健康経営銘柄、健康経営優良法人などの認定制度が注目され、企業が主導して従業員の健康をサポートする「健康経営」。
新型コロナウイルス流行下においても、健康経営の効果は発揮されている調査も発表されました。(詳細は以下)
では、健康経営を行うことで、企業の投資対効果はどの程度なのでしょうか。国内外の先行研究・健康経営に積極的な企業事例をもとに、健康経営のインパクトをご紹介します。

健康経営とは?
健康経営は、1992年にアメリカの心理学者ロバート・H・ローゼンが自身の著書によって提唱した概念です。
従業員の健康管理を企業が取り組むべき経営上の問題と捉え、積極的に健康増進への取り組みを行っていく経営手法のことをいいます。
英語ではHealth and Productivity Managemen、企業・組織の従業員の健康(Health)と生産性(Productivity)の両方を同時に追求していくことを指します。
※健康経営は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
詳しくはこちらで解説しています!
健康経営とは?メリットや成功に導くポイントを解説!
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コロナ禍における健康経営の影響
コロナ禍により、健康を重要視する動きが加速していますが、実際に健康経営に積極的に取り組み、健康経営銘柄・健康経営優良法人の認定を受けた企業は、どのような影響があったと考えているのでしょうか。
健康長寿産業連合会の調査によれば、
健康経営銘柄2020、健康経営優良法人2020等の認定を受けた企業(以下、認定企業)とそれ以外の企業(以下、未認定企業)との比較では、「認定企業のうち75%が良い影響があった」と回答した一方で、未認定企業では42%でした。
良い影響があった要因として、主に「ヘルスリテラシー向上による自発的な健康管理」、「従業員の健康に対する組織だった対応」、「アプリやオンライン面談などの遠隔で施策を実施する体制」が挙がりました。
これまで健康経営の取り組みを実施してきたことで、新型コロナ流行への対応について、良い影響を及ぼしたことはありましたか?
参照:新型コロナウイルス流行下における健康経営の取り組み状況に関する調査結果を公表
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期待される効果
健康経営の効果としては、まず従業員が健康で長くイキイキと働くことができるということが挙げられます。さらにいえば、短期的効果・長期的効果に分けることができます。
短期的効果
・従業員の健康増進/意識改善
・組織の活性化
・生産性向上
・人材の定着/離職率低下
・優秀な人材の確保
長期的効果
・業績向上
・企業イメージの向上
健康経営の効果検証
短期的な効果は見られるものの、予算・費用をかけて取り組むからには、長期的効果である「業績の向上」はどのぐらいのインパクトがあるの気になるところです。
そこで、先行研究、実践企業の結果から健康経営の費用対効果をご紹介します。
①【海外】健康経営と企業業績の相関関係
欧米諸国の実証研究の一つ、「Raymond Fabius, et al.(2013)」をまずご紹介します。
米国における優良な健康経営認定企業に対して1万ドルを投資した場合(実線)と、米国の上場企業平均値として、S&P500(上場された代表的なスタンダードアンドプアーズ 500 株価指数)に平均に1万ドルを投資した場合(破線)との十数年後における投資成果を比べました。
1999 年時点における1万ドルの投資が、13年後の2012年には、優良健康経営認定企業は 17,871ドル余になっているのに対し、S&P500は 9,923 ドル余に留まっており、
優良健康経営認定企業は米国の大企業平均を上回るパフォーマンスを上げていることがわかりました。
これは必ずしも、「健康経営に取り組む企業は業績が良い」という因果関係はこのデータだけでは不明です(業績がいいから健康経営にも熱心だという逆の因果関係を示唆している可能性もある)。しかし、少なくとも健康経営と企業業績の間には一定の相関があることが言えます。
健康経営に力を入れている企業は、金融機関からの融資時の判断材料になるなど、企業を運営する上で、一定の効果もあります。
参考:https://www.myri.co.jp/publication/myilw/pdf/myilw_no95_feature_2.pdf
②【日本】健康経営と企業業績の相関関係
海外と同じような結果は、日本でも出ています。
健康経営度調査における上位評価20%の企業の株価時価総額を見えると、TOPIX(東証株価指数)の平均を上回る水準で推移しています。
このことから、
健康経営に力を入れている企業は、業績も良いという一定の相関関係が国内企業でもあることがわかりました。
参照:https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12401000-Hokenkyoku-Soumuka/0000171483.pdf
③健康投資に対する費用対効果
ジョンソン・エンド・ジョンソンが発表した資料をみると、健康経営の投資のリターンを計算していました。
同社に所属する医療担当専務取締役であるフィクリー・アイザック博士は、グループ会社250社で働く約11万4000人の従業員に健康促進プログラムやワークライフバランス支援を実施した結果、
「1ドルの健康投資に対して約3ドルの成果に繋がった」
と発表しました。
参照:https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/shoujo/kenko_toushi_joho/pdf/001_04_00.pdf
④健康状態がどれくらい経済損失に繋がっているか
日本における健康経営の先駆け企業であるDeNA。社内で健康を推進する専門部署CHO室に平井氏によれば、
「DeNAが健康経営に取り組んだ背景には、社員のプレゼンティーイズムが低下していたという背景があります。以前、健康に関するアンケートを社員に実施したところ、睡眠に悩みを抱えていたり、腰痛持ちであったりと、健康を損なうことで生産性が低下している社員が多いということが明らかになりました。このような
プレゼンティーイズムの低下による損失は、23.6億円と推計しています。
そこからDeNAでは健康経営に対する問題意識が高まりました。」
プレゼンティーズムは、体調や心身が不調にもかかわらず会社に出勤することによって、本来持っている遂行能力が低下し、パフォーマンスを充分に発揮しきれない状態を意味します。
企業が従業員の健康をサポートすること、この損失を少しでも減らすことに繋がるでしょう。
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⑤健康リスクによる一人あたりの損失
経済産業省が社員の健康に関するコストと個人の健康の関係を調査した結果、
健康関連リスクの高さによって一人あたり30万円程度の損失が発生するとわかりました。
出典:経済産業省 『健康経営の推進に向けた取り組み』
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⑥従業員のメンタルヘルスと利益率との関係
経済産業研究所の研究プロジェクトによれば、従業員規模100人以上の451企業に対し、メンタルヘルスの不調が企業業績に与える影響を検証。
メンタルヘルス休職者比率の上昇した企業は、それ以外の企業に比べ、中期的に売上高利益率の落ち込みが大きいことがわかりました。
メンタルヘルス休職者比率は2年程度のラグを伴い、売上高利益率に有意に負の影響を与えているようです。
従業員全体に占めるメンタルヘルス休職者比率は平均でみると1%未満と低い。しかし、休職者が多い企業ほど業績を押し下げているとの結果が示されたことは、水準自体は低くてもメンタルヘルスの休職者比率が労働慣行や職場管理の悪さの代理指標あるいは先行指標になっていると解釈することもでき、メンタルヘルスの問題が企業経営にとって無視できないものとなっているといえよう。
参考:RIETI – 企業における従業員のメンタルヘルスの状況と企業業績-企業パネルデータを用いた検証-
⑦ヘルスプロプロモーションの実施で得られるもの
ヘルスプロモーションとは、WHO(世界保健機関)が1986年のオタワ憲章で提唱し、2005年のバンコク憲章で再提唱した新しい健康観に基づく21世紀の健康戦略で、「人々が自らの健康とその決定要因をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」と定義されています。
このヘルスプロモーションに取り組むことで、ROI(投資収益率)は平均を推移していますが、
従業員の欠勤数、手当などを削減できるという研究もあります。
