日本の人口構造の急激な変化により、2030年にはさまざまな問題が生じると予想されています。日本社会はどのように変化し、それに対して企業は何をどのように備えておけばよいのでしょうか。
この記事では2030年問題とそれに関連する2025年問題、人手不足が特に深刻な業界、いまから企業が対応しておくべきことについて解説します。

2030年問題とは?
出典:総務省「我が国の高齢化の推移と将来推計」
2030年問題とは、2030年に日本の人口の1/3が65歳以上の高齢者になる超高齢化によって引き起こされるさまざまな問題を指します。
国立社会保障・人口問題研究によると、2010年には約1億2800万人だった日本の人口が2030年には約1億1600万人に減少すると推計。これは出生率が下がり高齢者が増えていくことを意味しており、生産年齢人口と呼ばれる15歳〜64歳の人口も減少すると推計されています。
生産年齢人口が減少するとGDPの低下につながり、日本の国際的な競争力も低下するリスクも。GDPが低下すれば国の財源も確保できなくなり、高齢者を支える社会保障も破綻する可能性も否定できません。
ここからは2030年問題によって生じる事象について、データを交えて解説します。
日本人口の約1/3が65歳以上の高齢者になる
出典:国立社会保障・人口問題研究所
前述のとおり国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2010年には約1億2800万人だった人口が2030年には約1億1600万人に減少し、65歳以上の高齢者人口は約3700万人に増加、高齢化率(総人口における65歳以上人口)は約31%になると推定されています。
内閣府の資料によると国連の報告書では高齢化率が7%を超えると高齢化社会、14%を超えると高齢社会と呼ばれており、2030年の高齢化率31%は超高齢社会に突入するといえるでしょう。
次に他の国データと比べてみましょう。
出典:国立社会保障・人口問題研究所
人口学では65歳以上の高齢者率が人口全体の7%を超えると「高齢者社会」、14%を超えると「高齢社会」とよびます。上記の図で日本の数字を確認してみると、1970年には高齢化社会になり1994年には高齢社会を迎えたことが分かります。
たった24年でこのように進むのは世界でも日本だけで、アメリカは72年、ドイツは40年かかっているのです。このように日本は世界の中でもトップスピードで高齢化率が増えていることが分かります。
生産労働人口が減少する
出典:総務省
人口推移のうち、生産年齢人口(15歳〜64歳)は経済・労働環境を考える上で特に問題となります。2010年に約8000万人以上だった生産労働人口は2030年には約6700万人にまで低下。生産労働人口率は2010年に約63.8%から2030年には58.1%にまで低下するのです。
つまり、人口が減少する以上に生産年齢人口が大幅に減少。これは高齢者を支える社会保障制度にも影響し、2010年には生産労働人口約2.8人で高齢者1人を支えてきたものが、2030年には約1.8人で1人を支える計算になります。つまり高齢者を支える働き手世代の割合が猛スピードで減っていくということです。
日本のGDPが減少する可能性がある
生産年齢人口の減少は、経済規模や労働市場の縮小に直結します。その影響は具体的に日本のGDPにどう影響するのでしょうか。
GDPとは国内で1年間に生産されたモノやサービスの付加価値の合計のことを指します。つまりGDPは「労働者数、労働時間、労働生産性」が関連しており、どれかが増えれば向上し、反対に減少すれば低下してしまいます。
これまでの推計から生産年齢人口が大幅に減少するのは確実です。また、働き方改革などにより労働時間も減少しています。そのため労働生産性を向上させなければ日本のGDPの減少は避けられないといえるでしょう。
また、GDPが減少すると国の財源が縮小するため社会保障サービスの改悪や破綻のリスクも可能性として考えられます。
2030年問題に深く関わる「2025年問題」
2025年問題とは、戦後の第1ベビーブームだった1947年〜1949年に生まれた団塊世代が75歳以上の後期高齢者になるタイミングで引き起こされるさまざまな問題のことです。
問題は大きく「医療費・介護・年金」の3つに分けられます。2025年問題の延長線上に2030年問題があるため「どのような問題が起こるのか」「企業にはどのような影響があるのか」をしっかりと確認しておきましょう。
医療費が急激に増加
出典:厚生労働省
高齢になると健康に何らかの支障ができきて病院に通う人も増えます。厚生労働省の資料によると、医療費約43兆円のうち約60%が65歳以上の高齢者が占めています。
高齢者が急激に増加することで社会保障費が圧迫されることはもちろん、地方を中心に医師や看護師不足による医療体制にも支障がでると懸念されています。
介護サービスの需要が急増
次に介護の問題です。日本では高齢でも元気に活躍する人もいますが、男女ともに75歳という年齢が健康寿命の節目を迎えるタイミングだといわれています。
つまり健康寿命を迎えてから平均寿命を迎えるまでの約10年間、何らかの介護が必要な期間があるのです。前述のとおり2025年には団塊の世代が75歳以上になることで、介護が必要な高齢者と介護をする人の需要と共有のバランスが大きく崩れる可能性があります。
また、介護が必要になった場合に介護サービスなどの制度を利用したくても、介護サービスの担い手がいないという状況が起こりかねません。
年金受給者の増加
出典:財務省
