近年「働き方改革」が各所で取り上げられ、労働者の働く時間やオフィス環境など、職場環境の様々な要素が注目されてきました。今や働きやすい職場を作ることは、どの企業も必須だと考えられているのではないでしょうか。
しかし、dodaの調査によると、転職者の求人倍率は2.36倍となっており、転職市場の拡大が後を立たたないようです。こうした現状を考えると、まだまだ各企業が労働者の働きやすさに直結する、職場環境の改善には余地があるのではないかと考えられます。
ここでは職場環境の改善に向けて、そもそも職場環境とは何かをおさらいした上で、職場環境を改善する3つのポイントについて紹介します。

職場環境とは?3つの環境に関する条件
職場環境とは、労働者が就業する職場の環境諸条件のことをいいます。
具体的には以下の3条件があります。
① 気候条件
職場の温度、湿度、風速、気圧、コピー機などの機械による放射熱など
② 物理的条件
照明、色彩、振動、粉塵、彩光、超音波、有害放射線など
③化学的条件
ガス、蒸気、液体または固体由来の有害物質、においなど
「空気が淀んでいる」
「機械音がすごく響きわたる」
「食べ物のにおいが漂っている」 などなど…
社員の不満に繋がるこうした要素は、心身の健康を害す恐れがあります。これではせっかく働く社員もイキイキと働くことは難しいでしょう。
逆に良い職場環境では、社員が心身ともにイキイキと働くことができ、効率や仕事の質の向上、ひいては業績の向上にも繋がります。そのため、職場環境の改善を試みることは社員個人にとっても企業にとっても非常にメリットがあります。
また、近年ではこれに職場の「人間関係」も条件だとする考え方も存在します。例をあげると、
「雑談がしづらい」
「有給休暇が申請しにくい」
「育休が取りづらい」
「ピリピリした雰囲気」 などなど…
これらも社員の心身の状態に影響するとして問題視されています。
職場環境改善の効果とは
職場環境改善の大きな効果は、従業員の抱えるストレスが軽減されることです。ある調査では、企業が職場環境改善を行ったことにより、従業員のメンタルヘルス不調の発生が減少したとの報告もあります。
個人を対象にしたストレス対策に加えて職場環境改善を行えば、健康状態の改善やストレスの解消などが期待できるでしょう。その結果として、従業員の仕事のパフォーマンス向上も見込めるため、職場全体として生産性がアップする可能性があります。会社の業績をあげるためにも、職場環境の改善は重要なポイントのひとつであることを認識しておくべきです。
職場環境の条件
職場環境を考える上で、まずは職場環境に関係する法律と、それに基づいた快適職場指針というものがどういったものかも押さえておきましょう。
法律で定められている配慮義務
職場環境に関係する法律は、昭和47年に労働安全衛生法という法律が定められました。
この法律の第3条には、「事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。」とあります。
つまりこの法律では、職場での労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境の促進と形成を目的とした内容となっています。
快適職場指針
また、上記の法律に基づいた配慮が実際にきちんとなされるように「快適職場指針」が平成4年に定められました。この指針では、具体的に考えるべき項目を「作業環境」「作業方法」「疲労回復支援施設」「職場生活支援施設」の4項目に分けて記載しています。
内容としては以下の通りです。
1,作業環境
不安となることがないように、きれいな空気の確保、適切な室温や湿度の維持、明るすぎず暗すぎない調光など。
2,作業方法
労働者への心身の負荷の影響を考え、不自然な姿勢の改善や、大きな負荷がかかる力作業の見直しなど。
3,疲労回復支援施設
疲労やストレスなどを癒せるように、リフレッシュルームや相談室、作業後のシャワー室などの設置や整備。
4,職場生活支援施設
職場で快適に過ごせるような、清潔なトイレや洗面所、食堂、給湯室や談話室などの設置や整備。
この他にも、継続で計画的な取り組みや、労働者の意見の反映、個人差への配慮、潤いへの配慮が、考慮すべき項目とされています。
良い労働環境を考えるポイント
それでは、実際に良い労働環境とは何かを考える上で、以下の3つのポイントについてまず検討してみてはいかがでしょうか。
①自社の分析
自社に今何が足りないのか自分なりに分析してみましょう。
