近年、少子化に伴い企業の人材獲得競争が激化し、売り手市場が続いているのが現状です。2021年以降、政府より要請されている新規卒業者を対象とした就活ルールによって企業側の意識改革や人材採用システムも変革の時代を迎えています。
今回は、現行の就活ルールの実態について理解を深めるとともに、企業に求められる対応や意識したいポイントについて解説します。
現行の採用スケジュール|就活ルール廃止から現在までの変更点
就活ルールとは、日本経済団体連合会(経団連)が企業への新規卒業者を対象とした採用選考の活動開始時期を定めていたものです。
ルールに沿わなくても特に罰則はありませんでした。そのため、企業説明会や採用面接の解禁日といったものが決められていたにもかかわらず、早期のインターンシップなどの実施で良い人材の発掘をすすめているケースもありました。また、IT企業や外資系は特にルールに縛られずに独自の採用活動を行っているところもあったようです。
このような背景もあり見直しが求められていた就活ルールですが、2018年10月、経団連は今後「採用選考に関する指針」を策定しない方針を表明しました。
出典:「就職・採用活動に関する要請」(内閣官房ホームページ)(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/shushoku_katsudou_yousei/index.html)(2024年05月13日に利用)
実際は、就活ルールの全てが廃止された訳ではなく、働き方が多様化している昨今において、採用選考活動のあり方から議論する必要があるという発表だったと言えます。
経団連による就活ルール廃止の決定後は、政府が主導となり就職・採用活動の日程ルールを毎年発表しています。政府が経済団体等に要請した2025(令和7)年度卒業予定者までの採用スケジュールは、以下の通りです。
“下記の就職・採用活動日程ルールを原則とする。
広報活動開始 :卒業・修了年度に入る直前の3月1日以降
採用選考活動開始:卒業・修了年度の6月1日以降
正式な内定日 :卒業・修了年度の10月1日以降
その上で、専門活用型インターンシップ(2週間以上)で春休み以降に実施されるものを通じて高い専門的知識や能力を有すると判断された学生については、そのことに着目し、3月から行われる広報活動の周知期間を短縮して、6月より以前のタイミングから採用選考プロセスに移行できることとする。”出典:「就職・採用活動に関する要請」(内閣官房ホームページ)(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/shushoku_katsudou_yousei/index.html)(2024年05月13日に利用)
つまり、2025年春入社の人たちまでは、経団連主導時代のルールとあまり変更はありません。政府は、学生が安心して学業や就職活動に専念できるために就職ルールを変更していないと考えられます。
就活ルールがいつ変更になるかわからない現在において、企業側、学生側ともに政府や関連機関の発表、メディアの報道などから就活に関する最新情報を積極的に収集することが重要です。予想外の変更に迅速に対応できるよう、柔軟性を持って対応できるよう準備を進める必要があります。
就活ルールが学生に与える影響
毎年更新される就活ルール見直しの煽りを受けるのは、当事者である学生たちです。
2025年卒業以降の学生たちは、就活ルール変更による不安を感じる可能性があります。就活スケジュールを立てづらく、本業である学業への集中が妨げられる可能性があるからです。
学生は、就活においてさまざまなストレスを抱えています。就活スケジュールが不透明になれば、ストレスはより一層増え、学業への妨げになってしまう懸念が生じるでしょう。就活に励む学生に対して、学業と就活の両方に集中しやすい環境を整えることが重要になります。
ルール変更で求められる企業の採用活動への対応
記事の前半部分で就活ルール廃止の実態をご紹介しました。就活におけるルールが毎年発表されるなかで、各企業は採用活動への柔軟な対応が必要です。
前提として、政府主導による就活ルールは厳守するべきであると考えられます。しかし、ルールがいつ大幅に見直されるかは予測できません。今後起こるかもしれないルール変更に向けて、企業が取り組むべき採用活動についてご紹介します。
自社にとって良い採用活動とは?採用システムの見直し
