欠かせないものです。組織が目標を達成するためには、日次、週次、月次などでPDCAサイクルを回していくことが重要になります。
しかし、そもそもPDCAを回す仕組みが定着していなければ、それもむずかしいでしょう。無理にPDCAを意識させても、うまくサイクルを回せずに成果を上げることが難しくなるのです。
精神論だけで強引に組織を動かそうとしていないか?
組織力を向上させたり目標を共有して努力したりするためには、精神論は必要です。しかし、精神論だけで強引に組織を動かすのは危険です。行き過ぎた精神論は、「思考停止」をまねく可能性があります。今までのやり方に固執し良い方法があったとしてもやり方を変えない、おかしいことに意見できない空気を作ってはいないか、振り返ってみましょう。思考停止状態になってしまうと、組織としての成長は見込めません。組織の成長が阻まれてしまえば、事業としても衰退していくことにもつながるので、精神論だけに頼らないように心がけましょう。
経営者のビジョンを組織に共有できているか?
組織の目標を達成するためには、従業員それぞれが自発的に動くことも重要です。従業員が自発的に動けるようにするためには、方向付けとして経営者のビジョンが共有できていることが必要になります。このためには、経営理念やクレドをしっかりと浸透させることが求められます。クレドを浸透させることによって、主体的に行動できる従業員を育成することができるので、経営者のビジョンやクレドが組織内でしっかりと共有できていることが重要なポイントになるのです。
一般従業員が自発的に行動できる組織力の課題とは
一般従業員が自発的に行動できることは、悪いことではありません。しかし、一般従業員が自分のことだけを考えていては組織としての成長は見込めないでしょう。組織の目的に向かって自発的に行動することが重要です。
経営者のビジョンが理解できているか?
経営者のビジョンがきちんと理解できているのかどうかは、一般従業員にとって大切です。組織には、経営者が考えるビジョンがあります。組織内で働くときには、個人個人が好き勝手に動いていては組織としての力は発揮できません。同じ方向に向かって、努力をしていくことが求められるのです。この際に、経営者のビジョンが理解できていなければ、同じ方向に向かうことができなくなってしまいます。
それを防ぐために、従業員それぞれが経営者のビジョンや方向性を理解できていることが重要なポイントになります。
組織の目標が理解できているか?
組織の目標が理解できているのかどうかも、大切なポイントです。組織には、責任者が設定した目標があるはずです。それをしっかりと理解することで、効率の良い作業ができるようになるでしょう。目標が理解できていれば、目標達成のためのPDCAサイクルをうまく回せるようになります。PDCAがうまく回るようになれば常に改善を図ることができ、目標達成までの作業がスムーズになるのです。
また、役割分担も明確になります。目標がはっきりと分かっていれば、どのような作業が必要なのかも明確になるため、それぞれの業務を分担しやすいのです。
自分自身の行動が組織の目標達成につながるか?