4つの要素「作業環境」「作業方法」「疲労回復支援施設」「職場生活支援施設」について自社が何をしているか・何が不足しているか書きだしてみましょう。
書きだしてみると、
「あっ、こんな制度ないな」
「うちの会社ってここがいい所だよね。でもこうしたらもっと良くなるな」
など、思ったより薄い所と逆に力をかけられている所などが客観視できます。
もちろん、自分が働いていて不満に思うことや満足している所を考えてみるのも参考になるでしょう。
②職場アンケートの実施
自分で考えてみるのはもちろん大切ですが、自分では気づかないところが他の社員にとっては不満だった!なんてことも。。
そうなっては社員全員のための労働環境にはならないですよね。
より客観視するために、アンケートを実施してみましょう。
ただし、個人が特定されるような状況だと本音で話せないことも出てくるので、匿名で回収できるようにするなどの配慮は大切です。
また、得たアンケートと自己分析の結果を照らし合わせてみて重なるところは本当に重要な項目だと考えることもできます。
例として以下のような項目が挙げられます。
・労働時間は適切か
・休憩時間は十分か
・意見を言える場所や機会はあるか
・(室温や騒音など)快適に業務に取り組めるか
・(力作業や精神衛生上)無理な仕事の仕方をしていないか
・トイレや作業場は清潔に保たれていると思いますか
労働時間や実際に業務する環境、制度など、包括的な内容で作成してみましょう。
③他企業を参考にしてみる
「他人の振り見て我が振り直せ」ではないですが、意外とどの企業も悩みは同じ…なんてことも。また、自社では出てこなかった斬新な制度や環境作りをしている企業もあるので参考にしてみると良いと思います。
厚生労働省職業安定局による「働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査」では、労働時間や仕事のきつさなどを定量的にみることができます。また、Great Place to Work® Institute Japanが行う「働きがいのある会社」ランキングに掲載されている企業を参考にするのも良いのではないでしょうか。
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職場環境改善のための具体的なアイデア
職場環境改善のためには、企業の具体的なアイデアを参考にすることが有効です。
業務・勤怠管理をしっかりと行う
たとえば残業代未払い防止のためには、勤怠記録をしっかり管理することが大切です。勤怠記録を「見える化」するために、インターネットを利用した勤怠管理システムを導入するという選択肢もあります。
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残業を減らす
業務効率化の一環として、残業時間を減らす試みも必要です。それには、会議やメールなど1つ1つの業務・ツールについて「本当に必要なのか」を問うといいでしょう。
さらに本当に必要な場合であっても、例えば会議なら参加人数や時間を見直す、結論を出すことを必須とする、などの改善策が挙げられます。見直しを行ったものはその後効率が上がったかを検証し、従業員の意識に影響があったかについて分析することも大切です。
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人事評価
人事考査の見直しも重要です。従業員への人事考査が適切でない場合、働く意欲へも影響しかねません。
具体的には、評価の基準は公平で周知されているか、評価が報酬に結びついているか、といった点などの見直しが必要です。
有給休暇を取得しやすい環境の整備
有給休暇についても、制度はあるものの実際には取りにくい状況であれば改善したいものです。1日だけでなく連続で有給休暇を取ると、特別休暇が与えられる制度を導入した企業もあります。有給休暇の取得率がアップすれば、従業員がリフレッシュしやすくなり、働く意欲も向上するのではないでしょうか。
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コミュニケーション活性化
従業員同士のコミュニケーションの機会を積極的に設けることも、職場環境改善になります。株式会社OKANが全国の働く男女3,760名を対象に行った調査によれば、人々が働くうえで最も大切にしているのは「気軽なコミュニケーションができる環境」「良好な人間関係」という結果に。
たとえば、定期的にランチ代を支給して、従業員同士がランチに出かけるよう促進する施策もおすすめです。食事をしながら会話が弾めば、仕事の際もスムーズにコミュニケーションをとれるようになるメリットがあります。