これまで新卒者向けに一括採用を行ってきた企業は、就活ルールが廃止、もしくは変更される場合、どのように進めていけば良いのでしょうか。
採用時期がある程度決まっていればリソースの配分を行うことが可能です。一年中採用活動を行える状態になった場合、企業は常に良い人材の獲得に向けて動き続ける必要があります。これまでと同じやり方をしながら期間を通年に伸ばせば、採用コストも高額になってしまう恐れがあります。
また、企業の採用担当者にとって一番大切なことは自社の成長に貢献できる良い人材を獲得することです。本来の目的を達成するためには、今の時代にあったやり方とは何か、自社の業種や欲しい職種がら、どのような採用システムを導入した採用活動が望ましいのか、見直しが求められます。
学業に配慮した採用スケジュールの設定
就活ルールの変更がなされ、採用活動の時期設定がなくなれば、採用スケジュールを決めたほうが良い企業もあります。
当たり前のことですが、学生の本分は学業です。良い人材に学生本来の目的である学業を果たした上で入社してほしいと考えるのであれば、学業に配慮した採用スケジュールの設定は欠かせない事項と言えます。
学生側の意識の問題もありますが、企業側の採用システムやスケジュールの設定が学生側に与える影響は大きいでしょう。
企業側が採用スケジュールを見直すことで、自ら考えしっかり自分と向き合うことのできた学生を採用できるようになる期待ができます。
インターンシップの受け入れ
インターンシップ制度は、学生が企業や組織で一定期間の実務経験を積むためのプログラムです。IT企業などを中心としてすでに導入している企業も多くあり、就職活動の早期化に伴い早くから良い人材と出会える点においてメリットとなります。
入社を検討している学生と企業のカルチャーフィットや、就いた職種が想像と違ったことでの早期離職を避けるためにも、インターンシップ制度は有用です。
前述した通り、一定の条件を満たした2025年度卒業予定の学生に対して、6月を待たずして採用選考プロセスに移行できると発表がありました。そのため、インターンシップ導入により、必要な専門知識や能力を持った人材を早く確保することが可能となります。
就活ルール変更で企業が意識したいポイント
採用活動がいつでも行えるようになることで、企業が学生と触れ合える期間は長期化し、企業はこれまで以上の対応が必要となるでしょう。
前述したインターンシップを導入する企業が増え、学生とのタッチポイントが増えることも予想されます。外面的なブランドだけではなく内面も常に学生の目に晒されることになります。
企業は、自社で働くことで従業員にとってどのようなメリットや体験、価値を生み出せるかをアピールすることが重要です。
動機付け要因の充実
モチベーション理論を提唱したFrederick Herzberg(フレデリック・ハーズバーグ)氏は、「人は働く上で、仕事内容や達成感、承認、責任、昇進、成長の可能性などの要因が十分あるときにモチベーションが高まる」と唱えています。
動機付け要因は、従業員に積極的な動機付けを行い、やる気を出してもらうための重要な要素です。具体策としては以下の項目を充実させる必要があります。
達成感を感じられる仕組みづくり
高度経済成長期、成果主義が台頭した時代もありましたが、社会の成熟度の高まりとともに金銭的な動機付けが必ずしも効果的ではないと感じるようになった人もいるでしょう。
現代では、職務上のやりがいや達成感が働くことのモチベーションとして機能していると考えられます。
to Cビジネスであれば、お客様と直接接しない部署へも日頃の業務がいかにお客様の満足度につながっているかを感じられるようなフィードバックを行います。to Bビジネスでは、今やっていることが社会のどのような課題を解決しているのかをいつも感じられる仕組みをつくることが大切です。
やりがいは、社員のやる気を大きく高めるでしょう。
納得感のある評価制度
昨今、人事や評価制度も明朗であった方がよりモチベーションも上がりやすいと考えられます。
システム的な制度の明朗化も必要です。一方で、評価のフィードバックを丁寧に行うなど、評価者が部下からの信頼を得ていること、従業員と密なコミュニケーションを取れているかもまた重要となります。
明確なキャリアプラン
ある程度の大きい企業になると数年に一度は人事異動がある場合も考えられます。そのため、納得できるような背景がないと「企業の都合ばかりで各部署を転々とさせられるのでは」といったような不安を学生が抱く可能性があります。少しでも不安を抱いてしまうと、積極的な動機付けは難しくなるでしょう。