個人の行動が、組織の目標達成につながるようにマネジメントすることも重要です。個人を評価する上で、成績などは大きな影響があります。評価対象が個人の成績だけに絞られていると、組織の目標達成ではなく自分の成績を上げることだけに集中してしまいがちです。それを防ぐためには、評価対象に組織の成績を加えるといいでしょう。組織の成績も評価につながるとなれば、目標を達成するために組織に貢献しようという意欲が高まります。
目標達成のためのプロセスや組織改革につながるため、評価方法について改善することが大切です。
形だけの組織では問題解決が出来ない理由
組織力向上のためのセミナーや書籍が世間にはあふれています。しかし、そのようなセミナーなどがあっても組織の問題を解決できていない企業は多くあります。なぜ、問題が解決されないのでしょうか。その理由について、詳しく紹介します。
場当たり的な問題解決になっている
まずは、場当たり的な問題解決になっていることが挙げられます。何かしらの問題が起こった際、その問題を経営課題として捉えられない企業は少なくありません。そのため、経営改善としてではなく、その都度場当たり的な改善策を実施してしまうのです。その場限りの対応では、組織力は向上しません。
また、不適切な改善策を繰り返すことで、従業員のモチベーションが低下して、目標達成のために努力や工夫を怠ってしまうことも考えられるでしょう。成長のための効果の高い目標を設定することができないといったリスクもあります。
責任と役割が明確になっていない
責任と役割が明確になっていないことも、組織の問題が解決しない一因です。責任と役割があることで、人は具体的に行動することができます。責任や役割が不明確な状態が組織としての成長を阻んでいるのです。また、その状態が長く続くことで、従業員の意識にも悪影響を与えてしまう可能性があります。責任や役割が分からないままだと、なぜ自分がここまでしなければいけないのか、本当に自分がやらなければいけない仕事なのかというような不満を抱えてしまいます。
このような不満を解消するためには、部署や部門ごとにするべき仕事の範囲、役割などを明確にさせて、従業員に周知させることが必要になるでしょう。
ヘルシーコンフリクトができずイノベーションが生まれない
従業員それぞれのモチベーションを高めて、より良いパフォーマンスを発揮してもらうためには「心理的多様性」に配慮することが非常に重要です。そのためには、ヘルシーコンフリクト(健全な対立・衝突)を受け入れることが求められます。ヘルシーコンフリクトとは、信頼関係を前提にした対立や衝突のことを指しています。お互いに意見をぶつけ合い、ときには不協和音が生まれるような激しい議論をおこなうことで、組織が活性化するのです。
その結果、イノベーションが生まれることもあるでしょう。
しかし、日本の企業では昔から和を重んじる傾向が強いです。そのため、従業員間で緊張感のあるような議論や対立を嫌がる人は多くいます。ヘルシーコンフリクトがおこなえないため、イノベーション創出や効果的な問題解決の取り組みが生まれないのです。
組織力の強化に必要なコミュニケーションとモチベーション
組織力に必要なものは多くありますが、もっとも重要なのはコミュニケーションとモチベーションです。組織力を高めていくためには、経営者、責任者、一般従業員が同じ方向を向き、課題をクリアしていくことが重要になります。それぞれの階層で情報共有していくためには信頼関係がなければいけないので、コミュニケーションをしっかりと図ることが求められるのです。コミュニケーションが円滑に取れるような施策の実施が必要です。
また、目標を達成するためには、達成に向けてのモチベーションを高めることも非常に重要なポイントです。そうしたモチベーションを高めるためには、上司と部下のオープンな関係を構築することが大切になります。
組織力の向上につながる組織づくりのポイント
組織力をアップさせていくためには、組織づくりが重要です。組織づくりのポイントについて紹介していきます。
お互いを信頼しあえる組織となること
組織は人の集まりです。その中で個々が力を十分に発揮するためには、お互いに信頼しあえる組織を作ることがポイントになります。信頼関係がなければ、コミュニケーションはおろか目標共有もうまくいきません。そのため、お互いに信頼しあえて、企業で働く上で重要な報連相やコミュニケーションが円滑に図れるような組織を築くことが重要です。
経営者や責任者は成長のための失敗を認めること
事業活動において、失敗はつきものです。経営者や責任者は、失敗した場合にそれを受け入れることも良い組織づくりには欠かせません。失敗を過度に責めてしまうと、一般従業員は萎縮して積極的な行動ができなくなります。
そのため、経営者や責任者は失敗を受け入れて、そこからの学びに気づかせることに重きを置いて、個人や組織の成長を促すことが重要です。
新しいことを取り入れるための工夫をすること
新しいことを取り入れることも大切です。経営環境や市場は日々変化していますから、組織も常に進化していくことが求められます。新しいことを取り入れるための時間や工夫を惜しまないことでイノベーションが起こる可能性を高めることができます。
コミュニケーション力をアップして組織力を高めよう
組織も個人も常に成長をしていくものです。しかし、ときには停滞することもあるでしょう。停滞していると感じたら、どのような課題があるのか組織や個人を見つめなおすことが大切です。課題を見つけたときこそ、原点に立ち返って解決方法を探るといいでしょう。また、コミュニケーションの向上を図るための方法を見直すことも重要です。