さらに、少し長めの休憩時間を取り入れる企業もあります。あらかじめ指定した曜日で、昼食後の数時間を休憩に費やせるようにすると、従業員は休息や運動など思い思いの過ごし方でリフレッシュでき、仕事による疲労が蓄積されにくくなります。このような実例を参考にしつつ、柔軟に取り入れていくことができれば、職場環境改善は順調に進むことでしょう。
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福利厚生サービスを活用する
職場環境を整えるために、福利厚生を活用する方法もあります。
オフィス内で提供されている福利厚生サービスには以下のようなものがあります。
・食事サービス
・オフィスコーヒー
・オフィスマッサージ
・オフィスチェア購入
このようなサービスを活用することで、職場への満足度を高められることができます。
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職場環境改善に取り組む際の注意点
職場環境改善に取り組む場合には、効果的な改善策を打ち出すために注意しておきたいポイントがあります。
まず、担当者を決めてマニュアルを整備し、随時見直しを行いながら継続的に取り組むことが必要です。長期的な計画のもとに行われなければ、改善の成果は明確にならないでしょう。
また、職場環境改善では、従業員の意見をできるだけ反映させなければなりません。そのためには、従業員が意見を出すことができる機会を用意する必要があります。
さらに、従業員の年齢や好みはさまざまで、快適と感じる環境には個人差があることにも注意すべきです。室内の温度や空調、照明などについても、個別の配慮をすることも大切でしょう。職場環境改善で求められるのは、従業員全員の快適さを基本としながらも、一人一人への配慮も忘れずに対応する姿勢です。
企業事例
長い休憩制度「シエスタ」の導入|株式会社HUGO
働き方の情報を提供するプラットホームである瓦版によると、同社では、生産性やモチベーション向上のために、水曜以外の平日13:00~16:00を長い休憩時間として導入しているそうです。昼寝はもちろん、映画観賞やトレーニングなども。同社の業務がインターネットコンサルティングで、集中力とアイデアが必要とされていることを背景に、導入に踏み切ったそう。
仕事中では煮詰まったアイデアがふと浮かぶようになった社員や、欧州の有名企業での顧客契約の獲得など、社員の生産力の向上に繋がっているそうです。3時間は日本企業ではなかなか難しいかもしれませんが、昼寝時間の確保やリフレッシュタイムの導入など、しっかりと脳を休めることは大切だと考えさせられます。
目安箱の設置|株式会社サイバーエージェント
同社は急成長・拡大によって現場の状況を把握しづらくなったことを背景に、会社の問題点、改善案、抜擢の提案に至るまでの様々な内容を、藤田社長に目安箱のようにメールで送信する制度を導入しました。
組織が大きくなるにつれて会社への意見はなかなか上司の耳には入らないもの。直接表現できる制度があるのは社員の考えを知る上で重要ではないでしょうか。
連続休暇を取得しやすい環境作り|株式会社三菱ケミカルホールディングス
有給の制度は数多くの会社に存在していますが、その平均取得率は50%を下回るといった現場があります。「繁忙期にはなかなか…」「上司が全然休んでいなくて…」など、会社にも起因するようです。同社でも、そうした理由で連続休暇の取得率が上がらないことが課題としてあったそうで、年次有給休暇を2日以上連続で取得すると、“おまけ”として特別休暇が付与される「ライフサポート休暇」という制度を導入。
有給取得率は85%まで増加した他、「単発の有給と異なり、長期休暇の場合は自分で休暇の過ごし方を考えるようになる。」「職場では、スムーズに休みを取るために、誰がどの期間に休むかなどの相談や、仕事の引継ぎが自然と出来、チームで仕事をするという意識が芽生える。」など好評だったそうです。
自社にマッチするかの視点をお忘れなく
ここまでで職場環境改善に向けてのポイントや他企業の事例を紹介しました。1番大切なのことは自社の労働者にとって本当に良い労働環境とは何かを考えることです。
まずは分析やアンケートから自社の労働環境を把握してみると良いでしょう。そしてその上で、他の企業がどういう背景で取り組んでいるかを良く確認し、自社の社員にも当てはまるかどうか、実現可能かどうかを十分に検討した上で取り入れてみるのはいかがでしょうか。