年金も深刻な問題のひとつです。2025年には医療費で約8兆円、介護で約5兆円、年金で約3兆円の増加がみこまれており、年金支給開始年齢の引き上げや定年延長、高齢者雇用の推進などを行いながら社会保障の負担を軽減させる動きがあります。
2025年問題が引き起こす企業への影響
2025年問題は企業経営にも影響する可能性があります。まず医療費や年金の財源が圧迫されることによる、企業の社会保険料率の引き上げです。
また、介護問題も多大な影響を及ぼします。介護は突然はじまるといわれており、従業員の家族が要介護状態になれば準備期間なしに介護と仕事を両立せざるをえない従業員が出てくるでしょう。その際、多様な働き方ができる制度や介護と仕事を両立しやすい雰囲気がなければ、せっかく育てた従業員が介護離職してしまう可能性があります。
採用をするにも人手不足のため、人材の採用は困難になっています。一度採用した従業員を自社で長く働いてもらう施策も今後は重要です。
業界別の現状
パーソル総合研究所の「労働市場の未来推計2030」によると、2030年の労働需要が7073万人に対し労働供給が6429万人で644万人不足すると推計されています。
さまざまな業界で深刻な労働力不足に陥る中でも、特に急いで対策が必要な業界は以下の5つの業界です。
・航空業界
・IT業界
・観光業界
・介護業界
・建設業界
ここからは各業界がなぜ人手不足になっているのか理由も交えて解説します。
航空業界
政府の発表によると航空業界では2023年頃から約8000人の人手不足が見込まれています。
また、2030年頃にはベテラン機長らの定年と重なり大量退職が見込まれています。パイロットの育成には1人数億円かかることから、不景気だった時代に採用や育成を見送らなければならなかったという事情も影響しています。
IT業界
経済産業省「IT人材育成の状況等について」によると、2030年には40〜80万人のIT人材が不足すると推測されています。
今後もクラウドやビッグデータ解析loT、AIなどの分野での需要が急速に拡大していく一方、現在のIT人材は高齢化を辿っています。このギャップから大量のIT人材が不足する事態になっているのです。
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観光業界
2030年の観光業界の目標値は訪日客数6000万人、消費額15兆円です。現在は新型コロナウイルスの影響で観光業界は一旦需要がストップしていますが、状況が落ち着けばまた観光需要は回復するとみられています。
また、新型コロナウイルスの影響で観光業から離れた人材も多いことから、需要が回復した際の深刻な人手不足が心配されています。
介護業界
65歳以上の高齢者が人口の30%を超える日本において、介護サービスの需要はますます高まります。しかし、現時点でも介護サービスの担い手が不足しており、介護サービス業に従事する外国人労働者の受け入れや介護ロボットの導入などが検討されています。
建設業界
建設業界の人手不足の理由は3K(きつい・きたない・危険)というイメージから若手新規労働者が増えないことと、ベテラン技術者の高齢化があげられます。
建設業界は現在でも人手不足ですが、ヒューマンタッチ総研の独自調査によると、日本経済が順調に成長を遂げれば2030年には建設技術者が約9万人が不足するといわれています。
出典:ヒューマンタッチ総研
業界全体で長時間労働の見直しや福利厚生の充実などの施策が実施されていますが、なかなか人手不足解消には至っていません。
2030年問題にそなえて企業が持つべき視点
2030年に向かうにつれ、深刻な労働人口減少が進むことをお伝えしました。
企業は2030年問題に備えて、いままで以上に既存の従業員に健康で長く働いてもらう「リテンションマネジメント」の視点で考えることが必要になります。
リテンションマネジメントを実施することで自然と多くの人が働きやすい環境が整い、新規採用のアピールにもつながり人材を確保しやすくなるでしょう。
ここからは具体的にどのような視点が必要か解説します。
従業員が働きやすい環境を整える
働きやすい環境づくりとは、風通しのよい雰囲気や時間・場所にしばられない働き方などがあげられます。
風通しがよい職場では従業員同士のコミュニケーションが活発になり、職場の雰囲気もよい傾向に。その結果仕事の効率があがり、生産性がアップにつながりやすくなります。
また、新型コロナウイルスの影響でテレワークを導入した企業が増え、通勤時間を睡眠に当てられるようになったという声も。自分のペースで時間や場所にしばられず仕事ができることで従業員の健康増進にもつながっているのです。
このような働きやすい環境が整っていることで介護・育児・通院などと仕事の両立が実現しやすくなり、離職率を下げることも期待できます。
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柔軟な働き方の制度をつくる
労働人口が減少する中で優秀な人材を採用し、既存の従業員に長く働いてもらうには、育児や介護・配偶者の転勤など、従業員の多様なニーズに合わせた柔軟な制度を導入する必要があります。
たとえばフレックスタイム制度・時短勤務・テレワーク ・パラレルワークOKなど、働き方の多様化を受け入れ促進することで優秀な人的リソースを確保しやすくなります。
女性活躍を推進する
出典:厚生労働省
労働人口の減少により労働力不足に陥っている日本では、女性が働き手として社会に参画することが急務になっています。