学生に向けて、入社することで何が得られるのか、ゆくゆくどのようなキャリアプランが描けるのか、明確に提示することが必要不可欠です。
また、現代は将来設計を考えるとき、女性だけでなく男性も家庭生活に積極的な姿勢を取ることが求められる場合があるため、結婚、育児などのライフステージの変化も含めてどのようなキャリア形成ができるかを伝えることが重要なポイントとなります。
衛生要因の充実
動機付け要因に対し、会社方針や職場環境、給与、対人関係など要因が不十分なときに、人は不満足と感じることを衛生要因(または不満足要因)と言います。
衛生要因が十分だったからといって満足できるものではないのです。十分で当たり前と思われやすい部分だけに欠落すると早期離職につながりやすく、長期的な目で見たときに企業の負担が大きく膨らみやすいポイントとなります。
企業方針の明確化
事業を行っている目的が明確でない企業は、従業員の不満足を引き起こしやすいです。分業の進んだ大手企業でお客様から遠い部署であったり、まだ入社したばかりで業務を俯瞰して見ることをしづらい立場だったりすると目的を見失いやすくなります。
折に触れ企業として明確に方針を示していくだけでなく、きちんと従業員全員へ伝達できるような仕組みづくりが重要です。
働く上での安全性の確保
作業環境や労働条件が劣悪な環境で働き続けることは、モチベーションの低下を招く可能性があります。メンタルヘルス的にも問題視すべき点です。
就職前から企業の内面が学生の目に触れやすい時代だからこそ、採用時だけ取り繕うことは不可能でしょう。就職してくる学生に対してだけでなく、従業員全体にとって気持ちよく安心して働ける環境であることが重要です。
信頼できる上司
衛生要因のひとつとして「企業方針の明確化」をご紹介しましたが、一般の社員まで伝えていくのは上司にあたる人たちです。動機付け要因で重要となる「納得感のある評価」も、評価をするのは上司となります。
従業員からすると、信頼できる人が上司であるのが理想です。企業方針と上司の指示がちぐはぐであったり、上司が部下を選り好みし評価においても不公平感が出てしまうようでは信頼を得ることはできません。
上司も人間である以上、尊敬できる完璧な人となるのは難しいですが、部下にとってみれば「信頼できる上司」は動機付け要因ではなく、当たり前の存在という衛生要因であることを、意識する必要があります。
すでに自由な採用活動を行なっている企業事例
ベンチャー企業や外資系企業などでは、就活ルールに乗っ取ったスケジュールとは関係なく採用活動を実施している企業があります。
前述までは企業に求められる対応や企業が意識したいポイントをご紹介しました。ここではすでに就活ルールとは関係なく採用活動を行っている企業を事例とし、今後の採用活動のヒントをご紹介します。
独自の採用活動を展開|ユナイテッド株式会社
ユナイテッド株式会社が2017年に発表した、会社説明会から面接までをたった1日で完結させる「1日完結採用」は画期的です。
(参照:ユナイテッド株式会社「新卒採用において地方での採用を強化 ~独自施策『1日完結選考』を北海道・東北・関西・九州で実施~(https://united.jp/news/release/1017cc.html)」、記事更新日:2017/01/17、参照引用日:2024/05/04)
就活を1日で終わらせることができれば、移動や宿泊にかかる費用が削減され、学生の経済的な負担が軽くなります。また、学業への影響も最小限に抑えることができるため、学生は就活と学業の両立をよりスムーズに行うことができます。これにより、ストレスや不安が軽減された状態で就職活動に取り組むことが可能です。
就活ルールで変わる!企業独自の戦略的アプローチ
企業にとって、採用活動は重要な活動の一つです。売り手市場の昨今、政府が要請する就活ルールが変更になれば、企業の採用担当者は戦術変更が求められます。
学生に企業の価値や魅力を存分に感じてもらい、お互いにフィットした環境で仕事ができるために重要なのは、ルールによって煽りを受ける戦術よりも、むしろ企業としての独自戦略と言えるでしょう。
今一度、自社にとって必要なのはどのような人材か、求める人材が働きたい、働きやすいと思う環境とは何かを見直し、戦略を立て直してみてはいかがでしょうか。