では女性の労働力を増やすにはどうればよいのでしょうか。その答えの1つに、女性の労働力をグラフ化したときに25歳〜49歳の間に現れる「M字カーブ」をいかに解消するかがポイントです。M字カーブが現れる要因として出産育児のための離職があげられます。
この問題を解決するには、時短勤務制度の導入、育児中の従業員が働きやすい雰囲気づくり、子どもの看護休暇の導入などの施策が有効です。
また、国も女性活躍推進法を施行し働くシーンで女性がもっと活躍できるように推進しています。その背景には少子高齢化による人手不足、ライフステージの変化による女性の離職率の高さ、企業内での人材の多様性が必要などの理由があります。
女性活躍推進に取り組む企業には「えるぼし認定」「くるみん認定」などに認定され、採用活動でのアピールにもつながるほか、えるぼし認定企業は過去に各府省などが総合評価落札方式もしくは企画競争による調達によって公共調達を行った際に加点評価するよう定められました。
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福利厚生を充実させる
福利厚生制度が充実している企業は、業務を行う環境そのものだけでなく従業員の健康や食事、生活などさまざまな側面から従業員を大切にしてくれます。その結果、従業員自身は健康な状態で仕事に取り組めるため、生産性があがり企業にとってもプラスになるのです。
具体的な福利厚生の例として、社宅・寮・健康診断や人間ドック・社員食堂など、従業員の健康や住環境に関わる制度を充実させることが従業員の働きやすさにつながるでしょう。
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従業員満足度をあげる
従業員満足度とは、職場環境や人間関係、仕事のやりがい、福利厚生、給与などで計測される従業員の満足度のことを指します。人手不足が深刻になりつつある現在、一度採用した従業員に長く働いてもらうには従業員満足度を向上させる必要があるのです。その他にも従業員満足度があがれば企業への貢献度も向上する傾向があることが分かっています。
それが、従業員満足度をあげれば企業の業績が上がる「SPC(サービス・プロフィット・チェーン)」というフレームワークです。
はじめに従業員満足度を高めると、それに伴って顧客満足度が上がり、企業の業績がアップするというもの。その結果、企業はさらに従業員に投資し好循環がうまれるのです。
SPCの循環についてくわしいステップは以下のとおりです。
1.福利厚生の充実など、企業から従業員に対するサービスの品質が高まると従業員満足がアップ
2.従業員の「企業に貢献したい」という気持ちが高まり生産性が向上
3.従業員が提供するサービスの品質がよくなる
4.顧客からの評判があがる
5.顧客のサービス利用度があがる
6.企業の売上が向上し、利益が増える
7.企業は従業員に対する福利厚生をさらに充実させる
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健康経営に取り組む
厚生労働省が公表した「令和2年版厚生労働白書」によると、今後はますます少子高齢化が進むため労働人口の減少が深刻になると推計されています。
「一度採用した従業員には健康を保ってもらい、できるだけ長く自社で働き続けてもらうことが大切だ」と経営者が気付きはじめたため、健康経営に取り組む企業が増えています。
健康経営とは従業員の健康サポートを企業が取り組むべき経営上の戦略と捉え、積極的に健康増進への取り組みを行っていく経営手法のことです。
健康経営に取り組むと以下のようなメリットがあります。
・企業価値が高まり企業イメージアップ
・従業員の生産性向上
・リスクマネジメントが可能になる
・従業員の離職率が低下
このように健康経営に取り組めば採用活動時に企業イメージがアップさせ、既存の従業員が健康で長く働ける仕組みを作ることができます。
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人材育成に力を入れる
せっかく従業員を採用しても、新入社員のスキルと与えられた仕事のギャップがあり、仕事でうまく成果が発揮できなければ精神的なストレスにつながり、最悪の場合にはそのまま離職してしまうケースもあります。
このような事態を防ぐには新入社員に合わせた人材育成を実施することが大切です。たとえば企業理念や事業内容、各部署の役割など所属する組織の理解を深めるための研修、オンボーディングプログラムなどを充実させるなどでサポートしましょう。
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人事評価制度を整える
組織にあった人事評価制度は従業員満足度を高めてくれます。給与などの不満を減らしたり、業務内容と従業員本人の適性のミスマッチを防ぐことにもつながります。
適切な人事評価制度には従業員の成果を公平で客観的に評価していること、そしてその評価が給与や賞与に反映されていることが大切なポイントです。
自社の状況を可視化し、従業員満足度をあげよう!
2030年問題は一朝一夕では解決しない問題で、企業はこの問題を避けて通ることはできません。
まずは自社の現状の従業員満足度がどうなっているのかを可視化してみましょう。そして既存の従業員が健康で長く生産性をあげながら働いてくれる環境を整えていくことが大切です。このように環境を整えれば、自然と新規採用時のアピールポイントにもなります。
いまからしっかりと対策をして高齢化社会にも負けない組織づくりを推進しましょう。
